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第一章:旅館修復の始まり 2

静たちは、月影館の象徴である温泉の修復に取り掛かるため、まずは現状を徹底的に確認することにした。湯船の奥へと進むと、長い間使われていなかった痕跡がありありと残されていた。周囲には苔が生え、湯船の縁は黒ずみ、ところどころ木製の板が腐りかけていた。湯の流れを導く管は詰まり、わずかに湿気を帯びた排水口からは、かすかな異臭が漂っていた。


「こりゃ、相当手間がかかりそうだな。」

グリゴルが腕を組み、ため息を漏らす。彼の表情には、これが一筋縄ではいかない仕事であることがありありと表れていた。


静はその隣でじっと施設の様子を観察していた。自分の指で湯船の縁をなぞると、指先に苔がぬるりと付着する。しばらく放置されたままの木材は劣化しており、このままでは客を招くどころか安全すら確保できない。


「湯船の板も取り替えないといけないわね……」

静は真剣な表情で呟き、メモ帳に次々と修理箇所を書き込んでいった。


湯船に続く道は荒れ、苔だけでなく、長年の湿気によって木製の柱や床も腐りかけている。軽く足を踏み出しただけで、板がぐらつくのを感じた。


「まず、床と柱を補強しなければ安全が確保できないわ。」

静はため息をつきながら言った。


エリオットも調査の結果をまとめていた。


「床の補修用に新しい木材が必要です。それから排水設備も確認しましたが、土砂や枯葉が詰まっていました。このままでは水がうまく流れません。」


排水口にしゃがみ込んだグリゴルが、溜まった土砂を掻き出しながら不満げに呟く。


「長年放置してたもんだから、下水管まで根詰まりしてるかもしれねぇな。こりゃ手間だぞ。」


「排水を直さない限り、温泉は使えないわね。優先的に対処しましょう。」

静は覚悟を決めた表情でそう言い、次の課題に目を向けた。


次に、湯を供給する設備の確認を行った。月影館の温泉は、自然湧出の源泉から湯を引いており、ボイラーを通じて適温に保たれる仕組みだ。しかし、調査を進めると、源泉へと続く管が一部崩れており、ボイラー自体も錆びついていた。温泉の心臓部ともいえる設備が、このままでは稼働しない。


「このボイラーも相当古いですね。新しい部品を手に入れるか、部分的に作り直す必要がありそうです。」

エリオットが静かに言った。


静はボイラーの表面を撫でながら、小さく息を吐いた。


「設備全体を新調するのは予算的に厳しいわね。でも、部品交換だけで済むなら、それを最優先でやるべきよ。」


「そのためには、まず部品を取り寄せないと。」

エリオットが冷静に提案する。


「時間もかかるが、やるしかねぇな。」

グリゴルも同意し、排水やボイラーの修理が最優先課題となった。


湯船自体にも問題があった。使われなくなってからの年月の間に、湯船の底には細かなひびが走っており、水漏れの恐れがある。


「このひび割れを見逃していたら、お客様が入浴中に水が漏れてしまうかもしれないわね。」

静は湯船を見つめながら考えた。


「新しい防水処理が必要だな。俺に任せてくれ、きっちりやるさ。」

グリゴルが力強く請け負う。


静はその頼もしい言葉に微笑み、感謝の意を伝えた。湯船にひびがあるままでは安心して使うことができない。そこで、特殊なコーティングを施して水漏れを防ぐことが決まった。


静は、温泉を修復することが単なる施設の修理にとどまらず、月影館を再び繁栄させるための大きな一歩になると感じていた。この場所は、冒険者や旅人が集まり、体と心を癒すための場所だ。そのためには、ただ温泉を再開させるだけでなく、客が「また来たい」と思うような体験を提供する必要がある。


「温泉の修復が完了したら、私のマッサージもセットで提供するわ。」

静は心の中でそう決意した。お客様の疲れを癒すための心のこもった施術――それが、旅館を再び繁栄させる鍵になると信じていた。


こうして、温泉の修復作業が本格的に始まった。

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