第一章:イベント開催 4
イベント当日。いくつものトラブルを乗り越え、静たちの準備はついに整った。それぞれが困難を乗り越える中で、成長し、強くなっていた。館内には湯気が立ち上り、特別料理の香りが漂い始め、訪れたお客様を温かく迎える準備ができた。
リリィはこれまで何度もミスをして落ち込んでいたが、今回は違った。イベントの朝、彼女はいつものように元気に動き回り、清掃と準備を完璧にこなしていた。
「よし、これでお布団もバッチリだね!」
彼女は静の言葉を思い出し、「失敗を恐れずに前を向く」ことを心に誓っていた。清掃用具の場所を確認し、部屋の隅々まで目を光らせるリリィ。その手際の良さに、静は驚きながらも嬉しそうに微笑んだ。
「立派よ、リリィ。もう一人前のメイドね。」
「ほんと!? やったー!」
リリィは飛び跳ねるように喜んだが、今回はちゃんと布団を崩さないように気をつけていた。その姿に、成長を感じた静は心の中で「これからも一緒に頑張りましょう」と誓った。
グリゴルもまた、これまでとは違う自分を見つけていた。食材のトラブルを経て、完璧な料理へのこだわりを捨て、「お客様のために心を込める」ことの大切さに気づいたのだ。
「よし、いくぞ。」
厨房では、彼が代替の食材を使って創作した料理が次々と出来上がっていた。特製スープには珍しいスパイスが効いており、焼き魚には独自のソースが添えられていた。
「完璧じゃなくてもいい。大事なのは、食べた人が笑顔になることだ。」
そう言いながら、彼は最後の皿を整えた。
料理が並べられたテーブルを見渡し、グリゴルは満足そうに頷いた。「これなら文句はない。あとは、お客様がどう感じるかだ。」
館内には続々とお客様が到着し、イベントはスタートを迎えた。温泉に浸かり、リラックスした表情を浮かべる宿泊客たちの姿が見られる。リリィが元気よく案内し、エリオットも笑顔でチェックインを手伝っていた。
「いらっしゃいませ! お部屋はこちらです!」
「お疲れ様でした。温泉をぜひお楽しみください。」
館内は活気に満ち、笑顔があふれていた。リリィが丁寧に布団を整え、エリオットが配膳を手伝い、グリゴルの料理が次々と客に振る舞われる。
「このスープ、最高だ!」
「魚のソースが絶妙ね。」
お客様から次々と褒め言葉が飛び交い、グリゴルは少し照れながらも嬉しそうに微笑んだ。
「ふん、当然だろ。」
彼は鼻をこすりながら、次の料理の準備に取り掛かった。
イベントが終わる頃、客たちは皆満足した様子で旅館を後にした。「また来ます」と声をかけてくれる客も多く、静たちは胸を張って見送った。
「皆、本当にありがとう。」
静は仲間たちに感謝の言葉を伝えた。
「これも静さんがまとめてくれたおかげです。」
エリオットが穏やかに笑いながら言う。
「いや、みんなの力がなければできなかったわ。」
静はそう言って微笑んだ。
リリィは「やったね!」と元気いっぱいに飛び跳ね、グリゴルも「これで文句なしだ」と満足そうに腕を組んだ。
イベントが無事に終わり、静たちは旅館の再建が本格的に始まったことを実感した。だが、これで終わりではない。次の挑戦が待っているのだ。
「この調子で、もっと素敵な旅館にしていきましょう。」
静の言葉に、全員が力強く頷いた。
イベントの余韻に浸る間もなく、静たちのもとに一本の電話が入った。それは近隣で人気を博している「魔法リゾート」の支配人からだった。魔法リゾートは、豪華な設備と魔法を使ったアトラクションで評判を集めている。古びた月影館とは正反対の、華やかさと利便性を誇る競合施設だ。
「こちらの再開記念イベント、大変盛況だったようですね。けれど、私たちも見逃してはいませんよ。」
電話口の支配人は、どこか挑発的な口調で言った。
「この世界では、魔法を使わない施設にどれだけの価値があるのか――私たちは、じっくり拝見させてもらいますから。」
静はその言葉に、胸の奥に冷たい緊張感を覚えたが、すぐに表情を引き締めた。魔法リゾートの支配人は、あからさまな敵意こそ見せなかったものの、競争心に満ちた態度を崩さなかった。
電話を切った後、静は深く息を吸い込み、自分を落ち着かせた。「私たちは、魔法に頼らずに癒しを提供する旅館よ。それを証明してみせましょう。」
彼女の言葉に、仲間たちも無言のまま力強く頷いた。静たちの目には、決して負けないという強い決意が宿っていた。
こうして、月影館の次なる挑戦が始まる。再建したばかりの旅館に、魔法リゾートという強大な競合が立ちはだかることになった。だが、静たちは仲間たちと共に、この新たな戦いに立ち向かう覚悟を決めていた。