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騙し打ち

流石に巻き過ぎた感ある。

白の髪がストレスで輝きを失っていた。だが、笑顔になれば神秘的だろうと信じて笑わせてくれる人はいる。自分が返せるのは、ガスの抜けた笑いだけだ。決まってその後は泣いてしまう。・・・それがストレスによるものでないからと、皆は続けてくれていた。

その手元の端末がどれだけ情報を有していたとして、悪天候の元買い占めに走る人間は止められない。医学を与えたとて信じない、寧ろデマが広まるとか。結局人は宗教に縋るしかない。それが今は機械と科学であるだけだ。

「・・・なんだっけ。」

自分は、言語野を破壊された為、会話が定期的に途切れる。

人間は美しさこそあるが、それは時代と共に変わるもの、変化しない価値観もある。それは絶対美人型であったり、潮流に合ったものであったり。

彼はもう人間の様な心は持ち合わせていない。動かない犬の様な、笑いを笑いとも思わない複雑な顔をしていた。

目に力が入る時は、涙の時でも、笑う時でもない。寝る時に、嫌になって、目を逸らしたくて閉めるのだ。

死ぬ方法が分からない、生き方しか分からない。

痛い事をし続けたら死ねるのか?

だが、皆は生きろと言う。

生きなければいけない、死ななければいい。

どうやったら死ねるか、それも理解出来ずに。


ほぼ全身に傷が残り、目が覚めた頃には原型は無かった。別の人の身体を使い、自分という人間は作られた。

赤の瞳はルビーの様に血が濁り、白の肌は怒りに煮え滾り青と赤に染まり、髪色は黒に荒んでいく。


彼の心を形成・・・立て直した恋はこれで最後か。

「・・・。」

最早彼は枯れている。彼を再現した身体も、髪色と赤の目、荒んだ心以外残っていない。解き放たれたと思えば、別人の感覚が逆流してくる。

彼に一番近かったのは、雫と硝子の中間の様な女だ。彼女は珈琲で生きている状態に戻す。

彼女は優しいが、悪辣だ。しかしその上で関与している。

人生の価値は、己で見つけるものだ。

人生の価値は、己が補完するものだ。

人生の価値は他人に決定されるものでも良いが、しかしそれは己自身が望んだものでなければいけない。

人生の価値は、他人の所有物であってはならない。

だから、自分に価値は無い。価値の無い人生を他人が支えているに過ぎない。

その絵は、何よりも美しい。

その絵は、人生だろうか。

それは最果ての道である、人生の末路である。価値があった名残である。

人生があって、崩壊があって、過去をリスペクトしている。

涙と共に、その真心が紐解かれる。

涙で絵が崩れようと、それは鬱苦しい。

優しくはない、嬉しくもない。奪われているから甘いのだ。


もう一人、やたら干渉してくる人物。彼女も優しい人間だ。スパルタ気味に言語を教えてくる。

言語の問題は発話が単純に練度不足、文法や単語の記憶に関しても問題アリ。

機械作業が得意なのは良いが、言語が不安定だと社会どころかAiとの対話も難しい。今の所最もAiとの対話に使えるのは膨大なデータが存在する言語によるプロンプトしかない。

日本には言葉の多様性がある。同じ言葉でも微妙に違い、最近は横文字に寄っているが、正式名称でこっそり作っていたり、言語が違う影響で由来や意味が分かりにくい状況になったりもする。

日本語から他の言語は楽だが、その逆は難しい。

その多様性や自由さは、言語としてあまりに研鑽されている。創作においてあまりに都合が良い。

絵の様に機械を手繰る。人形や絡繰の様に精密に動かす。


・・・とまぁ、彼のを助ける二人はあまりにも噛み合わない。これ以上負担をかけない、負担を掛けてでも人間らしくさせる。思想が先ず合っていない。平和の為に兵器制限と勢力均衡を主張している様な関係性、それぞれ違った結末が待っている。

接触せずにいればどうとでもなったが、思春期、中学生の中盤頃になると変わってくる。

彼は絶対なる美ではない、燻った宝石だ。誰にでも手に入る様に錯覚する、そういう宝石だ。

絶対なる美を終えたが為に、それは馴染み易い夢となった。

その結果、彼女等の接触は一触即発、危険なものとなった。

「別に、自分は彼がどうなろうと構わない、自分は只彼が自分を好いてくれれば良い、別に相手も作れるし。」

優しく、陰鬱に。しかし彼が望む形かどうかは知った事ではない。

「いやいやだってそうだろう?彼は人間として幸せを経験した事はない、不幸を避ける事なく、不幸を研究し、挙句の果てに幸せを知る事はなかった。」

それも事実だ、これも事実だ。彼は精神を疲弊させ、倒れる事もあった。人間として社会に返すか、人間として、せめて人間らしくしてから返すか。

「私を離しても構わないよ、彼の精神は続かないだろうね、廃人の様に、ああ、また廃人の様に。」

保証も約束も出来ない、一人に責任を持てない。それが自分の総意であると。

「彼に選んで貰えば良い、それだけの話だろう?」

・・・絶対なる自信、付き合いの長さ。他人に依存した彼にどうにかする必要は無い。ならば、その絶対なる自信を打ち砕いてみせよう。

その舐め腐った態度をも。



彼女は服を何枚か見て、傾向を調べあげる。

推測して服を通販で注文、安物ばかりだ。

化粧を再現し、髪は色を染め上げて再現、長さを少し変える。

「よし、完璧だ。」

嘗て子役として生き、今は引退。芸能界の闇を見て来たオトナな少女が、社会人として彼に教える。口調も声も再現し、残りのピースは意表を突いてカバーする。

彼女が正義と彼を信じたのは、彼の気持ちを理解出来ているからだ。子役という枕営業、学業、誹謗中傷、親のトラブルと言った吐き気の募る中で、彼は同じ症状を見せている。

彼は・・・自分より辛い人間だ。

「・・・よし。」

子役を捨てた自分が、あの日以来演技に清々しさを感じる事は無かった。だが、彼の為、それ以上に初めて自分の信念の為にこれが出来たのが、無性に嬉しかった。

人生は、努力の連続だ。

それによって価値を示し、名残惜しい一生物の衝撃を与え、未練だらけで物足りない一生の痛みを残すのだ。

その幸福を躊躇うのは、卑怯であり怠慢である。

朝の十分程度、彼を可能な限り騙す。

「やぁ。」

「・・・あぁ。」

彼はやる気を少しだけ増した状態で声を絞り出す。目は暗闇の中、赤く、しかし暗い。得体の知れない瞳ではない、あまりにも浅過ぎる底なのだ。それを蓋だと思っているだけである。

人間として薄い構造を、どう活かすか。

声帯を模倣し、出来ない場合は香辛料を加える。コーヒーに近い物を使えば再現性が高い。

彼は見抜いているかどうか、それは分からない。多分そこまでの興味を示してはいない。

だから、この女の本当の価値は外見と立ち位置にあるのでは、と思う。

完璧で、それ以上の模倣が出来る。

「そういえば、今日、私は約束があるんだ。君も必要だ。」

「・・・そうなのか。」

「そうなんだよ。」

一旦保留する、チラつかせても意味はなさそうだが、彼はそういう事は忘れない。一瞬一瞬に向き合った人間だ。

時間では絶対に自分は勝てない、だが、自分はそも時間を覆す事が出来ない訳ではない。

自分でないからこそ、他人の上位互換となれる。

彼は美しいから格好良いや凛々しいという事は無かったが、可愛らしくはなった。

「私が君とどうして話すか、それを教えておこう。」

「?」

「それは正義の為、さ。正義の為に自分は生きている。君を助ける事は正しい事だ、君が生きるのも正しい事だ。世の中10%位は死んでも問題無いが、生きてた方が大抵の人間はいいものさ。」

「・・・。」

少しでも嬉しくなったか、顔が少し上がった。

「これからも機械化が進む時代で、君は選択を迫られた。どう生きるか、どう残すか。Aiに頼って人生を快楽に捧げるか、苦痛を選んででも人生の後悔を晴らすか。」

「・・・。」

「一分一秒の刻刻と切り替わる時間の中で、私達は秒速30万kmの世界に存在している。それを少しづつ空間に割いていく、そんな僅かな努力で一生が決定され、しかし人類の評価が上がる事はない。」

「・・・。」

彼女が息を装填した、一瞬満たず、過去の栄光は、新たな夜明けとなる。その黎明が声の争点を明るみのものとする。

「君は、光にはなれない。だが、だが、音の様に無数の余波と雑音を咲かし!全力で他人の元に届き!それが僅かなものであったとしても!!・・・それは、徐々に他者の運命となるのだ。」

絶対なる個、それは難しいが、相互的な存在としては在れる。自在に増え、自在に伸び、自在に響く。

その絵は、価値を少なからず与えた。

絵は、誰の為でもなかった。だが折られた。

誰かの為であった絵は、しかし焼かれた。

もう一度誰かの為の絵を書く時に、彼女は言った。

「君が笑顔でいる事は、何よりも美しい絵なんだ。それは絶世の美であるからではない、無情で美しいんだ。悲しげで、でも笑うから価値があるんだ。」

これは、自分の姿だと信用してくれないだろう。だからこうするしかなかった。後は少し細工をして、残りの勝ち目も貪ってやる。

「私、少しやりたい事があるの。」

そう、腕を強引に奪う。舵を取り、前に進む。

これで手は打った。



さて、これで最後だ。

「君と僕、どちらを選ぶか。」

その選択は直ぐに返ってくる。

自分が本当であるというのは疑いの余地も無い。

だが、その上で指が目指したのは。

彼が選んだのは、偽物だった。

「なっ・・・!?」

子役が笑った、それは女優になったという嘲笑で満ちていた。そして盟友・・・否、名優に目を向ける。

「種明かしが必要かしら、正真正銘の『種』をね。」

彼は薄い人間性だが、それに価値や厚みを与えるなら・・・それは人助けだ。それは許す程度の事でも良い。

「匂いが違うのよ、彼もまた、自分の心を満たせる相手しか探してない。そして、それは幸せではなく不幸に向いているの。」

嫌われるかどうかは賭けだが、彼は違うと信じて。

「だから迷惑を掛けた方に肩入れする、ってね。」

彼女は自分の下着の染まり方を見せる。小さく、僅かな痕だ。でも分かる。小さいが故に分かる。位置が端過ぎる事も。

「才能と実力にしか興味が無い。個人としての価値は少ししか見出していないさ。」

だが、その上で愛着を持ち、触れ合っている。

最低な女達に踊らされた彼は、比較的幸せな中を生きたのであった。



・・・だとすれば、何故彼にその女達は居ないんだ?

何故か眠っている最中に彼の過去の情報をインプットしていたらしい。・・・もしかして、あの医者か?

・・・多分、そうだろう。

・・・自分が守らねば。そうでないと、彼はまた苦しむだろう。

今後も多少物理学は出てくるので私の別作品から引っ張ってきた解説。

光速度不変の原理とは、『時間及び空間を足して秒速30万kmとなり、それ以上にもそれ以下にもならない』つまり交通の際にある速度制限とは全く別の上下する事がない速度制限が存在するという事だ。移動が速い程空間に値が偏り、遅い程時間に値が偏る。

→まぁどの道どの人間も大した事出来ないし立ち止まってるみたいなもんだから気にすんな・・・って意味合い。


さっきまで温泉旅館(貸切)の更衣室でフルチンAGスプレーサバゲーやってました。女将さん曰く『壊したら弁償するなら良いですし、監視カメラは切っておきますから存分にお楽しみください』との事。

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