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最低最悪の恋をしよう

このテープは、ある女によって記録されたものである。


人間は常に努力をする必要がある、それから逃げるという選択肢もあるが、責任や結末からは逃れられない。努力は成功の為に必要な確率を上げる儀式である。人は運に縛られた上で、その選択をしなければいけない。

電野鋼平は生まれつきサヴァン症候群という病を抱えていたが、齢三歳にしてその脳を実質的に失った。

人間離れした白の透き通った髪、赤の目、蒼白になりゆく肌。アルビノだ。彼は色という知らないものを自らの努力で手に入れ、幼少期から卓越した絵の技術を手に入れた。

問題は母親だ、同人誌活動の漫画を容易く否定され、同じペースで描けば扉絵は圧倒的な差を誇る。

絶望する様な距離ではなく、子供だから、異常だから、人間でないから。それを理由に暴力を振るい続け、脳に傷が残った。自閉症がそれを伝える事を許さず、苦しめた。

会話が出来ない、孤独な子供。

しかし白く、優しい子供。

馬鹿で愚かで、救いようがない。

手を折られようと口で描く子供。

それしか自分には無いと。

熱湯や冷水ならまだいいが、傷が付かないように丁重に内側を壊し、用法を破った薬の使用・・・乱用をさせる。

姉はそれをジッと見ていた、当たり前だと思っていたが、それが普通ではないと言うのを数年越しにやっと理解した。

だが、怖かった。取り乱した顔が見るに堪えない、醜悪な色をしていた。

「大丈夫、大丈夫。お姉ちゃんが居るから。」

夜の間、目が覚めない中、姉はその愛撫を続けた。

深く、奥底に抱き締めて、決して気付かれぬ様にと。

「愛してるよ、鋼平。絶対に。」

少しずつ成長する度に、その夜にも目を覚ます。時に暑さで、時に寒さから逃れる為に近付いたり離れたり、しかし、大抵はもっと深く抱き締められる為だった。

「・・・ママ・・・。」

憎悪に翻った、吐き気と悪寒がする、抱き締めるのを強くして何とかこの気持ちを抑えている、だが、これは・・・。

殺意だ、あの不名誉を殺意の扉にしたのだ。

・・・だが、逆に言えば・・・と考えて、何とか・・・。

「優しい・・・優しい・・・愛してくれるママ・・・。」

その強い締めつけは変えず、怒りから憐れみに変わる。

「鋼平、私がママよ。貴方のお母さん。」

そう言って、この家から去る準備をした。


三日もせず家を出た。彼のふとした瞬間の絵、緻密に街を再現した絵だ。・・・写真より遥かに大きく、そして得体の知れない味がある。

「お姉ちゃん、今日も稼げたよ。」

「偉いね、コウちゃん。・・・そろそろご飯だからね。」

ある一家・・・カジマ一家だ。外交の為に絵を提供し、その正確無比な巨大なキャンパス・・・デジタルのデータが破壊され、写真は小さ過ぎるが故に盗まれ易い。チェキと絵はこの時代、セキュリティ的な価値が高くなっていた。それも後押しし、ウケがかなり良かった。・・・大々的にした訳ではなく、太客にのみ行った。

姉は家事の量で圧倒した。別荘を任せ、そこに住むカジマの息子や親戚の世話をしていた。幼い身でありながらその量に感心してしまい、ロボットの扱いも上手く、電気代も相当落ちた。・・・こちらも学習し、データを提供された場所は同じように電気代の節約になったそうだ。

「君達に報告がある。」

「何ー?」

「何何ー?」

「都市用のパスを作成出来た、これで君達が恐れる親と会わずに済む・・・私としても手を出されると困るからね。対等な取引という奴だ。」

「おー。」

「すごいね!」

「君達よく分からない時はスタンプみたいな会話するよな。」

「スタンプはハラスメントってギリギリ言われてませんからね。」

「残念だが不気味な中年男性が言ったら大体ハラスメントにされるんだよ。」

「ま、それでカウンター受けるのは誰か目に見えているからこそ控えた方が良いと思いますけどね。」

「うん、そうだね。正誤問わず大人になるまでに色々試して反省するといいさ。正しさなんてその後に決まる。」

信頼もされて、楽しい暮らしをしていた。腕と口を止めず、動かし続けた。画材を変える事もしばしば、しかし質は殆ど変わらない。

楽しい、満足だ。

このまま生きて行けたら幸せだ。

これからが人生だ・・・。


・・・少し、見通しが甘かった。

あの親は、兄二人に吹き込んだ。

『カジマの六男は孤立している、そして弟と妹を攫った張本人だ。ミサイルの実験を利用し、屋敷ごと焼き払え。彼等が仕事をしている間であれば巻き込む心配は無い。』

彼等にも絵の才はある、だから一枚の絵が完成した後であると確認し、彼等が身を守る為に都市に向かった瞬間を狙った。

・・・そう、彼等が何枚も絵を描いているとも知らず。都市を探しても彼等は居ない、どこに行っても彼等はいない。


背中は、内臓と骨の近くまで爛れていた。

姉は近い内に亡くなった、あの親のせいだ。

「・・・殺す。」

後にも先にも、その選択は一度だけだった。

兄も、逃がしてやるつもりはない。

「・・・殺す。」

脳が壊れ、記憶は失われた。

「殺してやるよ・・・!」

それでも、殺意を只管滾らせて。


カジマの兄弟は、末っ子である六男がかなりのバランス感覚で支えており、長男・次男と親戚の支える勢力、父と三男・四男・五男で支える勢力の二つがあった。その中で外部の投資家がそれはいかんと擁立したのが彼だ。彼と投資家はカジマの均衡を維持し、尚且つ争いを継続させる事で技術や交渉先の拡大を狙った。

・・・もし、彼が死んだ時は。和解という道は閉ざされるのだ。ミサイルで吹っ飛ばされたが、型はカジマのそれ・・・提供したものの可能性もある・・・だが、宣戦布告の様なものである事に変わりはない。片方を素早く潰せば、拡大した利益が全て手に入る。

さぁ、戦争の幕開けだ・・・だが、鋼平は逃がされた。彼の部下が僅かな命で、追われない様な場所へと。



その傷は残り続けた、親は逮捕によって消えたが、それは父親の育児放棄となっただけだ。姉はこの世に居ない、その中で一人生きていた。遮って、黙々と。

人との距離感は視力の弱さ故に近かった、彼は別に悪い外見ではないし、寧ろ神秘的だった。顔は傷次第でバレるし、姉が丁重に守ったものだった。名残でもあった。

自分はまた、薬物を盛られた。ホルモン剤だ、男女どちらのものかは分からない、不安になったり、吐きそうになったり、血便が増えて、太りやすくなった。髪の毛の抜けるペースも増え、体内の水分は偏って脱水症が頻発化した。医者はどちらもだと言っていた。

何度吐いたか、拒食症だろうか、薬を飲まされると怯えて喉に何も通らない。

記憶が足りない、記憶が少ない。

学校に行くのが物理的に辛くなった。その神秘が崩れていく中で、自分は嫌われた。誰にも振り向かず、崩れ落ちた。

自分は病院でよく見る女の子に手を差し伸べた。その子は変わらない赤い目を信じてくれていた。

「髪、白くて綺麗だね。」

「目、赤くて楽しいね。」

「肌、柔らかくていいね。」

彼女は、自分と比較してもかなり大きい。

だが、話し方は何一つ自分と変わらなかった。

「腕、傷だらけでかっこいいね。」

「足、感情豊かで面白いね。」

「お腹、ぐるぐる言わせてて可愛いね。」

全ては俯瞰して見てくる。姉の様な人だから、無性に離れ難かった。

優しい人だ、だから触れるのが怖い。

絵のように、一度描けば離れてしまうのだろう。

だから描けない。

何年も彼女と過ごす内に、自分の成長は彼女に追い付いた。だが、まだ少し届かない。

これでいいんだ、これで。

もう昔の様な苦しみはないのだ。

だから、これで幸せなんだ。


電気メスの魔術師、その師である人物は言った。

「彼女が誘拐された・・・いや、誘拐と言うべきかは迷う所だが、刑事部はそう看做して問題無いとの事だ。向こうは責任能力なし、アレを人間と言うならアメーバも人間にしていい位の馬鹿だ。」

「私が行きます。」

「・・・精神鑑定が必要になる。刑事部に同行して判断し、回収してから護衛部に依頼、一連の作業は任せた。」

「勿論です。」

カルト組織、彼女の母親が所属する場所。最近女子供を誘拐し人口を増やすという事をしているらしい。

「・・・許されぬ事だ。」

「目的は全員の抹殺と突撃部は言っています。」

「・・・ああ。」

彼等は何かを知っていた。


彼女はすぐに助け出され、事件は秘密裏に息絶えた。

「・・・久しぶり。」

彼女は無事だ、銃創の為肩が痛むから腹回りより上はダメと止められた。

その筈なのだ。

だが、不幸はいつだって背後から迫ってくる。止まれば追い付かれ、人間は不意に刺される。

不幸は何時如何なる時も迫り続け、その中で我々は生きる必要がある。

・・・彼女は、シンギュラリティに追い付かれた。生き続ける中で、迫り来る死に、遂に追い付かれた。


首元に、強く掴んだ跡がある・・・自分が離そうとした。血が滴る中、進もうとしたその時・・・。

「やめろ!死ぬぞ!!」

空白と共に止まった。

「・・・あ、いや、感染症の警戒だ。」

彼女の残骸は回収された。

ああ、彼女は死んだのだ。

人間は死ぬ生き物なのだ。

人間はあの時も、この時も、あっさり死ぬ生き物なのだ。

「・・・なんでだ・・・。」

なんでだよ。

・・・それは一つ言える事があるとすれば、人と関わる事じゃないか?

拒食症を治したのは、PTSDであった。

吐き続けていたら、自分は死んでしまうと。

彼女は蘇生されない、その金は無い。自分も金は無い。金が無ければ生きていけず、そして、生きてはならない。その金は、人に支えられた価値でしかない。人が死ねばそれだけ価値が無くなる・・・その上で無視されたのだ。


魔術師は諦めず、助けた。蘇生を実行した。しかし、彼女は再現出来ない。あの無垢を再現する事は叶わない。

彼女の遺体を調べた所、脳の各葉がバラバラのサイズをしており、全てのスペックが乱れている。言語野が特に弱く、運動や行動も弱いが、思考や観察は圧倒的に高く、その脳の一部を入れ込んだだけで情報量が多くなり、脳の容量を圧迫する。記憶量も異常だ。

「身体検査を行った際、多分調べられている。この事実が露見する前に逃がさなければ・・・。」

そうしなければ、ホルマリン漬けは最低でも決定される。

偽物の遺体は盗まれ、バラバラになって捨てられていた。それが現実でも起きる。やはり何かある、その影におぞましい計画が。

・・・これを、意地でも止める為に。

ジェネリック瀬奈


私設警察カガの部署一覧

刑事部

鑑定部

突撃部

護衛部

特務部

支援部

カガは厳格な正義でポピュリズム気味な組織、トップはそれを利用しつつもちゃんと正義の人。鋼平が生きてるのも何かとこの人達関係ですが・・・出番は少ないので設定程度に思ってください。

ちなみに公設警察は役立ずなので指示を失って税金関係で解体になりました。

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