第七羽 脱出
僕は瑠香さんが他の病室に点滴をしに行く時間を見計らい、病院を抜け出した。
この病院の見張りは瑠香さんが唯一厳しいだけで他の人は緩いから簡単に出来るのだ。
なるべく明日の検査でばれないように走らずに急いで病院近くの本屋に向かった。
『ブックストア・スノハラ』と書かれた看板が表に飾られている本屋にたどり着き、中に入ると見知った顔が目に入った。
「あれ? 紅じゃん。退院したの?」
前掛けをつけて本棚に本を整理していたサワヤカ君は僕の幼馴染の一人で『ブックストア・スノハラ』の一人息子である鷲原翼である。
翼は作業していた手を止めて僕に近づいてきた。
「パジャマ姿だからそれはないか。抜け出してきたの?」
「うん。とある女の子のわがままを聞くためにね」
「?」
僕の言っていることの意味がわからなかったのか、翼はサワヤカフェイスを少し傾げた。
「まぁ看護師さんたちを困らせないようにね。それよりここに来たってことは本がご所望かな?」
「そうそう。この紙に書いてある本を買いたいんだけど……」
僕がナユから受け取った紙を翼に見せると翼はそれを右手に取った。
「ふむふむ……このジャンルは確か……」
翼が僕をその場に取り残して奥の方に消えていった。
僕は翼が戻ってくるまで近くの本棚の本に手を出した。
『ドキッ!? 女の子の気持ち』
『苦難を乗り越え性転換』
『男を捨てた男たち』
……うむ。
このコーナーの本は僕には合わなそうだ。
本を探す手をとめるとちょうど翼が戻ってきた。
「三つは見つかったけどあと一つはここにはないみたい」
「ならとりあえず三つでいいよ。もし入ったらおしえてくれればいいし」
「悪いね。でもすぐに入荷できるだろうからお見舞いついでに届けてあげるよ。紅が抜け出したら看護師さんたちに迷惑がかかるだろうしね」
うん。なんて良い親友なんだろうか。
こんなに良い性格で、こんなに良い美貌の持ち主だなんて神さまも不公平なことをするものだ。
翼が唯一ダメなのは運動くらいだ。
「じゃあお言葉に甘えさせてもらうかな」
「いいよいいよ。じゃあ三冊で千四百八十五円になります」
僕はポケットの財布から二千円を取り出しておつりの五百十五円を受け取った。
「じゃあ看護師さんに見つかるとやばいから帰るよ」
「退院してからも『ブックストア・スノハラ』をよろしく~」
翼はサワヤカに手を振って僕を送り出してくれた。




