第二十九羽 救助
「あ~む」
「てか、そろそろ骨折治るんじゃない?」
「んむむむん~」
「……ちゃんと飲み込んでから話しなさい」
「んむ」
今日もいつものようにお昼を食べさせてあげる。
「あと一週間ぐらいで治るって猿渡さんが言ってた」
「そうか」
あと一週間でこの恥ずかしいのは終わるんだな。
うれしいような寂しいような。
「コウがやりたいなら治ってからもしていいわ」
「誰がっ」
「そう。ならいい」
「……ナユがして欲しいって言うならしてもいいけどね」
「べ、別にして欲しいなんて言ってないわよっ」
もうちょっと僕の前だけでもいいから素直になってもらいたいものだ。
「それより早く食べさせて」
「はいはい」
今は気にせずにナユにご飯を食べさせてあげるかな。
ナユに全部食べさせてあげてから自分の食事を取る。
僕が食べている間はなぜかナユが僕をじっと見つめている。
なんだか一週間で見つめられるのにも慣れた。
慣れって恐ろしいね。
「やほ~紅クン、那由多ちゃん」
突然ドアが開いたかと思うと、そこにはリコ姉がいた。
「んぐっ……な、何でリコ姉がっ」
「いんや~紅クンが那由多ちゃんに手を出していないかちょっと心配になってさ~何もなさそうで一安心」
……本当に僕って信用されていないんだなぁ……
そんなに信用を失うようなことを一回もしたことがないんだけど。
もしかしたら物心がつく前にリコ姉に何かしたのかな?
いや、それはないはず……
「まぁ紅クンが気になったのもあるけど、那由多ちゃんと話したいな~と思ったからさ」
「自分?」
「そうそう。こんな可愛い子をスルーするほど私は甘くないのさ~」
「あぅ……」
リコ姉に可愛いと言われて、顔を赤らめて俯くナユ。
これは見ていると面白いかもな。
ちょっと傍観者になってみようかな。
それにしてもリコ姉が初対面の人にこれほど興味を持つのは珍しいな。
大抵は作り笑いを見せて、軽くあしらうのだ。
「ねぇねぇ~私、那由多ちゃんのことを知りたいな~」
「えっと……その……」
ナユがこっちに助けを求めてくるが、敢えてそれを僕はスルーをする。
おどおどしているナユを見るのは楽しいな。
普段と違うナユが見れるのはいいなぁ。
「うぅ……」
「おしえておしえて~」
「な、なにから……」
「ん~どうしよっか~まずはあれも知りたいし、これも~……」
「あぅぅ……こぅ~……」
可愛らしい声を上げながら僕に助けを求めてくるナユ。
上目遣いでそんな風に言われると恥ずかしいではないか。
「しょうがないなぁ……リコ姉、その辺にしといてあげなよ」
「それとそれと~……ん? 何よ~」
「ナユが困っている」
「むむ~紅クンがそう言うなら仕方ないわね~」
ようやくリコ姉から解放されたナユは肩を撫で下ろしていた。
今度何かお礼でもしてもらおうかな。
「ふぅ……」
「じゃあ三人でお話しましょ~」
それから僕も話に加わって、ナユのこと、リコ姉のこと、僕の過去をお互いに話した。