第二羽 約束
次の日、朝の検査を終えてから瑠香さんに呼び出されてナースステーションの前までやってきた。
昨日病室を抜け出した分を叩かれると覚悟して待っているとニヤニヤとしながら瑠香さんが近づいてきた。
「よ~不良少年」
「どうかしたんですか? 不良ナースさん」
「不良はもう卒業したっつーの。それよりアンタ、昨日の子を忘れてはないよな」
「……はい?」
「ソラからの女の子だよ。アンタの頭は三歩で忘れちゃう鳥頭かい?」
「それが?」
何故その子が今話に出てくるのかわけがわからない。確かに昨日の夜から気になってはいるが。
不思議そうな顔をしている僕を見ながら瑠香さんが更に聞いてきた。
「コウ、昨日の分の叩きをナシにしてやろうか?」
「は?」
「こっちの条件を飲んでくれりゃナシにしてやんよ」
「……条件って?」
この人がこんな風にいやらしい笑みを浮かべて出してくる条件だ。
割に合わないことを言われて大変な思いをする可能性もあるから僕は警戒をしながら尋ねた。
「簡単なことさね。昨日の子の相手をしてくれりゃいいさ」
「……は?」
思わぬ条件に拍子抜けしてしまった。
ニヤニヤとした笑みを崩さぬまま瑠香さんは僕を見つめてきた。
「ま、あと笹原医師からの伝言は伝えとくわ。『猫羽君は一週間入院延長ね』だと。アタシの読みは当たったね」
僕の面倒を見ている医師のマネで、ない眼鏡を直しながらそんな死刑宣告のようなことを言ってくれた。
「しかし考えてもみなよ、猫羽少年。入院期間が延びたってことはあの子とのふれ合い期間が延びたってことだ」
「う……そりゃそうですけど……」
「それとも今ここで叩かれるかい?」
そう言って瑠香さんは自分の履いていたスリッパを片方脱いで右手に握った。
そんな守護霊に般若がついていそうな気迫にビビって思わず僕は無言で頷いてしまった。
その反応を見た瑠香さんは満足そうに頷いてスリッパを履きなおした。
「じゃ、彼女の部屋番号をおしえとくから十時に来なよ?」
「何で十時?」
「アタシが彼女の面倒を見るのが終わる時間と入れ違いになるから監視も兼ねてちょうどいいんだよ」
「……もし行かなかったら?」
「それはもう……ねぇ」
後ろにいる般若が睨みを効かしている雰囲気が瑠香さんの笑顔から感じとれて思わずちびりそうになったのは秘密だ。
「わ、わかりました。行きますよ」
「よしよし」
ようやく後ろの般若を引っ込めて普通の笑みを見せてくれた。
この人の普通の笑みは綺麗なのになぁ……って言ったら叩かれるだろうな。
「じゃ、頼んだよ」
瑠香さんは僕をナースステーションに放置して特別病棟に消えていった。