第二十八羽 不安
「にゃ~……今頃ネコっちは何をしてるんだろな~……空閑ちゃんとイチャついているのかな~……」
今は昼休み直前の授業。
午後には授業と部活があるために、ネコっちのお見舞いには行けない。
「……であるからして~……」
世界史の教師の呪文のような言葉。
私の耳に入ってきているが、脳を素通りして逆の耳から抜けていってしまう。
次のテストは大丈夫かなぁ……
翼に教えてもらおう。
苦痛な一時間が過ぎると聞きなれたチャイムが鳴り響いた。
これでようやくお昼の時間。
「ねぇ刹那~一緒に食べよ?」
「あ、うん。いいよ~」
いつも仲良くしているクラスメイト達が私の周りに集まってくる。
これでも私は人気者なんだよ?
みんな、近くにある机を円く並べて、各々のお弁当を広げる。
私も自分で作ったお弁当を広げて箸をつける。
箸を動かしてお弁当を食べながらふと、ネコっちと空閑ちゃんのことを考える。
確かこの時間は病院の昼食の時間だったはず。
私も好きな人にあーんってしてもらいたいなぁ……
私の好きな人……ん~……
そういうの深く考えたことなかったからなぁ~
ネコっちは幼馴染の親友だし、翼も同じ感じ。
それにしても何で私、こんなにネコっちと空閑ちゃんのことが気になってるんだろうか。
「……ぇ。……ねぇってば」
「ふぇ?」
「刹那~ちゃんと聞いてた~?」
「あ、ご、ごめん。ちょっと物思いに耽ってた」
「刹那が物思いぃ~? 似合わねー」
「ぶぅ。私だって物思いくらいしますぅ~」
頬を膨らまして拗ねると何故だかみんなに笑われる。
まぁ嫌な笑いじゃないからいいんだけど、何で笑われてるんだろ?
そんなにおかしなことをしたつもりはないんだけど。
「刹那の顔から推測するに~……恋の悩みですな~?」
「ち、ちがうわよっ。私には好きな人とかいないし~……」
「……この娘、ホントに天然だわ」
む、何か悪口を言われた気がする。
まぁ優しい私は気にしないでおいてあげようではないか。
ん?何か文句ある?
「ま、いい恋ができるように精進しなよ~?」
「そういうマコはどうなのさ~?」
「アタシはカレとラブラブだからいいのよ~」
マコは彼氏がいて羨ましいなぁ……
私だって作ろうと思ったらいつだってできるもんっ。
「クラスの男子は何でこんなに美人な刹那をほうっておくのかねぇ?」
「え、私は美人じゃないよ~」
「アンタを美人と言わずに誰を美人と言うっ。アンタは自覚しなさいっ」
むぅ……怒られた。
そんなに美人なのかなぁ。
自分の顔は自分では直接見れないからよくわからない。
鏡で見る自分も本当の自分であるかはわからないし。
「最近の男子は草食系だからチキンなのよ」
「そうかな~? まぁ私はまだ、恋はできなくてもいいし~私にはコスプレと言う恋人がいるっ」
「それって猫羽クンに着せるヤツ~?」
「もちのろんさ~何ならマコたちのコスも作ってあげるよ?」
「いや、遠慮します」
拒否られた。
マコはスポーツやっててスレンダーな体型だから絶対にチャイナ服とか似合うと思うのに……
私の頭の中で妄想が膨らむ。にゅふふ……
「……刹那って性格が残念だよね。顔はこんなにもいいのに」
「どういうことさ~」
「サドでコスプレオタクってこと」
「佐渡でコスプレ?そんなところでコスプレ大会はないよ~」
「……多分、字違ってるから。それにコスプレって大会があるんだ……」
あ、ばれた?
コスプレは見せ合ってなんぼのものだからね。
コスプレ界じゃ私は有名人なのだ。
「猫羽クンと付き合ったらどうなのよ~?」
「ね、ネコっちはただの幼馴染だよっ。それにネコっちには空閑ちゃんがいるし……」
「空閑ちゃん? 誰、その子?」
「ネコっちと同じ病院に入院している可愛い娘だよ。写真もあるよ~」
こないだデジカメで撮ったネコっちと空閑ちゃんの写真。
手を丸めている空閑ちゃんの写真をマコに見せる。
「……この娘も刹那の毒牙にかかったか……でも可愛い娘ね」
「毒牙って何よ~人間短い人生で自分に似合う服を着ないと~」
「それにしても猫羽クンとその空閑ちゃん、一緒の病院で一緒にいるってシチュはまずくない?」
「どゆこと?」
私がマコに尋ねると真剣な顔で言ってくる。
「猫羽クンだってあんな可愛らしい顔をしてても一応男の子だよ? そりゃ何かの間違いがあって……」
「ね、ネコっちはそんなことしないよっ」
「どうだかね~」
「おら~もう授業始まるぞ~弁当箱しまって席に着け~」
「うわっ。もうこんな時間っ」
慌てて弁当箱をしまってみんなそれぞれの席に戻っていく。
ネコっちが空閑ちゃんに手を出す……
そんなことはないはず……
今日は部活をサボって見に行ってみようかなぁ……
初めて視点を紅君から刹那ちゃんに変えてみました~
恋する乙女……なのかな?
鈍い人はとことん自分の気持ちにも気付かないですよね~
自分もとことん鈍い人の部類なので全然気付きませんw
まぁそれ以前に人に好かれていないかもしれませんが~