第二十六羽 ソラ飛ぶ理由
今回の結果は……
「あっちゃ~……負けちゃったか」
神経衰弱で刹那の負けだった。
刹那はこういう記憶系のゲームは苦手らしく、助かった。
二回連続でアレはキツイ。
「でも私がコスしてもいつもどおりだしな~人様に見せてるし」
「じゃあ一日、コスプレをしたまま僕らの言うことを聞くってのは?」
「ナイスアイディアだねぇ~あ……えちぃのはダメだよ?ネコっち」
「コウってそんな趣味が?」
「誰がするかっ!」
刹那の中での僕のポジションはいったいどうなっているんだ……
ナユも疑うような目で僕を見ないでくれ。
そんな性癖はない。
「あっ。もうこんな時間だ。私たちは帰るね~」
「また来週ね」
「あとは二人でね~……空閑ちゃんに手を出しちゃダメだよ?」
「誰が出すかっ!」
だからナユも疑うような目で見つめないでくれ。
刹那と翼が部屋を出て行って静寂が訪れた。
なんだか急に寂しくなった感じだった。
「……帰っちゃったね」
「うん。刹那のヤツがいなくなるとだいぶ静かになるなぁ」
「コウは戻らないの?」
「まだ少し時間もあるし大丈夫だよ」
ちょっと夕暮れを見ていきたいしね。
最近ここで夕暮れを見るのが日課になってきた。
あまり遅くなりすぎると瑠香さんにスリッパで殴られるが。
「……ねぇ……自分ってあとどれくらい生きられるのかな……」
「えっ……」
ナユの今まで聞かれたことのない問いに思わず驚いてしまった。
ナユの顔を覗いてみると夕日に照らされていて赤くなっていたが、顔色は暗かった。
「コウたちと会ってから元気にはなってきたけど、決して何年も寿命が延びるわけじゃない。せいぜい一、二年だよ。死ぬまでにソラを飛べるのかな……」
「……大丈夫だよ」
何の根拠もなかったけど口が勝手にそう動いていた。
ただの気休めにしか聞こえないかもしれないつまらない言葉。
「大丈夫。ナユが強く飛びたいって願っていれば飛べるよ。神様が叶えてくれなくても僕が……いや、刹那たちに言ったらあいつ等だって手伝ってくれる。僕たちがナユを飛ばしてあげるよ」
「……本当?」
「うん。そういえば今更だけど、何でそんなにソラに飛びたいの?」
初めて会ったときから気になってはいたがなんとなく聞けずにいた質問。
今なら聞いていい気がする。
「理由? ……コウになら言ってもいいかな。お母さんから聞いた話なんだけど、お父さんはパイロットだったの」
「へぇ……すごいね」
寝ていたときはパパって言ってたのに今はお父さんなんだなぁ。
「うん。で、お母さんはキャビンアテンダントだったの。二人はそこで知り合って、付き合い始めたらしいの」
「よくある話だね」
「それで自分は二人が見ていた風景を見てみたいの。ソラからの風景を眺めてみたい」
「なるほど……」
そんな深い理由があったんだな。
ただ無意味に飛んでは落ちを繰り返していただけじゃないのか。
思わず涙が零れそうになった。
「僕が退院しても何とかして飛ばせてあげるよ」
「……じゃあ信じてる」
ナユはそう呟いてようやく暗い顔を笑顔に変えてくれた。
やっぱりナユは笑っている方がいいな。
いつもパシリにされていることを忘れそうになるくらいのいい笑顔だな。
「もう、こんな時間だ」
「日が暮れちゃうね」
「じゃあまた明日ね」
「うん」
病室を出ようとしたときに、今まで忘れていたことを思い出してしまった。
着替えていなかった。
僕はフリフリのメイド服、ナユはゴスロリファッションのままだった。
しかも僕の初め着ていたパジャマはどこに……
「……ねぇナユ。僕の服……知らない?」
「んん~……確かコウが着替え終わってから自分のベッドの上に置いて……」
「そこまでは覚えている」
その先、なんだか嫌な予感が頭によぎったが当たらないことを祈りたい。
「刹那が『ネコっちのパジャマを持って帰れば……にゅふふ』とか言いながらリュックに詰め込んでたかな?」
「な……っ!」
こんなところでドSっぷりを発揮しないでくれ……
ってことはこの格好のまま病室に戻れと……
しかし帰らないわけにもいかないので仕方なく病室の方に足を進めた。
ちなみに視線を気にしながら歩いていったために病室に戻るのが遅れ、瑠香さんにスリッパ攻撃を喰らった。
それだけならまだしも、向かいのベッドのオタクにしつこく色々と聞かれて疲れた。
今日の出来事は忘れられない出来事の一つになるだろう。
女装のことも、ナユから聞いたことも。
久々の『ソラノヒト』を更新です~
ちょっとシリアス(?)な話にしてみました~
しかし最後にはオチが……(笑)
これからどうするかは考え中なので短い期間で更新できるかどうか……
長い目で見ていただけるとありがたいです~