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ソラノヒト  作者: 雪兎
25/33

第二十四羽 想定の範囲……?

「……瑠香るかさん、一つ聞いていいですか?」


「ん、うん? なんだい? 猫羽ねこま少年」


「これは瑠香さんの仕業ですか?」


「いや~アタシのせいって言えばアタシのせい……なのかな?」


 歯切れの悪いことを言ってくれる。


「アタシは師長に言っただけなんだが……」


 どうして瑠香さんの語尾の歯切れが悪いかと言えばこの状況のせいだ。

 なぜかロビーに検査の時間じゃない入院患者たちとオタク臭のする人たち、そして女子高生らしき人たちが多数いるためだ。


「ちょいと師長に聞いてきてみるよ」


 そう言い残して瑠香さんは僕らを廊下の影に残してナースステーションに入っていった。


 そして数分としない内に僕たちのところに瑠香さんが戻ってきた。


「悪いっ。どうやら師長が原因らしい」


 瑠香さんの話をまとめるとこうだ。

 僕の女装&ナユのコスプレのことを瑠香さんが師長さんに話した。

 そしておしゃべり好きの師長さんは患者の面倒をみているときについそのことを話してしまった。

 その話した患者と言うのが僕と同じ病室のオタクの人だったらしい。

 そしてそのオタクが友達を呼び、師長は患者達に言いふらし、今に至ると言うらしい。


「根本的な原因は瑠香さんが師長に言ったところじゃないですかっ」


 これじゃあ罰ゲームじゃなくて公開処刑だ……

 本当に死にたくなる。


「ま、まぁちゃっちゃと回ってくれば終わるんだし」


「生きてここに戻って来られるかわかりませんがねー……」


 肉体的にも精神的にもね。

 帰って来られればいいけど。


「んまぁ、ネコっち、行ってこーいっ」


「のわっ」


 そう言って刹那せつなは僕の背中を無理やり押してきた。

 突然のことだったので僕はつんのめってロビーに倒れこんで顔を打った。

 ベチっと音がしたためにロビーにいた人たちの視線がこっちを向いた。

 ついでに倒れた僕の横にはナユが人形を抱えたまま立っている。


「大丈夫?」


「な、なんとか……」


「キャーッ。何この子たち~可愛いーっ」


 立ち上がろうとしたら突然人の波に呑まれた。

 僕たちのところに近づいてきたのはどうやら女子高生らしき人たちのようだった。

 何とか僕とナユは手をつないではぐれずに済んだ。


「ねーねー、どっちが男の子なの~?」


「こっちよ」


 ちょっと待て、そういうことを言うと……


「マジでー?ホントに男の子~?」


「ほっぺ柔らか~い」


「肌もきれい~」


「この胸はどうしてるの~?」


「ちょ……ひょわっ」


 助けて……

 同世代の女子に片尻つかまれた……

 てか何でみんな僕の方にくるんだぁっ。


「じゃあコウ、頑張って」


 ナユのヤツは僕を人の波の中に残して一人で回ろうとロビーの中に向かって歩き始めた。

 僕を置いていくのかっ。


「ちょっと彼女~写真撮ってもいいでござるか?」


「ん? ダメ」


 何かナユはナユでオタクたちに囲まれたようだ。

 いつものようにクールな感じで接しているようだった。


「そんなこと言わずに一枚だけ」


「……一枚千円」


 ちょっとお前っ。

 お金を取んのか。

 流石に一枚に千円も払うんじゃ引き下が……


「千円なら払うぞっ」


「拙者もっ」


「オレもっ」


 ……オタクの懐の暖かさに驚いた。

 ちらりと見てみるとナユの腕の中にはいっぱいの千円札があった。

 流石にお金をもらったなら仕事は果たさないといけないだろう。

 見事な営業スマイルでどんどんと写真を撮られていく。


「なぁ~に? キミ、あの娘のことばっか見てないで私たちのほうを見てよ~」


「むぎゅ……」


 見るも何も身動きが……

 なんか柔らかい触感が……

 柑橘系の匂いが……

 慣れていない匂いやら触感に意識が飛びそうになる。


「キミ、いくつ~?」


「もしかして中学生~?」


「こ、高二……」


「えぇ~マジでぇ~」


「アタシと同級生なんだぁ~」


 この状況じゃ反撃しようとするにも動けない。

 もう諦めてされるがまま、身を任せたほうがいいのだろうか。


 ちらりとナユが目に入ると、一人のオタクがナユのお尻を触ろうとしていた。


「あっ……」


 僕が声を発するとほぼ同時に二つの影がそのオタクに向かって蹴りをして、足を寸止めした。


「な、な……」


空閑くがちゃんにセクハラはダメだよ」


「離れないと次は止めないよ」


 いち早く動いたのは刹那と瑠香さんだったみたいだ。

 ただの傍観者じゃなかったみたいだな。

 てか看護師が武力行使をしていいんですか。


「ひ、ひぃ~っ」


 こうして一人のオタクが退場していった。

 この調子で減っていってくれればよかったが、女性陣は一歩も引かなかった。


「私たちも写真を撮ろ~」


「あ、それいいねぇ」


「アタシと撮ろうよ~」


 ……撮ってもいいから引っ張らないで……苦しい……


「はいはい。アンタたちっ。コイツも一応入院患者だからもう少し優しく扱ってやれ」


 そう言ってくれたのは意外にも瑠香さんだった。

 ちゃんと看護師としての仕事をしてくれた。


「そうなの~?」


「じゃあ順番に写真を撮ったら終わりにしようか~」


「た、助かった……」


「アンタも早く写真を撮って終わらせな」


「あ~い……」


「ねぇねぇ。手を丸めてニャーって言ってよ~」


「にゃ、ニャー……」


「「キャーッ。かわいいー♪」」


 何がかわいいんだか……僕には理解できない。

 こんな男が女装して猫のマネをしてるのがそんなにいいのかな。


 それから何とか一時間弱で僕らは解放され、病院一周の罰ゲームを何とか生きて終わらせられた。

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