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ソラノヒト  作者: 雪兎
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第二十三羽 叫び

 一つ叫ばしてもらっていいですか。

 っていうか叫ばずにはいられない。


「何じゃこりゃ~~~っ!」


 トイレに人がいたら驚き飛び跳ねるだろう。

 だがこのトイレには誰もいない。

 それだけは幸いだった。


 何かの間違いかと再確認するために三つの紙袋を順番に覗いた。

 まず一つ目は僕が選べるヤツの一方。

 その中には何かのアニメにでも出てきそうなセーラー服で取り出してみるととてつもなく短いスカート。

 これは毎度のことだから驚かない。

 そして二つ目は選べるヤツのもう一方。

 フリフリのレースやらなんやらがついている、いわゆるメイド服と言うものだった。

 ロングスカートで先ほどの短いスカートよりはいくぶんかマシだと思えた。

 これも毎度のことだからそれほど驚かない。

 僕が叫びたくなったのは絶対身に着けろと言われた三つ目の少し小さな紙袋だ。

 その中には僕の髪と色と似た色の猫耳、そしてなぜかブラジャーが入っていた。


 僕は思わずこれらを袋の中に突っ込んでトイレを出た。

 そして向かう先はつばさのところ。


「ちょっ……これっ」


「んまぁそういうことだよ……」


「ちょっと刹那せつなに言って……」


「多分まだナユちゃんが着替えてると思うよ。ナユちゃんの方も着るのが大変そうなヤツだったし」


 ……とりあえずブラジャー以外のものをつけるか……あとが怖いし。


 再びトイレに戻ってメイド服と猫耳を取り出した。


「はぁ……どういうつもりだよ……これ」


 というかこういうのを一人で着れるようになっている自分が嫌だ。

 どれだけ刹那のヤツに着せられているんだ、自分。


「これでいいのか……ってか何でこんなに僕のサイズにピッタリなんだ……」


 刹那にサイズとかを測られた事は一度もない。

 アイツにはそういう能力があるのだろうか。

 見ただけで相手のサイズがわかる程度の能力が。

 ブラジャー以外を身に着けたところで翼のところに戻る。


「つばさぁ~……」


「ん、あぁ……中も終わったみたいだよ。さっきせっちゃんが入っていいって」


「じゃあ入るか……」


 とりあえずこの袋の中のブツについて問い詰めておきたい。

 一応僕がノックをすると中から返事があったのでドアに手をかけて開けた。


「刹那っ! これはどういう……」


 そこまで言って僕は言葉が詰まってしまった。

 部屋にいたのはいつもの私服姿の幼馴染と、いわゆるゴスロリと言われる服で身を包んで耳の長い兎の人形を抱えているナユだった。

 しかもナユの頭には犬とも猫とも違う獣耳がついていた。


「こ……コン」


 そう言ってナユは招き猫のように手を丸めた。

 顔を赤らめてやっているところから推測するに刹那の入れ知恵だろう。

 しかし思わず意識が飛びそうになった。


「んん~やっぱり空閑くがちゃんはゴスロリだよねっ。……それよりネコっち、ブラは?」


「……ハッ。そうだよ。これはなんなんだっ」


 戻ってきた意識で僕はそう叫んで、紙袋を突き出した。

 しかし刹那は悪びれる様子もなく、当たり前のように言い返してきた。


「ん~? Bカップだよ?」


「そういうことじゃないっ。何でこれをつけないといけないんだっ」


「……コウ、可愛い」


「大体男の僕が……へ?」


 ナユからの予想もしなかった言葉に思わず目を丸くしてしまった。

 いや、可愛いと言われても嬉しくないんですが。


「ね? 空閑ちゃんもそう言っているわけだし付けてみようよぉ」


「いやっ……これとそれとは話がちが……」


「えぇ~いっ。観念せ~いっ」


「うわっ」


 そう言って刹那は僕に飛びついてきた。

 後ろに倒され、マウントポジションを刹那に取られた。

 解放されようともがいたが、自分より大きい刹那から逃げる事はできなかった。


「ちょっ…離せぇーーっ」


 僕が叫ぶとさっき閉めたドアが勢いよく開かれた。

 救世主が来たかと思ったが、そこにいたのは瑠香るかさんだった。


「うるさいっ」


「ぶっ……きゅぅ~……」


 押さえつけられている僕にお構いなしのスリッパ攻撃が顔面に飛んできた。

 僕の力が抜けた次の瞬間に、慣れた手つきで服の上半身を脱がされ、ブラジャーをつけられた。

 そして脱がした服を素早く着せて何事もなかったかのように離れていった。


「ナイスですっ。看護師さんっ」


「ん? なんだかわかんないけど……」


 刹那が拳を突き出してきたので瑠香さんはそれに自分の拳を合わせた。

 ……てか変な感じがするんですが……

 女子っていつもこんなものをつけているんですか……


「さぁさぁっ。並んだ並んだっ」


「うぅ……」


 叩かれたところをさすりながら立ち上がってナユと並ぶ。


「ふむっ。余は満足じゃ~」


「……早く終わらせたい……」


「自分はこれ、好きかも」


「ホントに女の子みたいだなぁ~コウ」


「……どんまい、こう


 諦めて行くしかないか……

 何も起きなければいいけど……

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