第二十一羽 不安
「……ウ。……コウってば」
「んん……」
誰かに身体を揺すられた。
瑠香さんかな。
「んん……瑠香さん……?」
「何言ってんのよ。自分よ」
目を擦りながら顔を起こして、声のしたほうを見るとナユがいた。
「あれ……? 何でナユが?」
「検査が終わってもうすぐお昼ご飯だから」
「……食べさせろと」
「正解」
そのためだけにわざわざ普通病棟まで来たのか。
腕の骨にひびが入っているのにご苦労なことだ。
「猿渡さんには言ってあるからコウのお昼も自分の部屋にあるわ」
「僕に拒否権はないんだね」
初めからわかっているがそう言っておきたい。
返ってくる答えはわかりきっているが。
「もちろん。だって自分のわがままを聞いてくれるんでしょ?」
「……わかったよ」
僕は抵抗を諦めてベッドから出た。
「じゃあ行こうか」
「ん」
ナユが手をさし伸ばしてきたので僕はその手を掴んであげた。
この娘はこういうところに恥ずかしさとかを感じないんだな。
「今日の午後も暇?」
「入院中はずっと暇だよ」
ナユと会っていないときは勉強か読書かだし。
僕のその答えを聞くと一瞬笑顔を見せてくれたがすぐにその笑顔は引っ込んだ。
「そ、そう。なら暇つぶしに自分のところにいてもいいわよ」
「はいはい」
本当に素直じゃないんだから。
来てほしいって言えばいつでも行くのに。
まぁ退屈しないからいいか。
ナユの病室についてから僕は前回のようにナユにご飯を食べさせてあげてから自分の昼食を取り、翼が持ってきてくれた本を朗読してあげた。
途中で瑠香さんも来て来週の罰ゲームのこととトラウマのことをからかわれた。
本当に来週のことが不安で仕方がない。
「どんな衣装になるだろうねぇ」
「……考えたくないです」
今までの経験上持ってこられる物の予想はできるから。
公共の場ってことを考えて控えめにしてくれればいいけど、アイツがそんなこと気にしてくれるわけない。
絶対に目立つものを用意してくる。
メイド服やらセーラー服やらミニスカやら……
「ま、ちんちくりんのコウには似合うんじゃないか?」
「男としては似合いたくないです」
トラウマもあることだし、勘弁してほしい。
「自分もコウの女装見てみたい」
「そういうナユだって何を着せられるかわかったもんじゃないぞ」
「自分はそういうのあんまり着ないからある意味楽しみかも」
「……その言葉、後悔するぞ」
「アタシは見ているだけだから楽しみだねぇ。お、そろそろ時間だ。アンタはもう帰んな」
「あ~い」
僕が帰ろうとベッドから立ち上がるとナユが僕の袖を掴んできた。
「明日も来るの?」
「来ちゃダメかな?明日も明後日もその次も」
「コウが来たいなら、べ、別に来てもかまわないわっ」
やっぱりナユはツンデレだなぁ。
もう少し素直になってもらいたいものだが無理だろうな。
僕はナユと瑠香さんをあとにして自分の病室に戻った。