第一羽 ソラからのお尋ね者
そんなこんなで僕は数日前から退屈な入院生活を送ることになった。
まだ数日なのにこれだけ退屈になっているのだ。
一ヶ月など耐えられるはずがない。
この数日間で学んだことは医師たちにばれずに部屋を抜け出し、散歩をすることだった。
大抵の場合、元ヤンの看護師、猿渡瑠香さんに捕まってこっぴどく怒られて、頭を叩かれて
「そんなんじゃ治んないよっ」
と言われる。
僕が病人に暴力を振るっていいのかと反発すると
「アンタの病気は肺だから頭は関係ない」
と僕の反発は退けられ、さらにもう一発叩かれてから解放される。
こんな風なやり取りを五日ほどやっても僕は懲りずにまた病室を抜け出し散歩をしているわけだ。
「ふぁ……まだ秋なのに寒いなぁ」
流石に病院の敷地外に出ることは僕の良心が許さなく、いつもの病院の敷地をぶらついていた。
今までの五日間と変わりなく、周りに見られていないかを注意しながら散歩しているとふと上から人の気配を感じた。
上を見てみると……
「女の子っ!?」
別に女の子がいたから驚いたわけではない。
その子が窓のサッシに足をかけて月を見ていたからだ。
そして次の瞬間、女の子は足に力を入れて空に向かって跳躍した。
長い黒髪は風になびき、綺麗に広がっていった。
「うわぁっ」
僕が思わず声を上げると女の子はこちらを向いてきた。
その目の色は左右が違っていて、吸い込まれそうなくらい綺麗なもので見惚れてしまった。
女の子は空中に数秒いたが、地球が僕たちを引く力に勝てるわけがなく、呆気なく病院の周りの植木の中に落っこちた。
僕は呆気に取られて少し動けなかったが、我に返って女の子が落ちていった植木の辺りまで近づいた。
「大丈夫っ!?」
「いたた……」
植木の中にいた女の子は右腕を押さえながら植木から出てきた。
女の子は小柄で、チビで女々しいと馬鹿にされる僕より一回りほど小さかった。
そんな女の子は痛みに顔を歪めながら僕のほうを見てきた。
「……アナタ、誰? せっかくソラに飛べそうだったのに」
「え、そんなこと言われても……それよりも医者っ!」
「へーきだから……」
僕は女の子の言葉を最後まで聞かずに病院の入り口に向かって走り出した。
何か後ろで聞こえた気がしたが今は無視だ。
僕が走って病院内に入り込むと容赦なく横からスリッパが飛んできて命中した。
「コウッ! アンタ、また抜け出し……」
「そんなことより女の子がっ!」
僕の必死な表情を読み取った瑠香さんは僕をスリッパで叩こうとする手を止めた。
「その子はどこだい?」
「向こうっ」
「叩くのは明日にしてやんよっ」
そう言って瑠香さんは僕が走ってきた道を僕より速く駆け抜けていった。
女の子がこちらに向かって歩いていたので瑠香さんはその子をおんぶして小走りで病院内に戻ってきた。
「アンタは部屋に戻ってな。それと走ったから入院一週間延長を考えときなっ」
瑠香さんは僕をその場に残して向こうの部屋に消えていった。
「……冗談だよね」
僕はとぼとぼと自分の病室に戻り、なるべく自分の名前が書いてあるのを見ないで他の同室の人たちを起こさないように静かに部屋に入って布団に入った。