第十四羽 トラウマ
刹那とナユが友達関係になってから十分ほどで、用事があると言って刹那は病室を出て行った。
「……いい人だね」
「そうか?」
会う度に追い掛け回され、弄くられ、奢らされている身としてはあまりいい印象がないんだが……
ナユが喜んでくれているならいいかな。
刹那が出て行ってからナユが昨日に続いて僕の過去を聴きたがったので昨日話していないことを話した。
「アハハッ」
「そんなに笑わなくてもいいだろっ」
「だ、だって……アハハッ」
僕の思い出したくない過去を話した瞬間にナユの奴は笑い出した。
「いくらそんな顔だからって……アハハッ」
「僕だってそんなことになるなんて思いもしなかったよ……」
中学時代の僕の思い出したくない思い出……というかトラウマ。
あれは出会いと別れの季節の春。
部活帰りにジャージで帰宅しようとしたら新一年に呼び止められ、告白された。
これだけを聞いたらうらやましく聞こえるかもしれないが告白してきた一年の性別を聞いたら十人中十人が引くだろう。
告白してきたのは男子だったのだ。
当人曰く、小学生の頃に違う学年とのふれあいで一緒の班になって一目惚れしたとの事だ。
この一年だけの出来事ならまだマシだろう。
次の年にも同じ様な事件が起きた。
それ以来僕は自分の顔と自分の名前が大嫌いなのだ。
「いっそのこと付き合っちゃえばよかったのに。理解者はいるかもよ?」
「僕にそんな趣味はない」
「私もそういう人の考えはわかんないわ」
それなら言わないで欲しい。
そんな性癖を持ちたくはない。
それからもナユの笑いは瑠香さんが部屋に来るまで治まらなかった。
「おや、那由多が笑っているなんて珍しいねぇ」
「あ、猿渡さん。ちょっと聞いてくださいよ」
「おいっ……」
「ん?なになに」
僕がナユを止めようとしたがそれより早くナユが瑠香さんに耳打ちをした。
耳打ちが進むにつれて瑠香さんが笑いを堪えて肩を震わせているのがわかった。
そして耳打ちが終わった瞬間に瑠香さんが声を上げて笑った。
「アッハッハッ。コウにそんな過去があったとはねぇ」
「……」
「まぁ気にするなって。過去のことは過去だよ」
慰めているのか、からかっているのかわからないけどアナタに叩かれている肩が痛いです。
この人には知られたくなかったのになぁ……
明日からからかわれるな。
「んじゃちょいとどいて。ちゃっちゃと終わらせるから」
瑠香さんは僕を移動させると毎日やっているらしいことをテキパキとこなしていった。
いつもの点滴よりも手際がよかった。
「瑠香さん、点滴より手際がいいですね」
「ん~そりゃ何年も同じ事をやってりゃね」
点滴も看護師になってからずっとやってるんじゃないのかな。
こっちにまわされることが多いのかな。
「よしっと。もういいよ」
全てのことが終わるのに二十分とかからなかった。
「アタシはもう出て行ったほうがいいかね?」
「僕はどっちでも」
「自分もどっちでも」
「じゃあたまには話でもしようかね」
瑠香さんは僕が先ほどまで座っていた椅子に腰を下ろした。
「ちょ……僕の席……」
「「ん」」
二人は無言で同時にベッドを指差した。
こういう時って息が合うんだな。
「はぁ……」
僕は渋々とベッドに腰を下ろしてナユのことや瑠香さんの話を聞いた。