第十三羽 反射
「あ……」
「よ~」
僕は思わず開けたドアを勢いよく閉めた。
鍵でも掛けようと思ったが鍵なんぞあるわけがなく、抵抗むなしく力負けした。
「なによ~いきなり閉めなくってもいいじゃん」
「く、来るなっ」
「別に何にもしないわよ~」
「……どちら様?」
僕のほうを見ながらナユが尋ねてきた。
僕が答えようとすると後ろから頬をつねられてしゃべれなくされた。
「ひはいひはい」
「な~に? ネコっちは入院中にも女の子を口説いてるの~? それにしてもカワイイ顔ね」
顔を少し赤らめて俯くナユ。
本人もまんざらでもないのか。
「私は鷹見刹那。ネコっちとは物心がついた頃からの仲よ」
「自分は空閑那由多です」
「はあへっへ」
何で人の頬をつねったまま自己紹介をしてるんだ。
無理矢理離して刹那から距離を取った。
「何でオマエがここに来てんだ」
「親切な看護師さんに聞いたのよ~ネコっちの友達だって言ったら快くおしえてくれたわ」
「……ちなみにその看護師さんの名前は」
「確か猿渡さんって呼ばれてたかな」
あんの人め。
口では言えないから心の中で怨んでやる。
そんな僕のことを気にせずに刹那がベッドの脇の椅子に腰を下ろした。
「ま、昨日のことは退院後に奢りで許してあげる」
「……そりゃどーも」
刹那に奢らされると財布が寂しくなる。
この細い身体のどこにあんな量のケーキが入るって言うんだ。
加えて食っても太らない体質。
世界中のダイエットを頑張っている女性にいじめられればいいのに……
「空閑ちゃんってケーキとか好き?」
「あんまり食べないからなんとも」
「そか~お見舞いにケーキはまずいかな」
「そりゃそうだろ。てか刹那はケーキばっかだな」
「ぶぅ。とある女性が言うじゃない。『パンを食べるならケーキを食べなさい』って」
「それを言うなら『パンがないならケーキを食べればいい』だ」
「変わんないわよ~」
「……フフッ」
僕と刹那のやり取りを見ていたナユが笑いをこぼした。
「仲がいいんだね」
「そうだね~」「よくないっ」
僕の答えがどちらかは言うまでもないだろう。
「うらやましいな……自分はそういう友達がいないから……」
そう思うなら素直に接して看護師たちと仲良くすればいいのにと思うのは僕だけだろうか。
ちらりと横を見ると少し目を潤ませている刹那の横顔が目に入った。
「おい……」
「なら私が友達になってあげるっ」
「……へ?」
突然の刹那の宣言にナユは目を丸くした。
「ネコっちの友達は私の友達だもん。だから今日から空閑ちゃんは友達だよっ。あと、もう一人の幼馴染の翼もいるから明日にでもつれてくるよっ」
「えっ……と」
ナユが困ったように僕と刹那を交互に見た。
このまま無視しても面白そうだったが流石にかわいそうだったので助け舟を出してあげた。
「ま、いいんじゃない?」
「う、うん」
「じゃあよろしくっ」
刹那がナユの手を両手で握った。
うむ。友情は良きかな。
こうしてナユの友達は二人増えた。