第九羽 理不尽
「遅い」
僕がナユの部屋に入ってからの第一声である。
右手を吊ったまま左手で頬杖をついて膨れ面になっていた。
「抜け出すタイミングとかが大変だったんだよ」
「そんなの関係ないわ。次はもっと早く買ってきて」
無理矢理抜け出し、それがばれて痛い一撃を食らったのにこの仕打ちはひどくないかと思ったが、それより先に買ってきた本をナユに渡した。
「はい。頼まれたもの」
「……足りないじゃない」
「本屋になくてさ。でも近いうちに僕の友達が持ってきてくれるって」
「自分が一番読みたかった本を買ってこないなんて、なんて使えないのかしら。初めてのお使いに行くちびっ子達より使えないんじゃない?」
「んな……」
「まぁ仕方ないわ。我慢してあげる」
何で彼女に妥協してもらわないといけないんだろうか。
一言何かを言ってやろうかと考えたがその一言が思い浮かばずに謝ることしか出来なかった。
「じゃあ読み聞かせて」
「はいはい」
半ば予想していたことを命令されたので曖昧に返事をして三冊のうちの一冊を手に取って広げた。
中学のころに読み聞かせの手伝いをさせられてたので、ある程度は噛まずに読むことが出来た。
本の内容は不思議の国に迷い込んだ女の子が苦難を乗り越えていくという童話だった。




