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第十話「暁への飛翔」②

 その頃、神楽夜は格納庫に安置されたゼルクの起動を試みていた。

「くそ! なんで動かないんだ!」

 変わらず暗いままのコクピットに、神楽夜は堪らず壁を殴った。いつぞやのように都合よくとはいかないらしい。黄金の輝きが満ちる奇跡を期待したが、これでは己の無力さを思い知らされるだけである。

(あの時は動いたのに)

 歯噛みすれども答えは見えない。クラドノの夜、朔夜の仲介なしに動いた理由を探っておくべきだったと、いまさらながらに後悔した。

「なにをしている!」

 コクピットの出入口からかけられた男の声にはっと振り向けば、そこにはアレスの姿があった。格納庫にまた押し寄せたあの黒い兵士の群れは片づいたらしい。

「動かせぬものにこだわってなんになる。早く輸送機に乗れ。脱出にはいましかない」

「けど!」

「優先すべきものを間違えるな! 生きてここを出なければ、次はない」

 言ったそばからアレスはなにかの気配に振り向き、眼下を見た。

「どうやら奴らもここで決める腹のようだ」

 アレスの視線のさきには、またもあの黒い兵士たちが跋扈(ばっこ)している。

「いったい、あいつらは」

 アレスの脇から覗き見た神楽夜は当然の疑問を口にしたが、アレスは取り合わなかった。

「一刻の猶予もない。数が減ったいまが好機だ」

「でも、外にもあんなデカいのがいる。あれを(かわ)していくなんて」

 無謀にもほどがあるというほかない。されど、アレスは冷静に答えた。

「機は私が作る。お前はあの輸送機まで走って、なかの少年に合図を待つよう伝えるんだ」

「あ、合図って」

 神楽夜は抗議の目で()いた。アレスは格納庫に侵入してくる黒い兵士たちを見つめたまま、

「準備ができたら、青い信号弾を打ち上げる。その方角に輸送機を発進させろ」

 と言うなり、疾風のごとき勢いで姿を消した。

「ちょ」

 有無を言わせぬアレスに、神楽夜はコクピットから身を乗り出してあたりを見回す。すると、アレスはすでに黒い兵士たちと干戈(かんか)を交えていた。

 アレス・ヴァールハイト。幾度か助けられているがゆえ言えたことではないが、素性がわからぬ者に手助けされるなど、いささか以上に気味の悪い話である。

(でも、確かに)

 神楽夜は身を乗り出したその体勢から首を捻り、静かなゼルクの顔を眺めた。動かせないものにこだわっても仕方がない。

 首を戻し、神楽夜はその場にしゃがんだ。

 見渡せば、格納庫内にある輸送機は二機。いずれもヴェントゥスより小型で、翼を広げたふくろうのような丸々とした形をしている。マシューたちとともにいたあの少年が乗り込んだのは、いまアレスが戦っているすぐ横にある機体だ。

(入口は……あそこか)

 おそらく外にいるマシューたちを待っているのだろう。腹の側面にあたる扉からタラップが降りている。ゼルクからは直線距離でざっと二百メートルほどある。神楽夜の足ならば五秒とかからない。問題なのは、アレスを取り囲む黒い兵士たちとの距離がいまだ近いことだ。

(動きだした)

 跳び出す時機を窺っているうちに、輸送機のエンジンが始動した。状況は刻一刻と動いている。

 神楽夜は袈裟に背負った刀の柄を確かめるように握ってから、意を決してコクピットから飛び降りた。

 着地してすぐ、開かれた輸送機の入口まで駆け抜ける。それに気づいたらしい数体の黒い兵士がアレスの脇を抜けようと駆けだすが、瞬時に首筋をクナイに射抜かれた。

 黒い兵士らのなかがどうなっているのかはわからないが、恐れは感じるらしい。瞬く間に絶命した仲間に、たじろぐ素振りを見せた。

 アレスは徒手空拳で構え、

「なり損ないの雑兵風情が」

 と、残る三体の敵兵の前に立ち塞がる。

 対峙するその背中を横目に、神楽夜は輸送機のなかへと駆けこんだ。

 造りがわからぬなか手探りで上階への螺旋階段に至り、一目散に艦橋を目指す。外観からおおよその位置はつかんでいる。のぼり着いたさき、人がすれ違える程度の幅しかない通路を、敷き詰められたグレーチングの金属音を響かせながら駆けると、それはあった。

 なかにいた少年は自動扉が開く音に反応して、喜びと驚きと恐怖を混ぜ合わせた複雑な顔を振り向けた。

「お、お前!」

 少年は慣れない手つきで銃を構える。途中で拾ったか、あのマシューとかいう男に渡されたか。いずれにせよ、この程度で臆する神楽夜ではない。ずけずけとブリッジ内に踏み入った。

「君がエンジンを?」

 まったく怯まず訊いてくる女に、剛三郎は唖然として銃を下げた。

「アニキに言われたんだ。なあ、外はどうなってる?」

 不安に満ちた目で訊く少年に、

「わからない。けど、いまアレスが道を作ってくれる。これの動かし方は?」

 と神楽夜が訊き返した、その時だった。

 突然、外に赤い熱線が走ったかと思った矢先、凄まじい爆発音とともに衝撃が機体を揺らし、神楽夜たちは咄嗟に頭を庇って姿勢を低くした。

 恐る恐る頭を窓から覗かせれば、ブリッジから見えていた格納庫の壁は跡形もなく切り取られ、外の火の海が丸見えになっている。

「な、なにが……」

 呆気に取られる神楽夜の眼前で、見覚えのあるトンファーを携えたグスタフが、水銀色の巨大な機体と斬り結んだ。それを見た少年は、

「アニキ!」

 と歓喜の声をあげた。

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