第九話「リンケージ」②
マシューが格納庫を訪れると、なかはケルト海の作戦から帰還した機体の整備で慌ただしい様子であった。大破したフォルクス・マリーネが床上のデッキに寝かせられる横を通り過ぎ、壁伝いのハンガーに格納された自身の乗機をも素通りする。
「なにかわかったか」
マシューは視界のさきにいる整備班に呼びかけた。
整備班の面々は若者から老人まで様々な男がいたが、みな一様に奇怪なものでも見るような目で、鹵獲した<アーキタイプ・グスタフ>を見上げていた。その顔をマシューの一声で下ろすや、満足に敬礼もせぬまま、老人の整備士が口を開いた。
説明を聞いたマシューは、
「自己再生?」
と疑わしそうにその内容を反復する。
見上げれば、ひどい損傷であったはずの<サムライ>は、わずかに修復が進んだように見える。もっとも破損した右腕も、心なしか変形具合が和らいだとすら感じられるほどだ。
「アーキタイプの力なのか」
世界史において、<アーキタイプ・グスタフ>の確認例はさほど多くない。ほとんどはアービターが持つ固有の機体だ。連合のような世界的組織が入手した記録となれば、百年前の一機を除き、皆無である。その機体は二度にわたる<バベル戦争>に投入され、現在も白銀機関が所有し続けているとされる。ゆえに、実体は不明な点しかないといって過言ではない。
(あれも)
とマシューが回想するのは、さきの戦闘で、突如海面を突き破って現れた陸地のことだ。聞けば、ロンドンのシスル・タワー崩壊時にも似た現象が起きている。それらがアーキタイプの力によるものと断定はできないが、どちらも赤い艦がいたという事実が、なにか関連めいたものを感じさせた。
マシューが試案顔で<サムライ>を見つめていると、整備班のなかから「ガワを剥いでもいいか」との声があがった。それを一瞥して制する老人の整備士に、
「ガワ?」
とマシューが訊けば、老人は、<サムライ>の鎧はあとづけされたものだ、と答えた。
「増加装甲……」
それすらも修復する再生機能。仕組みがわかれば、これは大きな技術的転換期をもたらすかもしれない。マシューは、アーキタイプ鹵獲という自身の偉業に改めて心躍らせつつ、
「このマシュー・ゲッツェンが許可する。急ぎ、解体にかかれ」
と下知を放った。
各々の作業に取り掛かる整備士たちの背中を見送り、居残った老人に「終わったら、私に連絡を」と告げると、マシューは次なる場所へ向かった。




