第八話「冷々たる別離」⑧
あろうことか少女と老人は降り注ぐ瓦礫を足場と変えて跳び渡り、あまつさえ少女に至っては落下する自分を救いに来るではないか。
レジーナはされるがまま、神楽夜に空中で抱きかかえられた。全身にまとった甲冑の重量は百キロを優に超える。だというのに神楽夜は易々と瓦礫を伝い、もといた階の崩落を免れた床へと舞い戻った。
敵は様子見をしているのか、攻撃の手は落ち着いている。
さきに戻っていた鍾馗は、
「なるほど。どうりでトウヤが来たわけよな」
と合点がいった様子でレジーナを見た。それにレジーナはなにも返そうとはしない。頭を覆う鉄兜で表情が読み取られないことをいいことに、堂々と視線を明後日にやった。
その横で、
「助けられなかった……」
と、神楽夜は己の至らなさに拳を握りしめる。だが、いまは悔やんでいる場合ではない。
「逃げるぞ。いつまたはじまるかわからん」
鍾馗は一階への脱出路を探るべく周囲に視線を走らせた。
火災と崩落の影響で煙や粉塵が視界を遮り、いまのところ、こちらの生存は敵に気取られていなさそうだ。攻撃が止んでいるのがその証拠であろう。
いっそ外壁を伝って降りるという手もあるが、この場合、極力、敵に姿を晒さないほうが得策だ。となれば、攻撃が再開されるまでは内部を伝って一階まで下りる。出入口であるエントランスは砲撃にさらされた南側とは反対だ。急がねばならない。
「行くぞ」
そうと決めた鍾馗の先導に続いた神楽夜は、背を向けたきり移動する気を見せないレジーナに振り返った。
目の前で父親が落ちたのでは動けないのも無理はない。神楽夜はレジーナの心中を推し量り、言葉を選んだ末に、
「行こう」
と諭すように言った。
けれどレジーナはなにも返さず、崩れ落ちた天井から覗く夜空を睨み上げるだけである。
すると、
「その足なら逃げられるな」
レジーナはふいに背中で言った。
その彼女に神楽夜が「まさか」と返すと、レジーナは左腕の盾を天高く掲げ、
「敵討ちじゃない。私はアービターだ。――リンケージ!」
淡々とその身を暗黒で包み込んだ。




