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第八話「冷々たる別離」⑤

 すると、

「レジーナ!」

 部屋中に響き渡る大声を出し、ノックもせぬまま、明るいグレーのスーツに身を包んだ男がいきなり踏み込んできた。

 金髪をしっかりとうしろに撫でつけたその生え際は左右の後退が著しく、わかりやすいM字を描いている。四角い細縁の眼鏡は気難しげで、その奥にある碧眼はレジーナのものに近い印象だ。ぽんと突き出た腹からは、いかに贅を尽くした生活を送っているかが窺える。

 その男こそレジーナの父、ルーベン・シスルであった。ルーベンは娘の前に立つなり、苛立ちをにじませる。

「やっぱりな。どうして説明しないんだ。言っただろう、ヴァイス・リッターからの依頼だと」

 そこで神楽夜は訝しげに眉根を寄せた。

(ヴァイス・リッター?)

 その名に覚えのない神楽夜にはわからない話だが、ここは本来ならばその名を出さず、含みを持たせるべきところである。いくら記録を残さないとしてもだ。仮に、彼らが関わっていると外部に漏れでもしたら、それこそ国際問題に発展しかねないのだから。

 ヴァイス・リッター。ドイツ語で白騎士を意味するその語は、白銀(しろがね)機関の別称である。由来はその成り立ちにあるが、彼らの歴史を語るのはまたの機会に譲るとして、いまは機関の実態について少し触れておくとしよう。

 まず、白銀機関は国家ではない。月のすべてと地球の一部を占領する研究組織だ。ただ、その認識はもはや大方のものから外れているといっていい。百年前の全面戦争に寡兵で勝利した事実からもわかるとおり、彼らはれっきとした軍事組織である。それも、他の追随を許さないほどに強力な。

 その目的は明らかではなないが、彼らのことを<ヴァイス・リッター>と呼ぶのは、もっぱらそういった内情に詳しい者たちだ。もちろん、レジーナもそのうちのひとりである。

 レジーナは今回の会談の趣旨を聞いている。が、彼女は昨日まで、会談があることも、その場で自分の証言が必要であることも聞かされてはいなかった。父ルーベンは当のレジーナを差し置いて、打診があった白銀機関に対し快諾する旨を伝えていたのである。

 だから彼女は行方をくらませたわけであるが、こうして舞い戻ったのはほかでもない。灯弥の娘が現れたからだ。決して父親の企てに協力するためではない。

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