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第八話「冷々たる別離」④

 ゼルクの帰還は唐突であった。いつもどおり鍾馗に稽古をつけてもらい、朝飯時に帰宅した時のことである。激しく明滅した庭に春雷かと出てみれば、青白い光に包まれたゼルクが待ち構えていた。

 ようやく帰ってきたか、と神楽夜は憎まれ口のひとつも用意したものだが、そこに養父の姿はなく、結局いまに至るまで言えないままでいる。

 余談ではあるが、家の裏手にゼルクの保管庫が建てられたのはこのあとで、野晒しにはできぬという麟寺の計らいからであった。

 そして、弟の朔夜がゼルクを動かせると知れたのも、まさにこの時である。

 誰にも動かせぬ鋼の巨体は片膝をついた体勢で、格納庫への収容に大変難儀した。それを見事解決して見せたのが、朔夜の同化能力であったというわけだ。

「どこで……いや、どうやって養父(とう)さんと」

 会ったのか。神楽夜がそう言いかけた瞬間、部屋に再びノックが響いた。

「入れ」

 レジーナの許しを得て使用人が片開きの扉を押し開け、「お連れしました」とさきほどと同じく顔を覗かせる。続けて扉が大きく開かれ、いつにも増して険しい顔つきの翳祇(かげるぎ)鍾馗が入室した。

「老師……」

 口惜しげな表情でつぶやく神楽夜を鍾馗は一瞬だけ見たが、すぐにレジーナへと歩み寄り、

「ショウキ・カゲルギです。さきほどは満足に挨拶もできず、失礼をいたしました」

 と握手を求めた。

 それにレジーナはしかつめらしい態度で応じる。

「こちらこそ。はるばる日本からようこそ。レジーナです」

「お父上にはご承諾をいただいております。早速ですが、トウヤ・イヴといつ、どこで会ったかを教えてもらいたい」

 鍾馗は穏やかな調子で言った。だが、まとった雰囲気はいつものとおり鋭い。今朝対面したブレイズ夫妻がそうであるように、相手が委縮してしまう怖さがある。

 けれど、レジーナはある一点を除いて眉ひとつ動かさず、

「お話しできることは特に」

 ときっぱり言ってのけた。これにはさすがの鍾馗も驚いた。

 この二十四階建ての高層マンションはシスル家の所有である。いま鍾馗たちがいる階はシスル家の別邸である最上階からふたつ下の二十二階、ゲストに貸し出すために空けられた階層になる。極端にものがないのはそのためだ。

 当主であるルーベン・シスルとは、この階層に関する今日の記録の一切を残さないことで合意している。鍾馗は、それを知らないレジーナが警戒心から黙秘を選んだものだと思った。

「ご心配はごもっとも。ですが、今日この場には誰もいないことになっています。それはお父上ともお約束済みだ。ですから、どうかお話しいただけませんか」

 しかし鍾馗は粘るうち、あることに気がつく。冷めた視線を向けてくるレジーナが唯一、微妙な反応を示す瞬間があることに。

(お父上……)

 そう、その言葉が出る時だけ必ず、レジーナは少し不満そうな顔をする。ほんのわずかだ。話を聞く顔のひとつとしてなんら違和感はない。けれど、この老獪(ろうかい)なる男が察するには十分な変化であった。

(やはり、この親子)

 鍾馗はこの部屋に通される前、上階でレジーナの父ルーベンと面会していたのだが、そこで感じた印象が間違いでないことを、いままさに確信した。

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