第八話「冷々たる別離」③
そんな無為な時間を過ごしているうち扉からノックが聞こえ、レジーナは入室を促した。扉が開くと、髪をうしろに撫でつけた使用人らしき男が顔を覗かせ、
「お嬢様。旦那様がお呼びにございます」
と、かしこまって告げた。
するとレジーナは深々とため息を吐き、眉間にしわを寄せて「呼びつけるか、普通」とつぶやいたあと、
「いい。私に用があるっていう老人を連れてこい」
と使用人に向かって圧も強めに言い放った。
その姿もなかなかどうして凛々しいもので、神楽夜は食い入るように見つめていたが、ふと、
(老人って、もしかして)
と疑念に眉をひそめた。
そう、その老人とはまさしく鍾馗のことである。帽子の男が去ったあと、男の言うとおり、倒した娘の迎えはすぐにやって来た。それが鍾馗であったのだ。
レジーナの指示に使用人は短く返事をし、素直に引き下がる。そして扉が閉まるのを見届けたレジーナは、横目で神楽夜を睨みつけるなり、
「お前、本当にトウヤの子なのか?」
と問いを放った。
しかし、なにゆえそんなことを訊かれるのかわからぬ娘は、「え?」と困惑した顔を浮かべるだけである。それが意に沿わなかったのか、
「いや……いい」
とレジーナはすぐに顔を背けた。
一方的に会話をはじめたかと思いきや、これまた一方的に切り上げられて、
(なにそれ)
と、神楽夜は不満げな顔つきをレジーナに向けるが、彼女の関心はもうこちらにない様子だ。黙って部屋の片隅を見つめたままでいる。
なにやら勝手に期待され、勝手に落胆されたようで、神楽夜はつい、
「養子ですけど」
とむきになった。そこにさきほどまでの羨望のまなざしはない。
それをレジーナは澄ました顔で受け流した。
「……なら納得」
「なんなんです? さっきから」
神楽夜は語気を強めた。
「いや、別に。トウヤの子供にしては随分ふわついてるなって」
そう言って、レジーナは神楽夜に一瞥すらやることなくバルコニーへ向かいながら、
「でも、迷ってるあたりは一緒か」
とつぶやいた。
その背中に神楽夜は問う。もはや礼節などありはしない。
「養父さんに会ったってのは、いつ?」
それにレジーナは「一年前の春だ」と簡潔に答えて窓を開けた。
「一年前?」
それは養父のグスタフ<アームド・ゼルク>が日本に戻ってきた時期に近い。




