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第七話「この幕間よ、永遠に」⑧


       *


 レジーナの捜索は難航していた。神楽夜は鍾馗と分担し、徒歩で街中を探す役目を担ったが、結局、成果は得られずじまいである。

 すでに陽は落ちかけている。

 神楽夜は一日中酷使した足を引きずりながら、がっくりと肩を落とした。

「どこにいんの、ほんと」

 心に留められない悪態がつい口を衝いて出る。

 レジーナ・シスルは決して凡庸な見た目ではない。鍾馗から写真を見せてもらったが、街で見かければひと目でわかるくらい見目麗しいのだ。ショートカットの金髪に碧眼、白い肌に鼻筋はすっきり通っていて、結ばれた小さい口が凛々しいその顔立ちは、中性的な印象すら与える。写真は趣味のヴィオラを弾いている時のものもあったが、それがまた麗人と呼ぶにふさわしい佇まいなのであった。

 だが、人ひとり見つけるにたったふたりではロンドンは広すぎる。

 自分の居場所は、鍾馗から渡された腕時計型の端末のおかげでかろうじてわかる。自分がテムズ川沿いにある大きな公園の近くにいるのだと確認すると、次に、鍾馗からの連絡がないか着信履歴を見た。

 が、それも一瞬のこと。左腕はだらんと力なく降りる。

(休も……)

 ため息を吐いて、薄暗い公園に進み入った。考えてみれば、昼を食べてからこの半日歩き詰めである。街の雑踏にあてられたのか頭痛を覚える彼女は、適当に座れそうなベンチを探した。

 公園は非常に大きく、自然が溢れている。ひとけもないし、身を休めるには絶好だ。静かな場所で深呼吸していれば、そのうち頭痛も治まるだろう。

 とぼとぼと公園のなかを進む神楽夜を追いかけて、道端の街灯に明かりが灯りはじめる。自分を追い抜いていくそれに沿って視線を動かせば、ちょうどベンチがあった。

 やっと休めると喜んだのも束の間、

(あれ……?)

 と神楽夜はベンチに腰掛ける人影を発見し、凝視した。

 街灯の明かりがベンチに降りる。

 金髪に白い肌に凛々しい面持ち。探し人は白いブラウスに黒いチノパンだけという潔さで、瞑想するようにしてそこにいた。

「レジーナ・シスル」

 神楽夜のつぶやきにその女は瞼を開け、自分を呼ぶ者を尻目に睨んだ。そして、組んでいたすらりと長い脚を解くや、ベンチからゆっくり腰を上げ、体を神楽夜に向ける。

 瞬間、神楽夜の疲れ果てた脳は危険を察知し覚醒した。間合いにして十三メートル。万が一に備え、彼女は重心を落とそうとする。だが、その時であった。

(速い――!)

 すでに懐にいる金髪の女は、両腕を顔の前で構えている。さながらボクサーのようだ。

 神楽夜は直感的に上体を横に倒した。刹那、閃光のごとき右拳が神楽夜の顔面があったあたりを貫いた。

 神楽夜はすぐに体勢を戻すが、それは相手も同様だ。すぐさま二の打ち、三の打ちが繰り出される。

(なんで急に!)

 襲われる理由などないはずである。彼女とは初対面だ。ともかく、事を荒立てるのは得策ではない。

「ちょ、話を!」

 神楽夜は防御に徹しながら促したが、女の勢いは増すばかりだ。

(くそ!)

 一度距離を取ろう。そう考えた神楽夜は鳩尾を狙った相手の一打を受け流し、けん制のために拳を放ち、そして驚いた。

(上手いな)

 拳の正確さや引きの速さも評価に値するが、なによりも受け方が上手い。神楽夜はけん制だからといってぬるい打ち方はしない。むしろ、それを狙うからこそ、相手が嫌がる打ち込みをするのだ。

 だがこの相手、手を出せば出すだけ、次が打ちづらくなる。

 女は表情を一切変えず、神楽夜の弾丸じみた一撃を涼しげに捌き続ける。

(ああ、もう!)

 つい頭に血がのぼった。たちまち全身の筋肉が爆熱し、打ち出される拳に腰の捻りが加わる。岩をも砕きかねない渾身の一撃である。それを神楽夜は、

「人の話を聞けって!」

 という心からの叫びとともに打ち放った。

 が、直後、

「おぐッ!?」

 と腹部を襲った衝撃にだらしない声をあげ、よろよろと地面に倒れ伏した。

 視界の端に青白い炎が揺らめく。それはレジーナの左腕から発せられている。

 その炎のなかに、丸みのある逆三角形型をした巨大な影があった。

(盾……?)

 それが、その場で神楽夜が見た最後の光景となった。



 つづく

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