第四話「熱砂の邂逅」⑧
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ひとけのない旧プラハの郊外には、朽ちかけた教会がひっそりと佇んでいる。
なかの聖堂は日中だというのに薄暗く、ひんやりとした空気が満ちる。壁は古式ゆかしいレンガ造りで、最奥には天使のような女神像が建てられ、その背後にあるステンドグラスから淡い光を浴びていた。
その光の落ちるさき。まるで女神の祝福を受けるかのように、両膝をついて静かに祈りを捧げるひとりの修道女がいる。顔はうつむき、頭を隠す修道服のフードからは、清流を思わせる爽やかな青い髪が垂れている。
胸の前で組んだ両手は雪花のごとき白さである。その手が、背後からした扉が開く音に、ぴくり、とかすかに震えた。
聖堂の幅広な木製扉を軋ませながら押し開けて、外からの逆光を受けた人影がひとつ、入ってくる。
その人影は、
「イネッサ」
と少々歳を感じさせる男の声で言ったが、そこにはわずかばかりの冷たさがあった。
名を呼ばれた修道女は静かに目を開け、
「お父様」
と上体だけをねじ向けて固まった。
父の一歩うしろにもうひとつ、大柄な人影があったのである。彼女はその者に心当たりがあった。
「娘のイネッサです」
と、父は背後にいる人物に道を譲る。イネッサは会釈も忘れ、進み出る人影を凝視しながら立ち上がった。
靴音が数度、聖堂内にこだました。
逆光から現れたのは、父より歳が十は上であろう老年の、褐色肌をした神父だった。
色が薄れた髭に、うしろへ撫でつけた白髪は確かな老いを感じさせる。しかしそれに見合わない厚い胸板は、この者が武辺の者であることを証明している。
「本部からいらっしゃったグラディア様だ」
父の紹介にイネッサは息を呑んだ。
はるばる旧ローマから訪れたその理由を、彼女は聞くまでもなかった。
自身の背中に現れた龍を模した謎の紋様。聖痕といわれるそれを、彼は確かめに来たのだろうから。
つづく




