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第四話「熱砂の邂逅」⑧


 *


 ひとけのない旧プラハの郊外には、朽ちかけた教会がひっそりと佇んでいる。

 なかの聖堂は日中だというのに薄暗く、ひんやりとした空気が満ちる。壁は古式ゆかしいレンガ造りで、最奥には天使のような女神像が建てられ、その背後にあるステンドグラスから淡い光を浴びていた。

 その光の落ちるさき。まるで女神の祝福を受けるかのように、両膝をついて静かに祈りを捧げるひとりの修道女がいる。顔はうつむき、頭を隠す修道服のフードからは、清流を思わせる爽やかな青い髪が垂れている。

 胸の前で組んだ両手は雪花のごとき白さである。その手が、背後からした扉が開く音に、ぴくり、とかすかに震えた。

 聖堂の幅広な木製扉を軋ませながら押し開けて、外からの逆光を受けた人影がひとつ、入ってくる。

 その人影は、

「イネッサ」

 と少々歳を感じさせる男の声で言ったが、そこにはわずかばかりの冷たさがあった。

 名を呼ばれた修道女は静かに目を開け、

「お父様」

 と上体だけをねじ向けて固まった。

 父の一歩うしろにもうひとつ、大柄な人影があったのである。彼女はその者に心当たりがあった。

「娘のイネッサです」

 と、父は背後にいる人物に道を譲る。イネッサは会釈も忘れ、進み出る人影を凝視しながら立ち上がった。

 靴音が数度、聖堂内にこだました。

 逆光から現れたのは、父より歳が十は上であろう老年の、褐色肌をした神父だった。

 色が薄れた髭に、うしろへ撫でつけた白髪は確かな老いを感じさせる。しかしそれに見合わない厚い胸板は、この者が武辺の者であることを証明している。

「本部からいらっしゃったグラディア様だ」

 父の紹介にイネッサは息を呑んだ。

 はるばる旧ローマから訪れたその理由を、彼女は聞くまでもなかった。

 自身の背中に現れた龍を模した謎の紋様。聖痕といわれるそれを、彼は確かめに来たのだろうから。



 つづく

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