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第一話「黄金の騎士と黄昏の少女」①

[ 第 一 章 登 場 人 物 ]

【日本】

威武(いぶ) 神楽夜(かぐや):外見年齢十七前後の娘。色白で、長い黒髪に赤目。記憶がない。背中に、袈裟に斬られたような傷痕を持つ。

威武 朔夜(さくや):外見年齢十三前後。神楽夜の弟。機械と同化できる。

威武 灯弥(とうや):神楽夜と朔夜の養父。鳳鱗拳(ほうりんけん)の使い手。行方不明。

御剣(みつるぎ) 麟寺(りんじ):御剣家当主。吽形(うんぎょう)のごとき顔を持つ巨漢。

翳祇(かげるぎ) 鍾馗(しょうき):翳祇家当主。厳めしい面をした痩身の老人。

祀木(まつるぎ) 風歌(ふうか):祀木家当主。巫女。白神の摂政役を務める。

神皇泉(こうおうせん) 白神(びゃくしん):国家元首。御年十三歳の少年。物腰が柔らかい。

神皇泉 紫蘭(しらん):白神の実妹。十二歳。気が強い。


【地球連合】

ミルコゥ・コルネリース・ハウトマン:中将。ひょうきんな口髭が特徴の英国紳士被れ。地上のおよそ三分の一を統治する男。変人。

マシュー・ゲッツェン:中佐。自信過剰ながらも、操縦技術に優れた青年。

ケイン・アルカン:中将。連合の実質的指導者。雲のような口髭を持つ老人。


白銀(しろがね)機関】

エルソード:黒騎士。黒い軍帽に黒い外套を身に着ける男。

グラッグス・ヴァルド:筋骨隆々とした巨躯を持つ、ライオンのような大男。

オルテンシア・ワトホート:金のくせ毛に白い肌の、淡雪のような優男(やさおとこ)


【傭兵】

シーカー:だらしない風貌の男。ヴェントゥスという赤い輸送艦を所持。

() 九垓(くがい):流れ者の青年。俊足と体術が武器。あと腐れない性格。


【民間人】

ジック・ブレイズ:赤いカウボーイのような身なりをした長髪の男。

アルマ・ブレイズ:ジックの妻。病弱。赤い髪を三つ編みにしている。

イネッサ・イヴァーノヴナ・イリューシナ:修道女。うしろ向きな性格。父はイヴァン、母はアリサ。

レジーナ・シスル:シスル財閥の令嬢。金の短髪のさばさばとした少女。

石川(いしかわ) 剛三郎(ごうさぶろう):人身売買の被害に遭った日系の少年。兵器の扱いに長ける。

グラディア:褐色肌の神父。中年だが体格が良く、厳かな雰囲気を放つ。

ビリエラ:反連合組織<ブードゥーの風>に属する女兵士。色黒で坊主頭。


【所属不明】

アレス・ヴァールハイト:フルフェイスヘルメットで顔を隠した、黒ずくめの人物。

帽子の男:猛禽類のような目をした壮年の人物。

 


      序 章



 邪雲(じゃうん)が覆う夜半(やはん)過ぎ、川の激流のような雨音が、あたりを塗りつぶしていた。

 時折、獰猛(どうもう)な獅子が喉を鳴らすかのごとく雷鼓(らいこ)が轟く。次いで(ひらめ)く雷光に、あたりの山林は影絵と化す。

 その一瞬。

 山中を行く何者かの駆けりによって、地面の淀みはしぶきを上げた。

 断続的な雷光がかろうじて照らし出すのは、闇に紛れて走る、黒い雨合羽姿である。

 月明かりすらないというのに、かの者の足取りには迷いがない。大木の幹から幹へ易々跳び渡ると、向かいの山が見渡せる谷合に出て、足を止めた。

 天を裂く轟音とともに幾度目かの閃光が走る。それが、額まで覆うフードから覗く、厳しい男の眼光を明らかにした。

 その男――威武(いぶ)灯弥(とうや)が睨みつけるさきにあるもの。それは、対面する山の中腹、生い茂る樹木のなかから黒雲に向かってまっすぐ伸びる、青い光の粒子だった。

 帯をなし、上へいくほど薄らぐその光は、稲妻とは明らかに異なるものだ。まるでなにかが落ちた軌跡のような、そんな趣さえ感じさせる。

(まさか、(まゆ)か)

 灯弥は胸中にそうつぶやき、鷹のような目をさらに鋭くした。

 こんな嵐の夜に、それも、たったひとりで山に入るなど正気の沙汰ではないことくらい、この男も承知している。

 それでも、無理を押してここまで来たのは、ほかでもない。あの光の正体を確かめるためだ。

 灯弥は光の出どころを目指し、風を切って駆け出した。

 やがて光の根本にたどり着いた時、灯弥は目に飛び込んだ光景に息を呑み、怪訝に眉根を寄せた。

 そこは、これまでの鬱蒼(うっそう)とした樹海とは打って変わり、木々が避けるようにして広い平地を作り出していた。一面に咲き乱れるは、淑やかにうつむく白き月下美人である。谷合から見えたように、この空間そのものが淡く青白い光に包まれている。それも相まって、花の白さはぼうっと光を放つかのようで、彼女たちの密やかな花めきは、一層妖しさを極めていた。

 さらに目を凝らす灯弥の鼻先に、フードを伝う雨水が行き場を求め、滴り落ちる。

 すると、

(あれは)

 彼は刮目するなり、迷うことなく花園に踏み入った。

 進むにつれ雨は弱まり、重々しい雲たちはどこかへ流れていく。その雲間から、ちょうど新月の夜空が顔を覗かせた頃だった。

(こいつは……)

 と、灯弥は花園のなかほどで足を止め、そこに横たわる少年と女を見下ろした。

 ここは人里離れた山である。人が、ましてやこんな嵐の日にいるはずはない。いるとすれば自分のように事情を抱えているか、あるいは単に命知らずなだけであろう。

 しかしどうやら、彼女らは前者のようだった。

 灯弥にそう思わせたのは、ふたりの服装である。

 灯弥の右側、仰向けに倒れる黒髪の少年は、一糸まとわぬ姿であった。見たところ外傷はなさそうである。

 だが片や、すぐそばでうつ伏せになった女のほうは、露わになった白い背中を、右肩から袈裟に斬られていた。長かっただろう黒髪もその剣筋に沿って切り取られたか、不均等な長さで放り出されている。出血は著しく、身に着けた花嫁衣裳のような純白の衣服と、その下に咲き誇る花々は、いまや黒々とした赤のまだら模様に色づいていた。

 灯弥は女の口元に左手を伸ばす。

(まだ息がある)

 すぐさま止血に取り掛かろうとした矢先、その視界の隅になにかを感じた灯弥は動きを止めた。

 そして、はたと首をねじ向ける。

 果たしてそこにあったのは、清白なる花々のなかでただ一輪、さらりと夜風に揺れ遊ぶ、紫のすみれの花だった。

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