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別れ話をしたその後、私は一人カラオケに駆け込んだ

作者: 七村 沙友

 付き合っていた人とうまくいかなくなり、直接会って別れ話をした。その後、私はカラオケに入って一人で失恋ソングやその時流行っていた曲を歌った。直行で家に帰りたくなくて、どこかに寄り道したかったのだ。それも、行ったら心がスカッとするような場所に。



 カラオケは、辛い出来事を忘れさせてくれる最高のスポットだった。それからというもの、まだ数回しかないけれど、「別れ話をしたらカラオケに行って発散する」というのがお決まりのルートになった。





2021年2月 大学1年生


 初めて彼氏ができたのが高校三年生の十二月で、それから一年くらい付き合っていた相手とお別れした。私は交際一年を超えたあたりから気持ちが冷めていったのだが、お互いLINEの返信も遅くなっていた。


 そして一週間連絡を取らないときがあり、しなくても平気だった自分に、私この人がもう好きじゃないんだなと気づいたのである。そうして直接会い、私から別れ話をした。


 それでもなぜか言っている間に悲しくなって、私は自分勝手に泣いた。振る方が泣くなんて意味が分からない、そう思われても仕方ないと思う。それでもそのときは、恋人との別れを経験したことがなく、別れなければならないということがただ悲しかった。初めての彼氏ということで、情も芽生えていたのだと思う。


 

 話が一通り終わった後、彼は私を駅まで送ってくれて、電車の発車とともに私たちは一生の別れをした。一番の仲の友達に「別れちゃったんだけどどうしよう」と連絡した。友達はすぐに返事をくれて、励まされながらなんとか涙をこらえた。



 もう時刻は夕方だったのだが、私は家に帰る気がなかった。当時は実家暮らしで、この状態では家族の前でも泣いてしまうと思ったのだ。彼氏がいることは母にしか言っていなかった。父に言うのが照れ臭かったからだ。だから私が家で泣いてしまえば家族は混乱するだろうし、それも恥ずかしい。


 そう思って、私は家の最寄り駅のカラオケに勇気を振り絞って入った。人生初の一人カラオケだった。



 一時間コースを選んで、メロンソーダを注文した。私はどかっとソファに座って脱力した。人が見ていない安心から、また涙が流れてきた。もうこれは、歌うしかないと思った。


 私は一曲目にDISH//の「猫」を入れて歌った。歌の中の猫を好きだったあの人に重ねながら。それから間奏の間に次の曲を入れていった。鬼滅の刃の映画版で流行ったLisaの「炎」や、衝撃デビューで話題沸騰中のYOASOBIの「夜に駆ける」を歌ったら息が切れそうになった。メロンソーダを乾いた喉に流し込む。炭酸が結構強くて、それがまた心を刺激するようで辛かった。



 それから失恋ソングは他に何があったか思い出して、瑛斗の「香水」、高校時代に片思いが実らなかったときに聞きまくったBack numberの「半透明人間」も歌う。


 有村架純と菅田将暉がW主演の映画「花束みたいな恋をした」がヒットして流行っていたAwesome City Clubの「勿忘」も。当時ハマりすぎて音楽アプリで繰り返し聞いていた。


 その後はAikoの「カブトムシ」を歌い、あいみょんの「わかってない」を、彼氏に、いやもう既に元カレとなった人に向けて歌った。



 そうして最後にもう一度、「勿忘」を歌った。私にも春が来る、新しい出会いがありますようにと思った。一時間経ってしまったのでカラオケを出る。


 また現実を突きつけられたようで辛くなるが、家に帰っても親の前では泣かなかった。夜、寝る前に一人でベッドの中で枕に顔をうずめて泣いた。それから三日間くらいは一日一回泣いていたが、四日目は泣かなかった。一か月もすれば辛さは少しずつ消えていった。





2023年1月 大学3年生 現在

 元彼と別れてから一年後に新しい彼氏ができた。私は今回はきっと上手くいくと思っていたが、それでもその人とも一年くらい付き合って別れてしまった。


 遠距離恋愛をしていて、電話で別れ話をした。電話口では泣かないつもりだったのに、私は最後に少し泣いてしまった。最後に「それじゃあ、元気でね」と言われて電話を切った。胸がざわざわしていてもたってもいられなくて、私は家を飛び出してあそこに向かった。行きたいところは一つしかなかった。



 一時間コースを選んで、ワンオーダー制だったのでジンジャーエールを注文して個室に駆け込む。

コートをBOXソファに放り投げて、ついてきたストローでジンジャーエールを喉に流し込む。涙はカラオケに入店したときには止まっていたみたいで、これはもう歌って忘れるしかないと思った。


 私は一曲目に最近流行りのSaucy Dogの「シンデレラボーイ」を選んで歌った。メロディーにハマってサビ以外の歌詞をちゃんと聞いたことがなかったが、今の私の気持ちとかなり同じで心苦しくなる。


 自分を元気づけようとVaundyの「怪獣の歌」とAdoの「私は最強」を歌う。高音を叫ぶように歌ったら少し落ち着きたくなって、優里の「ドライフラワー」を歌って悲観に暮れる。注文してたポテトが届いて、お腹が空いていた私は間奏の間に次々と口の中に放り込む。


 そしてふと、前にも同じようなことがあったことを思い出す。そう思ったら、知り合って連絡を交わしてデートをして、付き合ってうまくいかなくなって別れるっていう一連の流れがこの先何回もあるんだなと思って、それが酷く無意味なことに思えてきた。


 どうせ別れるなら、付き合う意味ってないじゃんか。そうやってネガティブ思考が始まるのだ。

もう恋愛なんかしたくない。



 心がしんどいけれど、何か歌ってないともっとしんどくなりそうなので歌うことにする。マカロニえんぴつの「なんでもないよ、」と藤井風の「死ぬのがいいわ」を歌う。死なないでほしいのか、死ぬのがいいのかどっちなのかよくわからない。でも、藤井風ってどれほど辛い恋をしたんだろうか、この曲を聞くとその辛さがしみじみと伝わってくる。


 それからあいみょんの「ジェニファー」を歌って、クリープハイプの「ナイトオンザプラネット」を歌っていたら電話が鳴った。これじゃあなんだか気持ちがすっきりしてなくて、最後にテンションを上げようということでYOASOBIの「大正浪漫」をソファから立ち上がって歌った。幾分気持ちが晴れた。


 マイクを元の位置に戻して、伝票を持って部屋を出る。お金を支払って外に出たら、もう辺りは真っ暗になっていた。


 空を見上げて「あーあ」って、何か空しくて漠然と怖くなる。

 一時間も何をやっていたんだろうと現実を目の前にして苦しくなる。

 

 それでもカラオケに行かなかったよりは行ったほうが気持ちが少しでもプラスになっていたらいい。カラオケって、行かなきゃだめなときが、どうしても必要なときが、生きている中で私たちにはあるのだと思う。



 朝なのか夜なのか時間軸のない場所で、路上でも家でも学校でも会社でもできない大声での遊び。歌って踊ってもう嫌だって叫んだりして。


 そうやって、なんだかもうどうでもいいやって開き直れたら、少しずつ私たちは回復していけるのだと思っている。


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