こんにゃく伯爵
少し昔、あるところに、こんにゃく伯爵という、一風変わったご老人が住んでいました。ご老人の容貌はまさに、こんにゃく、プルプルして、弾力性があって……、っと申し上げたいところですが、姿形は、一般の老人と変わりなく、白髪があり、眉毛も白く、長い、口から始まってアゴから耳まで続く、口髭を蓄えている、という見た目です。服は乞食が着ているような、ボロきれの一張羅でした。靴は履いていなく、裸足で、足の指はボロボロでした。
さて、このお爺さん、一見すると乞食の様な身なりをした特別変わった所がない爺さんの様な感じを受けたと思いますが、何が「変わって」いて、何が「こんにゃく」なのでしょうか。ちょっと見ていきましょう。
ある日の朝、こんにゃく伯爵のボロ屋に、若者が訪ねてきました。
「こんにゃく伯爵!いるぅ~~~っ!?」
若者は学ラン姿で、歳は、17から18と思われました。
「何じゃ、また相談かあ?」
こんにゃく伯爵はめんどくさそうに中から答えました。
「いいや、相談じゃなくて、報告!こんにゃく伯爵はいつも家にこもって世の中のこと、全然知らないとは思うんだけど、今、世間では今、コレを持ってなきゃおかしい、っていう風潮なんだ。ちょっと見てみてよっ!」
「何じゃ?コレ?」
「チョコレートかあ?」
「違うよっ!伯爵!コレはスマートフォン、っと言って、ほぼ何でも出来る、夢の機械なんだっ!!人類の叡智の結晶だと言ってもいいっ!」
「スマート、フォン…?」
「うん。四角いから新手のチョコと勘違いしたのかも知れないけれど、伯爵の分、契約しといたから使ってみてっ!じゃあねっ!」
若者はさっさと走り抜けて、消えていきました。
「おいっ!ちょっと待て!………、ったく。」
–––––それから三ヶ月後–––––
「伯爵~~~っ!暫くぶりに遊びにきたよお!どお?調子は!?」
しかし、若者は驚くべき変化に気づく–––––
「あれ?こんな豪邸に住んでたっけ?お手伝いさんまでいる…っ。何があったんだ!?」
「伯爵~~~!!!」
すると門番と思われる男が現れて、
「こんにゃく伯爵様とお約束かな!?」
「いえ、約束はしてないんですが、ちょっと会いにきました。伯爵に言えばわかってくれると思います。」
「少し待っていてください。」
門番は通信機を用意して、
〈伯爵、伯爵、………、貴方に会いたいという、若者が一人みえているのですが、お通ししますか?……、ああ、はいっ。分かりました。はいっ。〉
門番は少年に向き直って、
「伯爵はカメラでこちらの映像を見て、君は友達だから通しなさい、とのことだ。では、私についてきて」
「はい。」
今更気づいたが、門番はすごくガタイがよく、黒のタキシードを無難に着こなしていた。相当、ボディガードの腕が立つのだろう。
そして、金のシャンデリアが吊るされている、ホールを抜けた先に、伯爵の部屋があった。その扉は金粉で芸術的な縞模様が施されている。
–––––––じゃあ、入りますよ?–––––––
「結構」
「ガチャッ」
すると若者の眼前には––––––
自撮り棒を片手にYouTubeの撮影をしている伯爵の姿がっ!なんと、本格的なことに、顔を照らす、照明まで完備されている。
「ハロー、今日もYoutube始めるよ~、おっと友達が来たから、一旦撮影止め!」
すると、YouTubeの撮影スタッフと思われる男性が、照明を消した。
若者は唖然として、
「一体、何があったんですか!?伯爵!!!」
伯爵はちょっと照れ笑いを浮かべて、はにかむように、
「実はあれから、スマートフォン、研究に研究を重ねてな、YouTubeにハマったんじゃ、最初はそれこそ見る方の。しかしその後、わしの長年の知恵をこれで発信できるのではないか、と思いついてな。少し軽い気持ちで始めてみたら、今じゃ登録者数一兆人じゃ。はじめしゃちょーを優に超えている。すると、広告収入でお金が入ってくること、入ってくること………。ダテに訪ねてきたものから教えてもらったことをゼロからプラスアルファにどんどん足していく、やわらかいアタマ、“こんにゃく“伯爵じゃないじゃろう?今じゃ億万長者じゃ。今までも、わしのところに新しい物事を教えにきた者のくれた知識をそれこそプラスアルファしてきたが、お金に結びついたのは今回が初めてじゃ。君には感謝しかない。感謝の印として高級車でも買ってあげようか?免許がないなら教習所代金も出すぞいっ!?」
若者は少し躊躇ったが、
落ち着いた声で…、
「いいえ、僕は何もしていません。むしろ、悪意さえあった。いくら、アタマがこんにゃくの様に柔軟で、探究心に満ち満ちてる伯爵でも、さすがにこんな老人にスマホを持たせても、あたふたして、けっきょく使いこなせなくて、泣きをみる、と…。今日見にきたのも、けっきょく、それが見たかったからなんです…。最低でしょ?」
伯爵はきびしい顔をしたが…、
「いいや、動機は確かにけしからんが、この成功が君によるものだという事実は変わらん。相変わらず感謝しているよ。本当じゃ。何でもいい、欲しいものを一つ言ってくれ。感謝の印を示したいんじゃっ!」
若者は長考した後、
あっさり言った–––
「あなたとの真の友情が欲しい。本当の意味での」
–––完–––