人形少女と魔王少女は誓い合う 下
≪リリside≫
一度流れ出してしまったら何をどうやっても涙が止まらない。
もしかして転生してからこんなに泣いたのは初めてかもしれない。
もうなんかね…自分が情けなくて仕方がない。
「前にマオちゃんが…私の事は分かってほしいって言ってたから…頑張ってずっと考えてたけど…やっぱりなんでマオちゃんが悩んでるのかどうしてもわからなくて…ぐすっ…」
「あ~…?え~と…ん?あれ?どういうこと…?」
マオちゃんがきょとんとした顔で目を白黒させている。
不甲斐ない私に呆れられてしまったのかもしれない。
だけどやっぱりもう私にはどうすることもできないから…全部話してしまうしかない。
「マリアさんからマオちゃんのこと聞いて…そのせいでマオちゃんが悩んでるんだってわかったんだけど…だけど何を悩んでいるのか…どうして私に話してくれないのか全然わからなくて…でもちゃんと分かってあげないとってずっとずっと考えてたけどわからないのぉ~!わ~ん!」
「いや…分からないって…えぇ?その理由自体が悩みというか…あれ…?」
やっぱり私にはよくわからなかった。
だからちゃんとマオちゃんに話を聞こう…それで怒られたらもう謝ろう…それしかない。
「ごめん…わからないから教えてくれると嬉しい…」
「え…だって…その…だから私は魔族でも人でもなくて…作られた存在で…」
「うん」
「それでえっと…神の言いなりになって魔族から変なものを回収するための存在でもあって…」
「うん」
「…いやじゃないの…?」
「なにが…?」
「えっと…だから…あれ…?」
お互いに見つめ合いながらも首をかしげる。
なんか話がかみ合っていない?
「ん~と、マオちゃんはつまり自分が作られた存在だと言うこと自体が悩みだって事…?」
「まぁ簡単に言えば…?それ以外のこともそうだけど全部ひっくるめてその…気持ち悪かったり不気味だったりとかそういう事思われちゃったりしないかなって…」
「思わないけど…」
「…いやちょっとは思うでしょ!?ショック受けたりしないの…?その…恋人だとか家族だとかいろいろしちゃってた相手がそんな存在だなんて…」
「確かにそうなんだ~とは思ったけど…」
「なら!」
いやでも…だってだよ?そもそもな問題マオちゃんが誰かに作られた存在だとして、なにか大きなことに巻き込まれてるのだとしてだよ?
「それが私がマオちゃんの事を好きな事に何の関係があるの…?」
マオちゃんが目を見開いたのがはっきりと見えた。
また見当はずれの事を言ってしまったのだろうか…?
怒らせてしまったかもしれない…謝ったほうがいいだろうか…?
「あ、あの…マオちゃん…」
「リリ本気で言ってるの?」
「え?勿論本気だけど…」
「ほんとにホント?」
「う、うん。だってそもそも私も人形だし…それがなくてもやっぱり何も変わらないと思うんだけど…」
「そっか…そうだよね。うん。確かに私も立場が逆だとしても…リリのこと好きだもん」
ゆっくりとマオちゃんの手が伸びていて私の頬に触れた。
「怒ってない…?」
「どうして怒ってると思うのか。まぁでも…そうだよねリリはいつだってそうだって思ってただけだよ…ってなにこれ」
そこでマオちゃんがようやく自分の身体の変化に気が付いたらしい。
マオちゃんの腕は赤黒い痣のようなものでびっしりと覆われていた。
さっきまで倒れていた代償のような物らしくて害はないってクララちゃんは言ってたけど見ている分にはなかなか痛々しい。
まぁ今まで気づかなかったのだから痛かったりはしないみたいだけど。
寝ている時に服を脱がせて確認したところ、以前のコウちゃんみたいに身体の半分くらいに痣が飛び散るように広がっていた。
「害はないって言ってたから大丈夫だよ」
「…見た目もなんだか怖くなっちゃったね」
マオちゃんは少しだけ笑うと私の身体に両手を回して自分の側に後ろに倒れ込んだ。
私がマオちゃんを押し倒すような体勢になり、ベッドがギシッと軋む。
「マオちゃん…?」
「ねえリリ。こんな私でもちゃんと愛してくれる?」
こんな私とはどんなマオちゃんなのだろうか。
どうもこうもマオちゃんはマオちゃんで…何も変わらないと思うのだけど。
「もちろ、」
「もしそうなら…言葉じゃなくて…してほしい。ちゃんと愛してくれるんだって私に信じさせて」
鈍い私でもさすがに何を言われているのかわかる。
マオちゃんの瞳は不安そうに揺れていて、身体も少し震えている。
「…だめ…かな」
そんな風に小さく呟くマオちゃんを見てしまったら無理だとは言えない。
いや、病み上がりだし無理させられないよねとか一瞬考えたのだけど…していいというのなら私はするよ!?
ぶっちゃけマオちゃんがいいというのなら週8でしたい。
私はこんな身体だから自分に対してはもちろんそんなことできないんだけど…不思議と気持ちよさげなマオちゃんを見ると私も気持ちがいいのだ。
それに恥ずかしそうにしながらか細く声を出すマオちゃんを見てるともう…ね。
だからもう正直できる事なら家に引きこもって数日間快楽だけに溺れてみる生活とかしてみたい。
そんな事ばっかり考えてる。
マオちゃんは何やらシリアスな雰囲気にも関わらずだ!!
なので私は己の中の溢れ出さんばかりの煩悩を9割ほど抑え込み、きわめて紳士…いや淑女?のようにいたって冷静ですよという風を装って笑いかけた。
「ダメじゃないよ。むしろありがとうございます」
「あり…?」
「ごほん!げほん!…じゃあするね」
「うん…きて…」
────────
そして数十分後…いや1時間…3時間くらいだったかもしれない後。
「身体、大丈夫?」
「…」
「マオちゃん…?」
「…途中でもうやめてって言ったのに」
「ご、ごめん…」
煩悩抑えきれませんでした。
どうやら身体を動かせないようでマオちゃんは枕を抱えて真っ赤な顔で弱弱しく私を睨んでいる。
いやそういう顔されるとさぁ…こうなんかもう一回くらいって…。
「これ以上は本当に怒るから」
「ごめんなさい…」
「でもまぁ…ありがとうリリ」
「な、なにが…?」
なんでお礼を言われたのだろうか私。
だめだ…今日はマオちゃんの事がいつにもましてくみ取れない。
「ちゃんと愛してくれてるんだってわかった。もう…私いろいろ悩むのやめる。今までめんどくさい事ばっか言ってごめんね」
「んん!?」
本格的に意味が分からなくなって困惑しているとマオちゃんは楽しそうに笑って…そして私はさらに訳が分からなくなるの無限ループ。
「思えばリリはアマリリスの時からそうだったもんね」
「アマリリスの時?」
どの時だろう?何の話だ?
「ほら前に悪魔さん達がアマリリスにぽろっと私たちと血が繋がってないの話しちゃったことがあったじゃない」
「あぁ~」
そういえばあったねそんな事。
あの時は色々と大変だった…まず意味を理解したアマリリスが大泣き。
さらにリフィルまで大泣きし、ブチ切れたメイラが悪魔ちゃんたちを血祭りにあげと大騒ぎだった。
いつも泣いてるアマリリスだけどその日は本当に酷くて、泣きすぎて吐いていたくらいだ。
「あの時リリがアマリリス達になんて言ったか覚えてる?」
「なんか言ったっけ…?」
「「確かに血は繋がってないけど、それ何か関係ある?」って」
「あぁ~」
言われてみればそんな事を言った気がする。
「ふふっ。リフィルもアマリリスも顔をポカーンとさせてさ「関係ないの…?」って」
「はいはい、思い出してきた。確かその後に「だってアマリリスが私たちの子供でリフィルの妹なのは変わらないでしょう?」って返したの覚えてるよ~」
実際関係なくない?って思ってるし、そんな重要な事かなぁ?と一人シリアスになれていなかった気がする。
そのときの事をなんとなく思い出していると隣でマオちゃんが心底楽しそうに笑っていた。
「な、なに…?」
なんで急に笑い出したのか全然分からなくてオロオロ。
「全部解決したって事。リリのおかげでね」
「良く分からないけどそうなんだ?…あ、じゃあさ」
本当にこのタイミングか?と思いはしたけどじゃあ逆にいつだ?とも思ったので私はマオちゃんに指輪を差し出した。
「さっきのやつ…?」
「うん。結婚指輪」
「なにそれ?」
「えっとね…私とマオちゃんがずっと一緒だって目に見える形で証明するための指輪的な?」
「へ~…不思議な文化だね」
マオちゃんが指輪を一つとって自分で、しかも人差し指にはめようとしたので慌てて止めた。
「ちゃんと指が決まってるからだめー!」
「そうなんだ。どこ?」
なんかマオちゃんはこういう時に不思議とムードが無くなるところがある。
困ったもんだ全く!
「貸して。これは私がマオちゃんに嵌めてあげるから」
シンプルな銀の指輪をマオちゃんの左手の薬指に通していく。
丁度いい位置まで通ったところで本当に魔法の指輪だったらしく、マオちゃんの指のサイズにひとりでに縮まった。
「おぉ~」
マオちゃんはなんだか気の抜けたような声を出した。
感動しているのか…それともよく分かっていないのか分からない。
「ん、じゃあもう片方は私が嵌めてあげればいいの?同じ指でいいのかな」
「う、うん」
私はちょっとドキドキしながらマオちゃんの指の動きを見つめていた。
まぁマオちゃんの腰が砕けてしまっているから寝そべった状態でっていう不思議な状況だけど…でも私はとっても嬉しかった。
やがて私の指に指輪が嵌まると。
「ふわぁああああああああ」
なんか変な声が出た。
それくらいなんだかくすぐったくて嬉しかった。
「リリ嬉しそう」
「うん!とっても嬉しい!」
「そっか。じゃあこれからも…ずっとずっとよろしくね」
「うん。ずっとずっとよろしく」
私たちはベッドの中で指を絡め合って笑いあった。
それはすっごく幸せな時間だった。
しばらくそうしていると…マオちゃんが急に身体を起こした。
どうやら腰は治ったらしい。
「どうしたの?」
「え、嘘…え?リリ…?」
マオちゃんが自分のお腹を恐る恐る触った。
あ…まずい。
「えっと…」
「そういう事はちゃんと言って!!!」
「ご、ごめんー!!!!盛り上がっちゃってつい…」
「はぁ~…全くもう…」
マオちゃんは再び身体を倒してベッドにもぐりこんだ。
意外と怒られなかった。
「えっと…いいの?」
「いいよもう。…ちょっと嬉しいし」
「ま、マオちゃん!!」
「え、きゃぁ!?無理!今日はもう無理だから!」
その日一睡もできなかったマオちゃんの機嫌は翌日すこぶる悪く…私はマオちゃんの機嫌が直るまで口をきいてもらえなかった。




