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人形少女は魔王様依存症  作者: やまね みぎたこ


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ある神様の御伽噺11

 おかしい。

ここに書いてある文字を読むことは出来るのに意味が理解できない。

なに?何が書いてあるの…?


違うそんなはずない、だって…そんなことあるはずがない。

どんどん荒くなっていく自分の呼吸音に耳を背け、きっと何かの間違いだとさらに日記を読み進めた。


『ここにきて若干の行き詰まりを感じだした。もっと大量の力をレイから絞り出したいのだが…どういうわけか初期以上の物を取り出すことができなかった。精神的アプローチは自我が崩壊している今、不可能に近いので肉体的に様々な手段を用いたが結果は変わらず。今ではレイの実験による苦痛からの叫び声の対処を先にしたほうがいいのでは?と思うくらいだ。喉を潰しておいた方がいいかもしれない』


『上から「勇者の力」の実用化を急げとせかされ始めた。どうも魔王を討伐して以来、おとなしかったはずの魔族の動きが活発になってきているそうだ。どうしたものか…そもそも力などと言った抽象的なものを捉えるのがどれだけ難しいのか理解してほしいところだが…そうか抽象的か。私はやり方を間違えていたのかもしれない。捉えられないのなら確実に存在している物を捉えればいい。取り出せないのなら取り出さなければいいのだ』


服に穴でも開いていたのか私の懐から石がひとりでに床に落ちた。

やけに大きな音を立てながら石は黒い布が被せられた物の側まで転がっていってしまった。

拾わなければ…しかし手は伸びず…仕方がないので震える手で再びページをめくる。


『結果として私の考えは間違っていなかった。レイの身体自体を力そのものとして小さく分解することで身に着けるだけで絶大な力を得ることができるアイテムの生成に成功した。実験の過程でかなりの部分を消費してしまったが…まぁ問題は無いだろう。レイに施した処置の影響で放っておくと身体が崩壊してしまうのがネックだがその身体の少量の消費で魔族と互角以上に戦えるようになるのだから効率はかなりいい。だが量産しすぎるのはダメだと言われてしまった。なんでも管理が難しくなると都合が悪い上に魔族に奪われる可能性も0ではないからだとか。そういうところだけ頭が回るのが実に小賢しくて愛着すら湧いてくる』


ところどころに差し込まれる執筆者の感想などもはや目にすら入ってなかった。

先ほど転がっていった石…それの正体が何なのか…考えただけでめまいがする。


私はそれ以上この日記を読むことを辞め、目の前の黒い布に手を伸ばした。

またもや手が弾かれる感覚があったが、無視してそのまま布を掴み引っ張った。


「…っぁ」


そこにレイがいた。

大きな透明の筒の中で眠るようにして浮かんでいるのは記憶にあるレイのままで…100年の歳月など感じさせないそれはしかし…上半身だけしかなかった。

正確には胸から上だけが存在しており、そこから下は…まるで削り取られたようにして無くなっていた。


「うっぷ…あ、ぁぁ」


ついに耐えきれなくなり私は口から盛大に何かを吐き出した。

魔族が体調を崩し嘔吐したのは見たことがあるが…私には内蔵という物は存在しないので嘔吐などと言う現象はありえない。


だけど私は吐いた。なにかドロドロとした真っ黒い物を。

地面に落ちたそれはバシャバシャと不快な音を立てて床を汚していく。


「レイ…レイ…!待ってて今出してあげるから…!」


筒には一見して取り外しができるような部分は見受けられなかった。

見えていたとしてもそんなまどろっこしい事をできるほど私の精神状態は安定していないのだが。

取り出した刀の柄の部分で筒を割り、中にいた無残な姿のレイを抱きしめた。


軽い…あまりにも軽すぎる。

身体の大部分が存在していないというのももちろんあるが…だがそれにしても軽すぎた。

風が吹けば飛んで行ってしまうのではないかというほどだ。


「おい!あんまり一人で先にいかないで…これは…何があった?」


追い付いてきたのか、背後からレリズメルドの声が聞こえた気がする。

でも…それはどこか遠い世界でのことのようで冷たいレイの身体を抱きしめている私には届いているようで届いていない。


「レイ…ごめんなさい…ごめんなさい…私がちゃんとしてあげられなかったばっかりに…!」


――カランカラン…と何かが床に落ちた。


そちらに目を向けるとそれは見覚えのある石のように見えた。

それが一つ二つと床に散らばっていく。


どこからこんなに…?と見て見ればレイの身体からこぼれているのが分かった。

レイの身体がどんどん崩れ…いや、無数の石になっていく。


「嘘!いや…止まって…止まってぇええええええ!!!!!!!」


魔法で保護しようにも何故かレイの身体は私の力を受け付けない。

どうやっても身体の崩壊を止めることができない。


それだけじゃない…こぼれ落ちた石さえも光の粒子になって溶けるように消えていく。


何も…何も残らない。

私の大切な娘が跡形もなく消えていく。


「いや…やめて…お願い…他はなんでもいいから…それだけはやめて…お願いだから…」


いつの間にか溢れ出していた私の涙が…もうほとんど残っていないレイの顔に落ちた。

するとその閉じられていた瞳がゆっくりと開き、私を見た。


「レイ!?わたしがわかる!?待って、今すぐに…!」


今すぐになんだというのか。

この状況で私に何ができるというのか。

神様だというのに私は…あまりにも無力だ。


「おか、あ…さん…」


耳を澄ましても聞き取れるかどうかというくらいのか細い声でレイが喋る。


「私が分かるの!?しっかりしてレイ!このままじゃ」

「…おかあ…さん………ごめん…ね…」


それを最後にレイの身体は一気に崩れた。

私の腕の中から夥しいほどの小さな石がすり抜けるように転がり落ちていく。


「いやあああああああああああああああああ!!!!!」


地べたに這いつくばり、自分の吐き出した黒い物にまみれながらも必死に石をかき集めた。

だけどどれだけ集めても…その石は私が触れるだけで消えていく。

それからたった数分で…レイは何も残さずに消えてしまったのだった。

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