↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
朱色の雫【改稿中】  作者: 弦景真朱
第二章 朱南ーーシュナンーー
86/239

追憶ー幼き日ー

過去話(全五話予定)に入ります。

ーーー


 謎の爆弾事件から二日。

 私達は片付けや建物の修復をしていた。

 ふと法華へ視線を向けると、懐かしい写真を手にして笑っていた。私の視線に気づいたのか、写真を渡してくる。


「薬乃、覚えていますか、この写真」

「ん? ああ、音尉(ねい)の祭典の時のじゃない! 懐かしいわね!」


 傷だらけの私と法華が、並んで笑っている写真。

 十二祭冠を決めるための祭典で、音尉を決める最終決戦の相手が法華だったのだ。


「さて、少し休みますか」

「そうね、お茶入れるわ」


 片付けの小休憩として、お茶を飲みながら思い出話に花を咲かせた。

 今から数十年前。


「おい、薬乃! 待て!」

「ははは! 弱虫壮透! 追いつけるもんなら追いついてみなさーい!」


 私は一条家の当主の娘として生まれ、色名を持つ二条家の壮透とは幼なじみだ。壮透には兄が二人いる。時雨と、白蓮。そして、姉が一人。姉は偲様と言って、美しく、聡明な方。

 私は壮透と同い年だが、壮透の二人の兄のことも呼び捨てにしていた。偲様だけはなんとなく呼び捨てにできず、様をつけている。

 この国は、ナルス。数千年続く、宇宙界の中でも一二を争う大国だ。ナルスの長は、二条家の色名を持つ者が引き継ぐ。そして、一条家はナルスの長を支え、独裁政治を防止するための五家の筆頭。

 長であっても、五家会の決定は覆せない。

 私は、一条家の女。頭も運動も誰にも負けない。

 何不自由なく、特段大きな問題もなく育ち、壮透たちと同じ広場で遊ぶようになったのは齢五つの頃だ。十歳になった今も、毎日修行の合間を見ては抜け出してくる壮透たちと遊んでいた。


「修行を抜け出すなんて、紅蓮(ぐれん)様に怒られるわよ!」

「そう言うなら、早くそれ返せよっ!」


 紅蓮様。壮透たちの父親でありナルスの長だ。

 そして私が持っているのは、壮透の玉。


「なんでこれが必要なのよ?」

「その玉に規定量の氷雪系を貯めるって修行なんだよ! 今日は!」

「へえ」


 片目を閉じて玉を太陽に透かした。

 太陽の光が玉の中で反射して輝く。

 光に見惚れていると、背後から音もなく玉を取られた。


「悪いね、薬乃。これは返してもらうよ」

「あ、白蓮! いつからいたのよ……!」


 相変わらず整った笑顔で、自分の三つ年上とは思えないほど大人びて見える。むくれた顔で睨むと、気にしていないかのように白蓮は壮透に話しかける。


「ほら、しっかり持っていないと。忘れたのかい? 制限時間、残り僅かだよ」


 白蓮の手から放たれた美しい玉は、綺麗な弧を描いて壮透へ降り立った。


「薬乃に言ってください、兄上!」

「人のせいにしない。ほら、早く終わらせて」


 気がつけば壮透が私と同じ顔になっている。

 両手で一生懸命玉を握っているが、唸っている割には、玉に力が籠められているようには見えない。


「……ねえ、大丈夫なの? 壮透って本当に長になれる器なの?」

「薬乃、君もやってみるかい? 壮透の気持ちがわかるかもしれないよ」


 白蓮は私を見下ろしながら笑う。

この人は、弟のことになると肯定も否定もしない。

 齢十三とは思えないほど、年下の私から見たらすべてが卓越した存在。対照的に、壮透なんて白蓮がちゃっちゃとやってしまうことに大層時間をかける。考えるときも、実技も。私には壮透がちっぽけに見えるのだ。

 

「やる! 壮透より早く詰めて見せるわ」


 白蓮が笑いながら、何も籠められていない透明の玉をくれた。壮透は隣でうんうん唸りながら頑張っている。


「握って、玉の中に力を籠めるように。力の流れを想像すればできるよ」


 言われたとおりに、目を瞑って力の流れを手に集中させて、手繰り寄せるように玉へ籠めていく。

 徐々に色が変化する玉と、どんどん力が吸い取られていくような感覚に陥る体。体が浮いているように、足元が覚束なくなる。

 異変に気づいたのか、白蓮がすぐに玉を取り上げてくれた。


「薬乃、大丈夫かい? 意識は……あるね、よかった。まだ君は、そこまでセンナに許容量がないようだ、玉へ力を籠めすぎると、君のセンナの残量が不足して倒れてしまう。無理はせずゆっくりやっていこう」


 どうやら、センナの許容量は訓練や成長の過程で増していくらしい。私はまだ小さいようだが。

 少し残念に思っていると、隣で壮透が歓喜の声を上げた。白蓮と二人で壮透の方を見れば、満面の笑みで飛び跳ねている。


「できた! 兄上、できた!」

「うん、これなら合格じゃないかな。父上のところへ行こう。よく頑張ったね」

「できた? え、壮透なのに?」

「壮透も訓練しているからね。薬乃もいつかできるようになるよ」


 腕っぷしも、足の速さも、私に負けっぱなしの壮透が。私が最後までできなかったのに、玉へ力を籠めてもセンナが空っぽにならないなんて。

 白蓮に、あんなに褒めてもらえるなんて。

 なんだか少しだけやるせない気持ちになった私は、二人の背中を見送った後、しばらくその場でしゃがみ込んだ。


 あれから、数年。

 私は直感的に壮透に負けたことを、あれからずっと引きずっていた。彼にできて、私にできないことなんてなかったのに。

 あれからというもの、なんだか壮透にちょっかいを出すのも嫌になって、修行に明け暮れた。

 だけど、壮透に力で勝てたことはなかった。

 壮透の力は氷雪系が優勢の全属性。私は音属性と五感だけど、音属性で勝負しても、彼には勝てなかった。

 そして、そんな彼が、ある日あまり見た目が綺麗ではない女と裏庭で会っているのを見た。

 私は、恋愛にうつつを抜かすこともなく修行してるっていうのに。そんな風に思ってしまった自分が、酷く惨めだった。


お読みいただきありがとうございました。

引き続きよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。