裂ける大地と降り注ぐ弾丸
角や羽が生えた時雨伯父上は、数多の竜巻を巻き起こした。竜巻は無秩序に暴れ、私達を容赦なく襲う。
「お前たちを殺す。そして、香卦良をもらう」
「お前の好きにはさせない、時雨」
白蓮伯父上の隣りにいた香卦良が片手をかざせば、厚い氷の壁が竜巻の前に立ちはだかる。竜巻は壁に激突して、次々に衝撃波を生み出しながら消えていった。
「香卦良! 私達が相手をする。君は無理をしないでくれ」
隣で白蓮伯父上が急いで香卦良を止める。
香卦良は困ったように笑いながら、白蓮伯父上の肩を叩いた。
「白蓮。お前は本当に心配症だね。大丈夫、私は死なない。知っているだろう。こちらは皆手負いだ。私が相手をする」
「あの兄上の相手はいくらなんでも! 私と一緒にいてくれ。兄上の目的は君なんだ、香卦良」
焦る姿など見せたことがない白蓮伯父上が、香卦良に必死の説得をする姿を見てしまったら、居ても立っても居られなくなった。それは葉季も同じようで、葉季と顔を見合わせて頷くと、香卦良の前へ降りた。
白蓮伯父上が少し驚いた顔でこちらを見てきた。
「香卦良、あなたのおかげで私達は助かった。だけどこれからの戦闘でどうなるかわからない、万が一のときにはまた助けてほしい」
香卦良も少し驚いた顔をして、それから笑った。
「なるほど、助けてくれとはいい言葉だな。わかった。白蓮とともに後方支援部隊になろう。だが、無理はするな。いつでも前線へ……ごほっ」
「香卦良!」
急に口を抑えて吐血した香卦良を支えれば、香卦良はゆるりと首を横に振った。
「大丈夫、いつものことだ」
心配そうに見上げていたのか、香卦良は少しだけ笑った。
「朱己、お前は優しい子だ。さ、早く時雨を止めてあげなくては」
口を拭きながら思い出したように、香卦良が私と葉季に光の玉をくれた。
「お守りだ、お前たちの力を増幅してくれる」
短く頷いてお礼を言い、時雨伯父上と対峙している父の隣へ行く。
「朱己。十二祭冠へ通達」
「はい」
念を十二祭冠たちへ送る。予断は許されない。
『十二祭冠に告ぐ。これより中央で罪人時雨と戦闘に入る。手の空いた者は、特に地方の東、北、そして中央の守りの強化、中央付近の最前戦に加勢せよ』
『朱己! そちらは大丈夫なんですの!?』
『大丈夫よ、妲音』
『朱己姉! 無事で良かった! こっちは心配しないで!』
『神奈ありがとう! そちらは頼んだ』
それぞれがそれぞれの持ち場で戦っている。私も負けるわけにはいかない。
助けられた命。繋いでもらった命。
目の前の怪物に、炎で作り出した剣を中段に構えて立つ。
気がつけば、右手の闇の力は落ち着き、いつの間にか手の形になっていた。力の出力も安定し、元々の状態に近い。香卦良からもらった、寄生型のセンナのおかげなのか。
静かに時雨伯父上を見据えた、まさにその瞬間だった。
時雨伯父上が、静かに右手を天にかざす。
違和感を覚えて、咄嗟に衝撃を予想して構えた。
「まずは大地」
言葉とともに、大地が唸る。
大地は大きく裂け、民家や民が谷底へ飲み込まれていく。瞬時に兄が風や木々の属性で落ちていく民を掬い上げた。兄と薬乃に民の守りを任せ、高能にも護衛についてもらう。
高能といえば、洞窟から帰ってきてから作戦会議の後薬乃を探しに行ってもらっていたのだが、その間にこんなことになっていたとは思いもしなかっただろう、血相を変えて薬乃とともに先程合流した。
「民の治療は任せて、あんたたちは戦いに専念しなさい!」
下から薬乃の声がする。
これほど頼もしい後方支援も中々ないと笑顔で短く頷いた。
「大地は大食らいだからな。この国を割ってやるか」
「できるものなら」
兄が地上付近で構えれば、地上全体に一瞬でつるが這った。
伯父上の声とともに地鳴りがするものの、地面は割けない。
「百夜……何をした?」
これは、兄様の“蔓草”。表層だけではなく、地中にも蔓を張り巡らせてつなぎ合わせることのできる技。
実は稽古場の修繕等も兄のこの技を応用させてもらうことがしばしばあった。しかし、ナルス全土を覆うほどの規模で使える技だとは思っていなかった。これが兄様の、静尉の本気なのだ。心が少しだけ跳ねた。
「小賢しい……小賢しい!」
時雨伯父上が、地上めがけて大きな火球を投げつける。。
すかさず父が火球目掛けて氷の矢を放った。
火球は衝撃波を生み出しながら、爆発して消えた。
「まとめて消してやる……この国ごと!」
空が黒く染まっていく。
渦巻きを作るように雲が流れていく。
雷鳴が轟き、辺は嵐のように雨風が吹き荒れた。雨粒一粒一粒はさながら弾丸のようで、辺りを穴だらけにしていく。
まるでこの世の終わりの風景だ。
白蓮伯父上と香卦良が、国全土に防御の結界を張ってくれたおかげで、民を守る兄の負担が増えずに済んでいる。だが、この攻撃の嵐を早く止めさせなくては。伯父上たちも手負いの身。
時雨伯父上へ向けて駆け出す直前、天の雲が丸く開き、そこから一筋の閃光が降ってきた。瞬きをするよりも早く、それは一瞬の出来事だった。その閃光に、空中にいる私達は文字通り全員胸を貫かれた。
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