本当の力
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体が熱い。
「ぐっうう……」
溢れ出す底知れぬ力が、自分を支配していくのがわかる。自分の体が燃えているように熱い。いや、物理的にも燃えている。
このままでは、以前の暴走と同じように破壊の限りを尽くすだけの化け物になってしまう。
それだけは、嫌だ。
「ほう。不思議なことをする」
目の前の怪物が、見下してくる。
口元に手を当てて、何かを考える素振りをした。
「そうか、……興味深い」
何かを言っているが、わからない。
ただ、先程練り上げた右手のおかげだと直感的に気づいていた。闇属性の無効化のおかげだと。
自分の体の中で、自分の力を相殺させ続けるために練り上げた右手。その右手に優先的に力が流れ込んでいるのか、飲み込まれそうな闇属性の空間が右手の先にできている。
この謎の空間に漏れ出す力が流れ込んでいるため、まだ理性を保てているのだろう。
しかし、空間はどんどん大きくなっていき、とどまることを知らない。
「朱己、お前のセンナはどれほど保つかな」
目の前で嘲笑う時雨伯父上の顔が、もう朧気にしか見えない。
体中から汗が噴き出ているのがわかる。
額から流れ落ちる玉のような汗が、頬を伝って落ちていく。
意識も朦朧とする中半ば自棄になりながら、右手の先にできた闇の空間を目の前の怪物に思い切り投げつけた。
時雨伯父上はその空間を相殺しようとしたのか、左手で受け止めようとした。そして時雨伯父上の左手に触れた瞬間、空間は伯父上の左肩から腕を食いちぎった。
「なっ……!」
思わず目を瞠った。
まるで生きているかのように、空間が伯父上に牙を剥き、襲いかかっている。度肝を抜かれるとは、こういうことなのだろうか。
「小賢しい真似を……!」
伯父上が私の空間を消すために、途轍もない力を練り上げていく。悍ましいと表現したほうがいいのかもしれない。
右手で目にも留まらぬ速さで撃ち込めば、闇の空間はしばらく蠢いて、やがて消えた。
「朱己……」
どうやら、謎の闇の空間で食いちぎられた腕は、復元できないらしい。
時雨伯父上が珍しく怒りをあらわにして、余裕がない顔をした。
とはいえ、私にも余裕はない。気を抜けばすぐにでも体は爆ぜ、センナは暴走し破壊の限りを尽くすだろう。
「あっははははははははぁ! 愉快、実に愉快!」
狂気じみた笑いの伯父上。
まるで心底楽しんでいるかのようだった。
「朱己!」
後ろから父の声がして振り返れば、焦った顔の父と兄がいた。
「父様……申し訳、ございません」
また、暴走しかけていること。
今の所、闇の右手以外防止策がないこと。
顔を歪めることしかできない自分の不甲斐なさ。
言わずともわかったのか、父は無言で頷いた。
「時雨兄上。そのお姿は、一体」
父が前に出てきて、臨戦態勢に入った。
そんな父を気に入らないと言わんばかりに、顔を歪める伯父上。
「……壮透。お前には用はない」
失せろ、と聞こえた気がした。
同時に父の刃と、伯父上の禍々しい文様の入った鋼鉄の腕が、激しい音を立てて交わったせいで搔き消されたのだ。
「朱己! こちらだ」
兄が夏能殿の呪符を渡してくる。
だが、右手の闇の塊に触れた瞬間、呪符はいとも簡単に灰と化した。
兄と顔を見合わせて、自分の力の悍ましさを理解した。私も時雨伯父上と同じように、人ならざる人になってしまったのか、それとも右手の闇の塊が最早手に負えるものではないのか。
顔に思っていることが出ていたのか、兄に呼ばれてはっとした。
「朱己、けしてセンナを揺らすな。白蓮伯父上は、心が揺れるとセンナが揺れると言っていた。今仮に朱己の心が揺れれば、暴走が進みかねない」
自分自身から凄まじい衝撃波が出続けて、兄に降り掛かっている。兄は必死に防御しながら近くを離れない。
「兄様、離れてください! いつまで保つか……!」
兄の体を衝撃波が切り刻んでいく。
父を見れば時雨伯父上と凄まじい戦闘をしていた。
歴代至高の長と言われた父。その父の本気を見たのは初めてだ。
だが、それ以上に。
何故、家族で戦わねばならない。
心が揺れないように。心が負けないように。そう思っても、そんな簡単ではない。心は思い通りにできるものではない。
「朱己、俺は……っ、ここを離れない。父上と、約束した」
近くで防御しながら徐々に距離を詰める兄に何も言えず、ただ見つめてしまった。
「朱己……! 左手を、出せ!」
自分自身から溢れ出る炎を始めとしたあらゆる力を、揺らさないように必死に兄に手を伸ばす。
衝撃波を必死に受け流しながら、私の左手に触れた瞬間に激しい火花が散り、肉の焼ける匂いがした。反射的に腕を引っ込めようとすれば、兄が思い切り手首を掴んできた。
ひどい火傷を手に負う兄は、顔を歪めながらもこちらを見て頷いた。
「ぐっ……、朱己、大丈夫だ。必ず、助ける」
その瞬間、兄から氷雪系の力と風の力が流れ込む。
「に、兄様……」
全力で力を注ぎ込んでくる兄の、氷をまとった風が私の周りの炎を少しずつ弱めていく。
「父上から、朱己のセンナの消耗を抑えるためにと教えてもらった。俺には、朱己のセンナに触れる力はない! だが、……少しなら、消耗を緩やかにできる。俺には、氷雪系の力はない。父上が、この氷雪玉をくれた! 今から渡す!」
そう言って、兄は私の左手に氷雪系の力が練り込まれた玉を渡してきた。
私を包んでいた炎はかなり弱くなり、私を覆うように氷雪系の結界が現れた。
兄に激しく降り掛かっていた衝撃波や炎もなくなり、安堵する顔が見える。
兄の手の火傷も、薬乃の玉のおかげか治っていた。
「朱己、実はさっき」
兄が言いかけたところで、姿が消えた。
否、吹き飛ばされたのだ。
そして目の前には、あの化け物のような形相の伯父上がいた。
「兄様!」
「朱己……なんだそれは?」
目が合うと、伯父上の顔は血で赤く染まっていた。
「壮透も百夜も小賢しいな。私の邪魔をするなら……殺す」
父を必死で探す。
どこに行ったのか。もしかして、と最悪な展開を考えれば、今度は伯父上の体が吹き飛んだ。
「兄上。……よそ見とは、余裕ですね」
目の前には、少しだけ息の上がった父がいた。
「父様……!」
呼べば、父はこちらを一瞥して小さく頷き、伯父上を追いかけた。
このままここで見ている訳にはいかない。何か、何か手はないか。私にできること。
焦る気持ちを必死に抑えながら、飲み込まれそうになる意識の中考えを巡らせる。
相性のいい力、炎の場合は風。
前回は葉季が止めてくれた。
自分でなんとかできないのか。この氷漬けの結界の中で。
周りを見渡し、自分の武器になりそうなものを探す。目に入る、一番の武器。先程投げつけたら、時雨伯父上の腕を食いちぎった闇の塊。
闇属性は下手をすれば魂解きになってしまうかもしれない。先程伯父上に投げつけた闇の塊が、また同じ位まで大きくなっている。
何もしないより、何か少しでも望みがあるなら。
それが、吉と出るか凶と出るか。
自分自身に闇属性を打ち込むことで、何が起きるのか見当もつかない。それでも。
「一か八か……」
覚悟なら、一蓮托生だと誓ったあの日から決まっている。自分のセンナへ向けて、右手の闇の塊を突き刺した。
激しく慟哭するセンナ。
闇の塊を弾こうとする自分のセンナは、けたたましい炎を上げていく。
父の玉の結界にヒビが入ったのが見えた。
「ぐっ……ううああぁああ!」
結界が破裂するとともに、激しい爆発音と、辺り一面に閃光と衝撃波が炸裂した。
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