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朱色の雫【改稿中】  作者: 弦景真朱
第一章 ナルス
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市松と時雨の招待状

※手や首が落ちるので、苦手な方はさっと読み飛ばして下さい。


ーー「あーそびーましょっ」

 

 対峙する籠目の顔は、私とは対照的だった。

 籠目の隣りにいる夏能殿は、終始面倒くさそうな顔をして、腕を組みどこかに寄っかかっている。


「早く終わらせろよ。腕一本くらいにしとけ」

「腕もう一本しか残ってないのに? もらっていいのぉ? さすがに可哀想よぉ」


 遠くであはははは、と高笑いが聞こえる。

 それにしても、おかしい。

 対能力者用の牢屋で能力が使えること、能力が発動しているのに隠密室が気づかないこと。


「まさか夏能殿……隠密室を」

「人聞きの悪い。少し眠ってもらっただけだぜ」


 こちらを見ずに答えるその人は、顎で籠目を促していた。

 それと同時に、籠目が姿を消す。


 背後から迫る無数の蔓。

 弾丸のように降り注いでいく。

 瞬く間にミシン目の如く穴が開いていく。

 体を前方に回転させてよけ、左手を横に振れば、蔓はすべて焼け落ちた。

 はずだった。


 焼け落ちた蔓から延びる新たな蔓。

 後ろには大木。

 降り注ぐ蔓を焼き払いながら大木目掛けて炎を練り上げ作った剣を思い切り投げつけ、大木を一瞬で燃やし尽くす。

 蔓は消えない。むしろ増えたかのようにも見える。


「あはははは! 本当にナルスの最高峰なの?」


 弱い、弱いねえと笑う籠目。

 睨んだ先には、夏能殿が冷え切った目でこちらを見ていた。


「おい籠目。死ぬなよ」

「誰に言ってん……!」


 籠目が気がついたときには、空間を埋め尽くす蔓を、すべて包囲するように張られた炎の弦。

 目を瞠る籠目。

 両手で弦を弾けば、一瞬で大火のようにすべての蔓が燃え盛る。


「……空間ごと燃やす気か、あいつ」


 もはや呼吸できないほど、炎で埋め尽くされた空間。


「あちゃーっ……」


 額に手を当て、ため息をつく籠目。

 炎の中で振り返り、夏能に話しかける。


「もうちょっと遊んじゃだめぇ?」

「駄目だ。時雨に怒られるぞ」


 ちぇっ、と口を尖らせて、目だけ動かす。


「……見当たらない……って、どういうこと?」


 体を動かさないのは、殺し合いをしている者なら当たり前だ。動くだけで目立つ。

 だが、仕掛ける側からすれば好都合。

 次の瞬間、籠目の首が宙を舞う。

 しばらく飛んで、地面を転がる頭。

 目を瞠る夏能殿……いや、市松と、頭の持ち主である籠目。


「あれ? あたしの首、もげてるんだけど」


 生首の状態で市松に話しかける籠目。

 市松は一瞬で空間を埋め尽くす炎を闇で無効化した。


「……夏能殿。いや、市松、籠目。これが本気ですか?」


 籠目の転がった首を踏みつけて燃やせば、けたたましい叫び声が響いた。ため息をついた市松は、首が無くなった体を拾い上げて肩に担ぐと、右手を上げた。


「ずらかるぞ、籠目。ったく、腕一本にしとけって言ったのに、なに首差し出してんだよ。ばーか」

「なによ! 朱己! あんた殺す! 殺すううぅぅうぅ!」


 手足をばたつかせる籠目を横目に、私の方を向くと冷たい目で口を開いた。


「朱己。次会った時には俺が相手だ。首洗って待ってろ」

「市松、逃しません!」


 ここで逃がすわけにはいかない。

 先程籠目の首を落とした炎の剣を握りしめながら、市松に向き直る。


「……馬鹿が」


 聞こえるか聞こえないかの舌打ちをしていた。

 籠目を抱えたままの市松の姿が消える。

 目の前で剣を構えると同時に、風を感じた。

 激しい金属音とともにぶつかる刃。

 力に圧倒されて、思わず顔が歪む。


「お前じゃ俺には勝てねぇ」


 腹の底に響く低い声。

 刹那、市松の闇の剣によって消される炎の剣。

 咄嗟に左手に構えた炎の盾ごと、左手を切り落とされる。

 燃えるように熱い腕が、飛沫を上げて落ちる。


「……ぐっ……あっ」


 思わず激痛に顔をゆがめるが、目は市松を捉えて離さない。


「流石だな、咄嗟に炎の盾の密度を、限界まで練り上げたおかげで、体は真っ二つを免れたわけだ」


 そう言いながら漆黒の刀を向けてくる。


「次は首でも落としとくか? ん?」


 落とされた左手を再生しようとするが、何故か再生出来ない。闇の力で、細胞単位で活性を無効化されているとでも言うのか。

 止血のために、右腕同様左腕も炎で練り上げた腕を生やしてみたが、出血は止まらなかった。

 私は自分の左手の傷口を焼き、止血する。

 肉の焼ける独特の匂いと激痛に苦悶するが、なりふり構って居られない。ここで出血し続けるのは、今後の回復に影響する。


「朱己、お前にその剣を教えたのは俺だ。お前じゃ勝てねえ」


 さっきの言葉が脳裏を過る。

 絶望に似た、まるで底なし沼に落とされたような感覚。

 それでも。


「……そうだとしても、負けるわけにはいかないんです、市松……いえ、夏能殿。貴方を失いたくないんです!」


 炎でできた両手は、触れ合わせれば溶け合うように形を変えていく。否、腕の形が保てずに炎のように揺らいでいく。

 失いたくない。でも、今の私には止められない。

 夏能殿は心底面倒くさそうな顔のまま、こちらを見下ろしていた。


「言ってもわからねえなら、お前の体に直接教えてやる!」


 深淵を彷彿とさせるような深い闇の瞳は、感情などなかった。夏能殿の剣が振り降ろされる瞬間、その声は降ってきた。


「市松。朱己は無傷でと、言ったはずだが?」

「!!」


 夏能殿の動きが反射的に止まった。

 私の首の真横まで迫っていた刃は、首の皮に触れる寸前で止まっていた。


「……ちっ」


 夏能殿の手にあった刃は消え、いつの間にか現れた、謎の空間の入口へ向かって歩き出す。


「朱己。すぐに迎えに来る」

「時雨伯父上……! 夏能殿! 待ってください!」

「朱己、招待状だ。準備して待っていなさい」


 そう言って目の前に現れる刻印のある石。

 姿の見えない時雨伯父上の声が、脳内に直接響いてくるような感覚。

 振り向くことなく歩いていく夏能殿。


「夏能殿! 待ってください! 夏能殿!!」


 どれだけ名を叫んでも、届かない声。


 空間は穴が消えると同時に消え去り、私は対能力者用の牢屋にいた。


「……夏能、殿……」


 まだ信じられないと思う半面、この両腕と刻印の石が、すべてを物語っていた。


お読みいただきありがとうございました。

引き続きよろしくお願いいたします。

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