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朱色の雫【改稿中】  作者: 弦景真朱
第一章 ナルス
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隠された能力


 朱公と久岳がやってきてから一月が経った。


「よし、大分センナも回復したな」


 二人の胸の上辺りに手をあて、センナの状態を確認する。南の果ての村で出会ったときからは想像できないほどしっかりと回復し、二人とも角や耳は完全に隠されている。


「朱己様や薬乃様のおかげです。ありがとうございます」


 自然と溢れる笑みを見て、精神的にも安定してきたことが見て取れる。薬乃の人柄もあってか、うまく慣れることができたのだろう。


「薬乃、ありがとう」


 彼女はいつもどおり腕を組みながら、はいはいと笑っていた。

 彼女は、ふわふわする服が好きではないため、体にぴったりな服を好む。相変わらず鍛え抜かれた無駄のない肉つきの体だと思う。

 自身も、けして太っているわけではないが、筋肉は鍛えるに越したことはない、と杏奈にも良く言われているし、そろそろ鍛えるかなどと他愛もないことを考えていた。

 暫く雑談をした後、薬乃の屋敷を後にし、私の屋敷へ向かう。二人に、私の屋敷の敷地内に住んでもらうことにしたためだ。


「この家屋は、以前私の側近たちが物置に使っていた部屋を、二人用に少し拡張して小さな一軒家にした。狭いか?」


 寝室、台所、洗面所付浴室、お茶の間、客間、自由に使えそうな個室が2つほど。平屋だが十分な広さがある。


「我々には、十分過ぎる程でございます」


 深々と頭を下げる久岳達に、足りないものがあれば言ってくれと声をかけ、一旦屋敷をあとにした。


---


 翌日。


「無事荷ほどきも終わりまして、快適に過ごさせて頂いております」


 久岳と朱公が揃って挨拶に来た。良かった、と笑顔で返し、これからについて説明を始める。

 センナの属性、特性の詳細を確認させてもらうこと。それに合わせて修行を組むこと。二人には基本的に自分のそばに居て、雑務から公務までやってもらうこと。


「最初は全部一緒に教えながらやろう。徐々に一人でもやってもらうが、いつでも何回でも周りにいる者たちに聞いてもらって構わない。どうにも苦手なことや、困難なことがあれば言ってくれ。その業務からは外して、別の業務をあてる」


 一通り話し、なにか今まででわからないことはあるか? と聞くと二人とも、なんだか申し訳無さそうな顔をしている。思わず首を傾げた。


「我々が霊獣故に、お気遣いを頂いているのでしょうか、苦手だからと避けていいなど、あまりにも申し訳なく……」


 俯く彼を見て、私は首を降った。


「人も霊獣も関係ない。私の屋敷ではみんなそうしている。それが一番効率がいいからだ。だから遠慮せず言ってくれ、苦手なことより得意なことで力を発揮してほしい」


 そう言うと二人も安堵の笑みを浮かべ、頷いた。

 二人を助けてから、一月と少しが経った。

 二人とともに謁見の間に着くと、厳かな雰囲気の父がおり、静かにこちらを見ていた。なんとも息がし辛い空気に二人が緊張しているのが見て取れる。

 二人に声を掛けると大げさに肩を震わせた。


「それでは、センナを見せていただく。少し我慢してくれ」


 胸の上辺りに手を置き、耳の奥に響くような高音が青白い光と共に響く。

 長である父が少し後ろから椅子に腰掛けて見つめているのが分かって、どうも落ち着かない。


「……朱公は隠密優勢、次点に光です。五感が少々」


 玉座に座ったままの父はただ無言で見つめる。


「久岳は……闇です。一強ですね」


 私の言葉に父が玉座から立ち上がった音がする。


「隠密と光、珍しい組み合わせで能力を持っているな」


 父のその言葉に、静かに頷いた。我々にはさっぱりわからないが、どうやら父は私と同じ考えのようだ。


「まず朱公」

「はい」


 彼女は名を呼ばれて少し緊張した面持ちのまま、背筋を伸ばした。


「隠密という力は、本来あるものを隠す力。誰にもばれないようにすることや、敵方の諜報に必要な能力だ。次に光は、時間を進める力、対象物の力を増幅させる能力。道標になる。あまり隠密との相性は本来良くないだろうが、鍛えれば帰路の道標として隠密行動の際も役に立つはずだ。五感は味覚、視覚、聴覚、触覚、嗅覚の増幅や支配、隠蔽することができる能力のことだ」


 私の言葉を真剣に聞き、頷く。それに被せるように、父も口を開いた。


「修行は朱己と杏奈に任せる。光は光尉を頼れ。教え方も上手い」


 朱公は緊張しているようで、手を強く握りしめていることに気づく。軽く彼女の肩をたたくと、大袈裟に肩が震えた。

「大丈夫、心配しなくていい。これはセンナの元々持っている能力の話。修行の中で、徐々に開花すれば良し、開花せずとも焦る必要はない」


 肩の力が少し抜けたのか、つられるように少しだけ微笑んでいた。


「次に久岳。あなたは闇属性だ」

「はい」


 先程一強と言っていたことからも、自分の属性はこれだけなのだろう、と察しが付いているような顔をしていた。


「想像通りだ。闇は、光と対照的な力だ。つまり、時間を戻す、対象物の力を減少、無効化する力。これについては」


 まで言いかけて、突然聞こえた声。


「俺が教えるぜ」

「……いつからいた」


 闇尉(おんい)の夏能殿。長の側近であり、対。

 見慣れた人しか気づかない僅かな変化だが、怪訝そうな顔をする父の肩を何度も遠慮なく叩き、俺に任せてくれと笑う。

 夏能殿が突如現れて、不思議な空気になった。

 私は生まれて此の方、後継者として父から指導されることが多く、夏能殿とも必然的に一緒にいる時間が長い。だが、この人が怒っているところを数回しか見たことがないくらい、彼はいつも笑っている。


「……ということで、久岳、夏能殿から教わってくれ」


 と言って、少し苦笑いした。久岳もはい、と頷く。


「では、明日から早速始めよう」


 そうして、二人に今日は早く休むように言い、先に帰した。二人が出ていった後、父が静かに口を開く。


「……生かすも殺すも、お前次第だが」


 重く圧のある声によって、更に肩の荷が重くなる気がした。夏能殿が言葉を挟もうとするが、まだ言いたげな父を見て、口から出かかった言葉を飲み込んでいるように見えた。


「初めて自分で見つけてきた宝だ。大切に磨け」


 その一言に思わず目を瞠り、顔を上げた。


「……はいっ」


 重圧とは、言葉で語るには軽すぎる。されど、時に言葉によって救われることもある。部屋を後にする父の背中をずっと目で追う私の頭にぽん、と手を載せて、夏能殿は少し笑った。


「朱己、しっかり頼れよ」


 私もまた見上げて笑った。



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