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朱色の雫【改稿中】  作者: 弦景真朱
第一章 ナルス
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プロローグ

現在、鋭意大改造中です!読みづらさがあると思います、すみません。


プロローグとして過去の話を插入しました。

毎日改稿作業中(2025.03.04現在)


良いなと思っていただけましたら、

☆☆☆☆☆を★★★★★にお願いいたします☆



 今から遥か昔。

 宇宙界きっての大国、ナルスが建国された頃まで遡る。


ーー


 重く項垂れた頭を勢いよく切り落とす音と共に、敵将の首が飛び血しぶきが上がった。飛んでいく首には目もくれず、血のついた刀を一振りして血を払い、息をつく。


「やっと……統治できたな」


 刀を降ろし、血や土を被ってへばりついている肩ほどまでの鳶色の髪の毛を、前から後ろへと押し上げた。


「なぁに、(わらわ)達にかかれば、抵抗勢力も風の前の塵に同じじゃ、(かむり)


 腰に手を当てながら、にたりと笑みを浮かべる彼女は私の双子の姉、(さい)。私と同じ鳶色の瞳の色をしていて、頭のてっぺんでお団子にして濃紫色の髪の毛をまとめているが、同じく全身血まみれだ。

 見渡す限り焼け野原となっている地平を見つめながら、これから世界で争いごとが起きぬよう、最後の争いになるよう願った。


「これから忙しくなる、どうじゃ今日は祝杯でも? 冠」

「祭、まずは目の前の焼け野原の鎮火と部下の安否だ」

「わかっておるとも。その後じゃ。皆で祝杯といこう。今後の話もしなければならんじゃろ」


 思い切り腕を頭の上に伸ばしながら、彼女はにたりと笑う。

 この焼け野原の鎮火にどれほどかかるのかとため息をつきつつも、確かに今日は祝杯をあげたい気分だった。

 そしてナルスは私達によって建国された。

 幾ばくかの月日が流れ、ナルスという国の名が宇宙界全土に知れ渡り、私達の強力な能力により住まう民にも安寧が訪れ国は活気づいた。


ーーー


 木製の扉を軽く叩き呼びかける。

 軽く結いた髪の毛が目の端で揺れた。


「祭姉上、冠姉上」

「入れ」


 姉らの返事を待って入り、今にも零れ出そうな悪態を飲み込みながら見つめ、書類を手渡すと同時にため息をついた。


「姉上方。地方への見回りもいいですが、こちらは業務が滞っております。私だけでは手が回らないのですが?」


 久々に地方から帰ってきたと思えば、部下による各種業務の承認の争奪戦で、全く会えない姉ら。

 やっと隙間時間を見つけて会いに来てみれば、この二人は茶会と言わんばかりにのんびり優雅にお茶をしていた。

 ため息の一つや二つ、三つ付きたくなるというものだ。


香卦良(かけら)、お土産じゃ。開けてみぃ」


 全くこっちの文句なぞ聞いとらん、と言わんばかりに姉がお土産と言った包を出してくる。思わず体の力が抜けたが、もはや言っても無駄かと諦めながら包をありがたく頂戴した。

 わざと音を立てて包を開けると、中には朱い組紐が入っていた。思わず口から感嘆が溢れるほど精巧さを感じる組紐だった。


「綺麗だ……ありがとうございます。これはどこで?」

「今回行ってきた東の方の土地は、養蚕業が盛んでの。あまりに香卦良に似合いそうな組紐を見つけたものだから、買ってしまったんじゃ」

「香卦良に似合うと思う、早速つけてみてはどうだ」


 姉がいつものようににたりと笑った。隣で小さく微笑むもう一人の姉にも促されては、つけないわけにはいかない。

 少し照れくささを感じながらも、一度結っていた髪をほどく。肩より少し下まである髪の毛をもらった朱い組紐で結い直すと、姉らはまじまじと見つめながら終始笑顔だった。


「民の生活の音がするじゃろ。妾たちが守るべき音じゃよ」


 実際のところ音なんてしないのだが、言いたいことはわかる。きっとこの組紐が出来上がるまでに多くの民が自分の持ち場で自分の仕事をし、この一つの組紐に組み込まれているのだ。安心して民が生活できる基盤があるからこその組紐(おみやげ)であることを忘れてはならない。今の平穏が永久に続くことを、心の底から願った。

 そして数年後、平穏は脆くも儚く崩れ去る。

 一人の臣下の反逆によって。


 聞いたこともない地響きとともに、激しい爆発音がしてそばにいた臣下に何事かと問うた。しかし、誰もわからなそうに顔を青くするばかりだった。

 それくらい突然だったのだ。丁度長である姉二人は今日も地方に行っており、城にはいない。二人がいない時の長代行を私が勤めているため、すぐに玉座へ向かうとともに、走りながら臣下に城に残っている臣下を集めるよう伝えた。


「緊急事態だ。どこかで複数回の爆発音がしている。まず地方の長らの安否の確認、並行して爆発規模と被害状況を調べろ。分かり次第私へ報告せよ」

「はっ!」


 返事と共に数人の臣下たちが走り去っていく。なんだか嫌な予感がする。今日、姉らは南の方へ行くと言っていたことがふと脳裏をよぎった。

 そしてすぐに臣下によって例の爆発が長らによるものであった、と聞かされることとなる。


「なん……だと?」


 瞠目した。長が、民のいる土地を爆破する意味がわからなかった。報告に来た臣下もおろおろしており、誰もが疑っていた。


「それが、爆……爆発の中心部に、祭様が居られたと……」


 臣下の発言に、足元が覚束ないような、目の前が真っ暗になる感覚に陥る。


「何が起こっている……?」


 膝の上に肘を付き、前かがみになるようにして手で頭を支える。頭が真っ白になるとはこのことだろうか。思わず目を瞑れば、つい先日まで見ていた姉らの顔が鮮明に思い出される。

 姉らが、民を裏切るわけがない。

 なにかの間違いだ。そうに違いない。自分に言い聞かせながらも、仮に姉の力による爆発なのであれば、下手をすれば国全土が焦土と化すことになる。それだけは避けなければならない。顔をあげると同時に、民の安否を調査しに行った部隊が駆けつけてきた。


「ご報告です、民の被害、地方、南の凡そ三割が壊滅、爆発は祭様の能力によるものと断定! 現在も爆発は継続しておりますが、一方で、冠様が氷雪系の力によって、爆発の被害を最小限に留めているとのことです!」

「そんな……姉上が……」


 我々は、魂の核(センナ)を誰しも持っている。文字通り、我々の魂の中にセンナはあって、センナが砕ければ消滅し、逆に砕けるまでは例え首がとんでも死なない。体が死んでも、センナが無事であるうちは復活できる。

 そして、センナには属性があり、全てで十二種類。

 炎、水、氷雪、霧、土木、音、隠密、五感、雷、風、光、闇からなり、水や氷雪系は炎には強いが土木には弱い、等の属性の相性がある。

 冠姉上の属性も、祭姉上と同じ炎。冠姉上は、ご自身の中でも劣勢の氷雪系で戦っておられるのか。


「……勝てるのか?」


 息を切らしながら片膝を付き、汗を垂らして叫んだ臣下の報告を聞いて、玉座に座っている私は、誰から見てもわかる程に顔が真っ青になっているのだろう。そんな私の元へ、焦る様子もなく一人の壮年の男性が歩み寄ってきた。


「討伐隊を結成するのは必須ですな」


 討伐、という言葉に目を瞠る。

 そうだ、討伐。

 姉を討たねばならない。民を欺き民を傷つけた罪は重い。いつまでも項垂れていられない。今にも、民には被害が出ているのだから。

 肺の奥まで空気を入れるように深呼吸をして顔を上げ、右手を翳し一様に顔色が悪い臣下たちに命じた。


「現刻をもって、長の討伐隊を編成する。反旗を翻した長の属性は炎、よって討伐隊は水、氷雪系を中心に編成するように。編成次第、出発せよ!」


 御意、と言って数名の臣下たちが走り去っていく。いくつかの背中を見送り、先程沈黙を破った銀髪の壮年の男を睨みつけた。


「随分と、落ち着いておられますね。祭姉上の側近ともあろう眞白(ましろ)殿が」


 この眞白という男は、長である祭姉上の側近なのになぜここにいるのか。いつも何かあるときには決まって姉上のお傍にいない。私は眞白を睨んだまま玉座を立ち、歩み寄って言った。


「……眞白殿。まさか、わざと城へ残ったのですか」


 私の一言が合図だったかのように、体が反転し勢いよく地面へ叩きつけられた。気がつけば周りは残っていた臣下たちが取囲み、刃をこちらへ向けている。


「ぐう……っまっ……眞白ぉお……っ」

「反逆者である長の弟だ、牢屋へ打ち込んでおけ」


 最悪な事の顛末を察し、自分を取り押さえている男を見て暴れてみたもののびくともせず、自分の薄浅葱色の髪が乱れただけだった。

 当の本人は眉一つ動かさずに淡々と近くの者に命令し、ただ薄ら笑いを浮かべているだけだった。


ーーー


 あたり一面は轟々と燃え盛り、もはや手がつけられない程火の海と化していた。先刻、自分の双子の姉が突如無差別に発動した力によるものだ。


 先刻、姉は水を飲んだ直後突然胸の辺りを抑え苦しみだした。私にもわかる程センナが激しく慟哭していた。私が姉の異変に気づいたときには、もうどうすることもできなかった。


「うっ……ぐう、あ……、あああ!」

「祭! しっかりしろ!」


 段々と姉の意識が遠のき倒れた直後、目を開くと同時に突然能力を暴走させ始めたのだ。


 センナが砕けるまで戦い続けることになる暴走。


 すでに民には随分と犠牲が出ている。逃げ惑う民、家族が目の前で爆発に飲み込まれ、泣き叫ぶ民。言葉通り地獄絵図と化していた。

 同行していた臣下たちに民の避難の誘導と防御を任せ、一人で姉の相手をしているが、すでに私自身がかなり限界に近い。

 少しでも気を抜けば爆発に巻き込まれ、やがて自分のセンナに限界が来れば死ぬ。

 自分が死ねば、姉を止める者はいなくなる。


「せめて、相討ち……を目指すか」


 だが、自分が力を解除させれば、自分さえも戦いの権化と化すため民の無事は保証できないという迷いから決断ができず、結果としてここまで民に犠牲を出してしまった。


「ここまで来たら、後悔している時間はないな」


 自分にだけ聞こえるように呟くと、握りつぶすような鈍い音と共にセンナにヒビが入り、私の体は光をまとっていく。たちまち辺りの炎が消し飛び、一面氷の大地と化す。

 祭の瞳と同じ鳶色の目が、深い蒼に染まったのが氷に反射して見えた。

 目と鼻の先でにたりと笑う姉を捉える。と同時に、二つの力が空間を揺らすほどの衝撃でぶつかりあった。

 姉の身体裁きは本能が覚えるほどよく知っている。生まれたときからずっと一緒にいて、ずっと一緒に稽古し戦ってきた。目の前の敵となった姉が、右手に業火を宿し光の速さで撃ち込んでくる。

 すぐさま左手の氷で相殺する。

 周りに指だったものが飛び散るが構わず復元した。

 同時に落ちていた武器を凍らせて頭に突き刺す。

 刺したはずの武器はすでに灰と化し、姉の姿がない。

 すかさず背後に回ってきた姉の頭を右手で弾き首を飛ばし、反動を利用して背中へ回り込む。

 姉はただ楽しそうに頭を復元しながら体を反転させ、また業火を撃ち込んできた。


 一歩も譲らぬ戦いをすること、半日。暴走していた姉のセンナに、限界が見え隠れし始めたのを見逃さなかった。

 肩で息をしながら、姉の真正面に突っ込んで巨大な氷柱を隠れ蓑にし、瞬時に背後に回り込む。

 姉は先程まで私がいたところにあった氷柱を粉々に破壊し、辺り一面が銀世界のように輝いた。

 直後、鈍い音と共に姉の胸の辺りに左手を突き刺し、センナを握る。


「祭……私もすぐ行く」


 容赦なくセンナを握り潰した。たちまち姉の体は元々そこに何も存在していなかったかのように灰となって崩れ去り、見る影もなくなった。

 そして、それを見届けたあと自分も膝から崩れ落ちた。すでに限界は突破し、あと数分ももたないだろうと想像がつく。近づいてきた者に気づくが、意識は途切れ始めている。


「標的は、鎮圧した。……曆と、香卦良にすまない、と伝え……」


ーー


「目標、鎮圧! 冠様が、祭様をその場で鎮圧しました!」


 兵士が息を切らしながら玉座の間に入ってくると、眞白が玉座に座り、薄汚い笑みを浮かべていた。

 眞白はその後、民の被害に対する対応等の功績でそのまま長となる。

 かくして、ナルスの歴史は刻まれていく。

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