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ファイナルゲーム  作者: とつにき
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裸の王様

僕の名前は長崎揚羽。僕には中学2年生の後半頃からの記憶しかなかった。


母親に聞くと、僕は中学2年生の頃に交通事故に遭い、記憶を失ってしまったらしい。


だから、僕の記憶の始まりは病院のベッドからだった。


病院で目を覚ますと、母と名乗る人と父と名乗る人がいた。


僕には何もかもが初めてだった。だから、目の前にいる2人をすぐに両親と認めた。両親は記憶を失った僕を見て、悲しそうにしてた。それに、何に対して謝ってるのかわからないけれど、何回も「ごめんね」と、僕に言っていた。



見舞いに来てくれた人たちもいたが、何を話せばいいのかわからなかった。


事故にあってからの1ヶ月ほどは記憶が戻るようにと、両親が家族のアルバムなど、思い出の品々を見せてくれた。


しかし、記憶が戻ることはなかった。時間が経つとともに両親は僕の記憶が戻らないことを受け入れていった。


退院した後、両親に迷惑はかけたくなかったから、できるだけ努力して両親の求めるもとの生活へ慣れるようにした。


それから学校にも通えるようにはなった。でも、正直、学校に通うのは嫌だった。


心配して話しかけてくれる人もいたけど、僕にはその気遣いが怖かった。自分だけが知らないだけで、みんなには当たり前の日常があり、僕だけが知らない世界がそこには沢山あったから…


だから、自分から話しかけることなんてできなかったし、距離を置くようにしていた。



記憶をなくした僕の中に唯一残っていたのは、過去の自分がしてきた勉強の記憶だった。


そのおかげで、学校の授業に支障はきたさなかったし、高校受験でも困ることはなかった。


それから僕は中学を卒業して、西園寺高校に通い始めた。


ただ、新しい高校に入っても人に話しかけることができなかった。


だから、毎日、学校が終われば1人で帰っていた。


正直に言うと寂しかった。友達の1人でも欲しかった。でも怖かった。話しかけるのも、話しかけられるのも…


だから、このまま何も変わらなければいいんだと思っていた。







ある日の学校からの帰り道、僕は怖い見た目をした人に絡まれた。


そして、彼らは、傷つけてもいないのに僕が彼らのバイクを傷つけたと言いがかりをつけてきた。


僕は怖くて仕方なかった。


僕の人生は毎日が初めてのことばかりで、こんな怖い体験をしたのも初めてだった。


でも、そこに夏ノ希くんが現れた。夏ノ希くんは赤の他人の僕のために裸で土下座をしてくれた。


なんのためにかは知らないけれど、僕には彼がヒーローに見えた。裸で頭を地面に擦り付けて、傍から見たらダサいと思うかもしれないけれど、僕はそんな姿に見惚れてしまった。


さらに、僕を救ってくれたヒーローは僕と友達になってくれた。


嬉しかった。


いままで人と喋るのが怖かったから。


でも、僕のために裸で土下座をしてくれて、自分の財布の中から2万円も出してくれた人を怖いと思う理由がなかった。


彼は一緒にソフトテニスをしようと言ってくれた。友達になって隣を歩いてあげると言ってくれた。嬉しかった。僕の記憶が戻ったとしても、彼のことは1番好きでいたいと思った。


今まで、僕の人生には暗闇しかなかった。 


でも、君が裸で土下座してくれたあの日から、僕の人生は輝きだした。


だから、僕は君のためならなんでもしようと思ったんだ。夏ノ希くん…





夏ノ希くんが僕と友達になってくれた次の日、僕は世界が輝いて見えた。


家から出た時の景色も、電車から見える景色も、すべてが綺麗だった。





電車から降り、駅の改札を抜けると、夏ノ希くんが歩いているのが見えた。


僕は夏ノ希くんに喋りかけようと走ったが、僕より先に女の子が夏ノ希くんに喋りかけた。


「おっーすー美柑!おっはよぉー」


「朝からうるせぇなぁ~早乙女!!」


「せっかく声かけてやったのに、うるせぇってなんだよ!!」


夏ノ希くんと楽しそうに話す女の子に、僕は少しだけやきもちを妬いてしまった。


「美柑もそろそろソフトテニス部作る夢なんて忘れて、別の部活に入ったら~?」


「夢じゃねーんだよ!通過点だし、それに、もぉできるんだよ!ソフトテニス部がって、あれ…?、揚羽じゃねぇか!!」


夏ノ希くん…僕に気づいて話しかけてくれた…それに今、揚羽って下の名前で呼んでくれた…///


「お、おはよ。夏ノ希くん…」


「おう!おはよ!」


「誰この人!?」


「早乙女には、関係ねぇ~だろー」


「関係ねぇって何よ!関係大ありよ!私のおかげでどれほどクラスに馴染めたと思ってんの!?」


「お前のせいで俺はクラスでアホ扱いされてんだよ!」


僕は2人の会話を聞いて、可笑しくて笑ってしまった。


「早乙女!お前アホすぎて揚羽に笑われてるぞ」


「はぁ、アホはあんたでしょ!?」


そんな2人の会話も学校に着くまで途切れることはなかった。


友達と一緒に登校するのがこんなに楽しいなんて思いもしなかった。こんなことなら、夏ノ希くんと同じクラスがよかったなぁ…


僕は知らないことばかりだけど、夏ノ希くんが僕を救ってくれた「裸の王様」ってことは誰も知らないんだよなぁ。


なんか自分だけが知っていることができて嬉しいな…



「じゃぁ、夏ノ希くん、僕は2組だから、またね!」


「おう!またな!あっ揚羽、放課後迎えに行くからすぐ動けるようにしとけよ」


「え、うん。わかった」


なんの用かわからないけど、今日から、毎日が楽しくなりそうな気がする。






幸せは比べてはいけない

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