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ファイナルゲーム  作者: とつにき
4/7

全裸土下座!!

体育の授業で長崎に恥をかかされた日、俺は長崎がどういう人間なのか気になり、下校時に長崎の後ろをつけていった。


西園寺高校は学校までの自転車通学は禁止だし、尾行を巻かれるなんてことはないだろう。


あいつ絶対にテニススクールとかに通ってただろ。それも相当厳しいスクールに…それじゃないと俺のサーブなんて打ち返せないぞ。


俺は長崎と同じ電車に乗り、暫く長崎の行動を観察していた。





一緒に帰る友達もいねぇのか!?大人しい奴だとは思ってたけど、まさかぼっちだとは思わなかったな。


まぁ顔はイケメンな方だし、友達の1人ぐらいいてもいいだろ!?今日はたまたま一人で帰ってるのか!?


俺は長崎が電車から降りるまで、学校の参考書を読むふりをして、長崎の行動を観察していた。



学校から7駅進んだところで長崎が降りていった。長崎が電車を降りるタイミングで俺も電車を降りた。


おっ、なんだ定期券内じゃん。


駅の改札を抜けると、長崎は自転車置き場の方へと向かった。


なるほど…駅からは自転車で帰るようだな…って全然いらねぇ情報じゃねぇーか!


長崎をつけてきたのはいいものの、有益な情報が1つも掴めず、俺は頭を抱えていた。すると、自転車置き場の方から怒鳴り声が聞こえた。


俺は恐る恐る見に行ってみると、長崎が大学生くらいの怖めのお兄さんたちに絡まれていた。


「おい!!お前、なに俺の単車に傷つけちゃってくれてんの?」


「健二くんの単車めっちゃ高い奴なのに、これはやばいっしょ!」


どうやら、長崎がバイクに傷をつけたらしい。


「すいません!すいません!」


「すいませんで済むんなら警察なんていらないよね~。傷つけたんだったら弁償してもらわなきゃこまるよ…」


男たちは、長崎が大人しい奴だと分かった瞬間、ニヤニヤしながら罵声を浴びせていった。


本当にあの傷は長崎がつけたものなのか!?俺は男たちに不信感を募らせていた。


「弁償って、おいくら払えばいいのでしょうか!?」


「この傷治すのに20万はかかるかなぁ~」


「に、20万円なんて、ぼ、僕、払えないです」


「払えないなら、ちょっと痛い目みてもらうけどいいかなぁ!?」


男たちは拳を上にあげた。


「ちょっと待ってください!」


俺は慌てて声が出てしまった。


「なんだぁぁおまえは!?」


はぁ~やっちまった。とんだお人好しだよ。あぁ、死ぬんだ。今日、俺はここで死ぬんだ。何を喋ればいいんだっけ…


「え、あっ、す、すいません。あの、お金払うので、その子許してあげてもらえないですか??」


あ、やべ、1発目の声ミスった。絶対なめられたわ。これ。


男たちはニヤつき、俺の方へやってきた。


「あれ、もしかしてこの子の友達?じゃあ、20万、君が払ってくれるのかな?」


「あの…2万しかないんですけど、許してもらえないですか!?」


「おい!!いつのまに、一桁減らしてんだよ!!ぶち殺すぞ!まずはお前に痛い目見せようか!?」


おれは怖くてちびりそうだった。


「あの、裸で土下座でもなんでもします。2万円も差し上げます。だから、許してください」


「だめだよ。夏ノ希くん!僕が悪いんだ!それを払っちゃダメだ!」


「うるせぇなぁ、君が払えないから友達が払ってくれようとしてんじゃないの!?良い友達にまずは感謝しなきゃ…まぁ、とりあえず今日は裸土下座と2万で、残りの18万はまた今度にしてやるよ」


俺は言われるがままに制服を脱ぎ、パンツも脱いだ。そして、2万円を手に持ち、額を地面に擦り付けた。


「本当にすいませんでした。許してください」


男は俺の手の中の2万円をとり、ケータイで俺を撮影しようとしてきた。


すると、自転車置き場の管理人が騒動を聞きつけ、こちらに向かってきた。


「こらぁぁぁ!お前ら、なにしとんじゃぁ!」


管理人のドスの効いた関西弁と圧倒的筋肉量に、男たちは慌てて逃げていった。


「お前なんで裸なんやぁぁ!?周りの方に迷惑かかるやろ!?考えんかったんか!?」


えっ、おれ?めっちゃ怒られてる。なんで??


「すいません。彼は僕を守ってくれたんです」


長崎は管理人に事の顛末を説明し、俺への誤解を解いてくれた。


「わりぃな。トイレ行ってる間にこんなことなっちまってるなんて、まぁ大丈夫や!安心せい!この自転車置き場は隠しカメラぎょうさんついてるから!その映像を警察出して2万円も取り返したるわ!」


「うぅっ、管理人のおじさん…ありがとおぅ」


俺は涙を流し、管理人のおじさんのたくましい筋肉に抱擁された。


「そんなわけやから、警察に連絡するし、君らもうちょいここ残ってもらうけどえけか!?」


俺と長崎は「はい」と答えた。


警察の事情聴取は20:00頃まで続いた。隠しカメラの映像やバイクのナンバープレートから、犯人の身元がすぐに確認され、数日後、犯人たちは逮捕されることとなった。


警察から親に連絡が行き、互いに母親が心配して駆けつけてくれることとなった。


俺は事情聴取を終えた後、長崎と少し話がしたいと長崎の親に伝え、少し話す時間をもらった。


「あの、ありがとう。夏ノ希くん。本当にありがとう」


「いいって、いいって、お前も傷つけてないんだったら言い返せよな!俺はお前が傷つけたと思って謝ったんだぜ」


「ごめん。怖くて何も言い返せなくて…でも、なんで夏ノ希くんが僕を助けてくれたの!?夏ノ希くんの最寄りはここじゃないでしょ!?」


「えっと~、それはだなぁ~」


俺は今日一日のことをすべて話した。


「そうだったんだぁ~。体育の授業から僕のことが気になってたんだぁ~。僕が夏ノ希くんのサーブを打ち返せただけでそんなに気になって、僕の最寄りまで来て、裸で土下座までして、助けてくれるなんて、もしかして夏ノ希くんって僕のことが好きなの?」


「ば、ばか!ちげえょ!お前が嘘ついてるんだと思って、ちょっと見に来ただけだっつのー」


俺は今日1日の自分の行動に少し恥ずかしくなり、顔を赤らめてしまった。


「でも、ありがと。こうやって友達としゃべれたのは初めてだったから、嬉しかった」


「お前、初めてってそんな大袈裟な」


なんか、こんな感謝されたら助けた甲斐があったな。俺は長崎のことを意外と良い奴だと思った。


「でも、初めてってお前、西園寺で友達いねぇのかよ!?」


「いないよ。西園寺にも、西園寺以外でも…」


「お前、ずっとひとりなのか!?そんなわけねぇだろ!?過去を振り返ってみろよ。どっかには必ず友達いただろ!?」


俺は長崎の言うことが理解できずにいた。


「夏ノ希くんには言うね。僕ね、昔の記憶がないんだ。あるのは、中学2年生の後半頃からの記憶だけ。お母さんに聞くとね。僕は中学2年生の時に、交通事故で記憶をなくしちゃったんだって。だから、起きた時には、お母さんの顔だって忘れてた。昔の僕と仲良かった友達でさえ、僕には初めての人だった…だけど、何故か勉強だけはできたんだ。だから、西園寺にも合格して入学できたんだ。今日のソフトテニスの授業も、昔の僕がソフトテニスをしてたからできたんだと思う。だから、ソフトテニスが初めてってのも嘘じゃないんだ。今の僕には初めてなんだ」


俺は長崎の話を聞いて、なんて声をかければいいのかわからなくなった。


「ごめんね。暗い話して…また絡まれると怖いから、明日からは別の駅から乗るようにするよ!夏ノ希くんも気をつけてね!」


長崎は悲しそう顔で俺に別れを告げた。


俺は長崎の過去を知った。そして今、この言葉を長崎に伝えるのは正しいのかわからないが、俺は長崎に伝えたいことを伝えた。


「おい!長崎!俺とソフトテニスをしよう!もしかしたら、ソフトテニスしてたら記憶戻るかもしんねぇだろ!?それにもし記憶が戻っても、戻らなくても、俺がお前の友達でいてやるよ!お前が寂しくないように、俺がお前の隣を歩いて、お前の暗闇の人生に俺が色をつけてやるよ!!」


俺は今までの人生の中で一番と呼べるほどくさいセリフを言った。


気がつくと、長崎は涙を流していた。


あれ、おれ、まずいこと言ったかな!?やべぇ。泣かしちまった。


長崎は泣きながら答えた。


「ありがとう。初めて友達ができた。寂しかった。ずっと1人だと思ってた。人に声をかけるのも怖かった。自分の知らないことが沢山あるんじゃないかって、ずっと怖かった。ありがとう夏ノ希くん」


俺は長崎の言葉を聞いて安心した。そして、長崎の友達でいてやりたいと心の底から思った。


まったく今日は散々な日だったなぁ~。クラスメイトにはバカにされるし、不良には絡まれるし…まぁでも、なんか気分がいいや。


「今日はお互い沢山泣いちまったな!学校のやつには内緒だぞ!」


「うん」


こうして、俺は長崎揚羽(ながさきあげは)と友達になり、ソフトテニス部として活動していくこととなった。


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