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ファイナルゲーム  作者: とつにき
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胃の中の蛙

あれは、俺、夏ノ希美柑(なつのきみかん)が中学1年生の頃だった。


中学からソフトテニスを始めた俺は、反抗期がまだ来てないせいか、両親や友達に初めて出場する大会に見に来てもらうように声をかけていた。


運動神経がよかった俺は、始めたばかりのソフトテニスでも、同じ時期に始めたもの同士なら負ける気がしなかった。


ソフトテニスは基本的にダブルスが主体のスポーツであるため、2人で試合に出なければならなかった。


俺は同学年の夏目結城(なつめゆうき)とペアを組み、試合に出場した。初めて出場する大会で緊張はあったが、それ以上に楽しみという気持ちが勝ち、ワクワクしていた。


1回戦の相手は俺と同じく中学から始めた奴だった。1ポイント目は俺のサーブから始まった。


俺がサーブを打つと、相手は打ち返すことができずにいた。2ポイント目も俺がサーブを打つと、相手はボールを返すことができずにいた。


その時、俺の中にあった緊張が全て消え、そのあとに湧き上がってきたのは優越感だった。


「俺なら勝てる。俺なら勝てる。」という思いが頭の中を駆け巡り、頭の中ののドーパミンが溢れそうになった。気がつくと、試合は終了していた。


結果は圧勝。とられたポイントはたった2ポイントだけ、さらに、その相手にとられたポイントも自分の油断によるミスだけだった。


試合が終わった後、俺は両親や友達の前までいき、褒め言葉を待ち侘びていた。予想通り、両親や友達は褒めちぎってくれた。わかっていたことだが、嬉しくて、俺は天狗になっていた。


しかし、次の2回戦の相手は1番シードの土蜘蛛薫(つちぐもかおる)であった。土蜘蛛は小学生の頃からソフトテニスを始めていたため、うまいと噂されているのは知っていた。


しかし、根拠のない自信が溢れ出る俺は、両親や友達のまえで大きな声で「次も勝ってやんよ」と言い放った。


2回戦が始まろうとしていた。サーブの決定権を決めるため、コートの真ん中に集まった。


すると、土蜘蛛は俺に手を差し出した。俺は強いやつに認められたと思い嬉しくなった。


しかし、俺が手を差し出し、握手をしようとすると、土蜘蛛は俺の手を避けるように手を上にあげた。


そして、土蜘蛛は「おまえは俺たちから1ポイントも奪えねぇよ」と舌をだし、馬鹿にしたような顔で言い放った。


俺は一気に血が逆流しはじめた。今すぐにでもこいつの顔を殴りたかったが、表情には出さず、口を開いた。「お前が俺らから1ポイント取る方が奇跡だろ」と。


すると土蜘蛛は最後に笑いを堪えながら、「楽しみだ」と答えた。


試合は俺からのサーブで始まった。サーブを打つと、土蜘蛛のペアは笑いながら、山を描くようにボールを上に高く打った。


その瞬間、俺は煽られていることに気づき、ネット前に立っている土蜘蛛に力一杯ボールぶつけにいった。


しかし、土蜘蛛は俺の打ったボールをあっさりとラケットに当てた。気づくとボールは俺たちのネットの手前に落ち、打ち返すことはできなかった。


俺は顔をあげると、土蜘蛛達がニヤニヤしているのが目に映った。試合前に土蜘蛛に言い放った言葉が走馬灯のように頭を駆け巡り、恥ずかしくなった。


それからも、土蜘蛛達は人を馬鹿にしたようなプレーをやめず、俺たちを馬鹿にし続けた。


それを見ていた両親や友達は、俺と同じように土蜘蛛に腹を立てていた。しかし、試合を割って入ることはできず、ただ、コートの外から応援するしかなかった。


中学生のソフトテニスの試合は基本的に4ポイントを3回取った方が勝ちというルールであり、1試合の時間はあまりかからないが、土蜘蛛たちは、俺たちを馬鹿にするために、簡単に打ち返せるボールを打ってきたり、見逃せばコートの外に出る俺たちの完全なミスボールでさえ、打ち返してきたりして、大会の運行状況にも関わるぐらいの時間を費やした。


次第に、俺はボールを打つたびに怖いという感情が生まれ始めた。俺たちは1ポイントも取れないまま、土蜘蛛達のマッチポイント迎えることになった。


土蜘蛛達は変わらず山を描くようボールを打ち、俺たちを馬鹿にしてきた。


すでに、俺の闘争心というものは潰されており、早く試合が終わって欲しいという気持ちしかなかった。


しかし、最後まで諦めてはいけないという理性も残っており、土蜘蛛達のボールを力一杯打ち返した。


そして、そんな土蜘蛛達が馬鹿にしてくるラリーが2分ほど続いた。


2分前まではあった諦めたくないという気持ちは消え、抜け殻のようになった俺は、ボールをわざとネットにかけ、自ら相手に点を与えるという形で試合を終わらせた。


試合が終わると、試合が始まる前のようにコートの真ん中に集まらなければいけなかった。


俺は土蜘蛛と顔を合わせることができず俯いていた。


すると、土蜘蛛は俺の顔覗き込み、「涙だけはみせんじゃねぇーぞ。おめぇが弱いからこーなるんだよ」と言い放った。


俺は何も言い返せなかった。この時、俺の中にあったのは、土蜘蛛への殺意だけだった。


コートを出た後、応援してくれた両親や友達に顔をあわせることが出来なかった。


みんなは俺を慰めようとしてくれたが、俺は今、慰められたら泣いてしまうと思い、みんなの言葉を無視してトイレにこもった。





死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね




俺は土蜘蛛に対しても、何も出来なかった自分に対しても腹が立った。


そのままトイレの個室にこもっていると、話し声が聞こえた。


「さっきのやつほんと傑作だったな。なぁ土蜘蛛!」


「俺はああいう井の中の蛙みたいなやつが一番嫌いなんだよ!見ててイライラすんだよ」


俺は怖くて個室のドアを開けることが出来なかった。


すると、土蜘蛛たちはクスクスと笑いはじめた。


次の瞬間、上から大量の水が降ってきた。いうまでもなく、俺の体はびしょびしょになった。


クスクスという笑い声は遠くなり、土蜘蛛たちはいなくなった。


土蜘蛛に言い返せなかった。俺が弱いからだ…俺が強かったら個室のドアを開けて言い返すことが出来たんだ。


たらればなんて一番ださい。あいつだけは、土蜘蛛だけは俺が殺す。


思い出すたびに、土蜘蛛への苛立ちと募る劣等感に涙がこぼれた。


水で体は冷える筈なのに、生きてきた中で一番体が熱い。





それから涙を拭き、タオルで体を乾かした後、俺はペアの夏目のところまで行った。




「夏目、俺は土蜘蛛は殺さないと気が済まない。それほどあいつが憎い。だけど、ソフトテニスはダブルスが主体だ。どーしても俺一人の力では、土蜘蛛どころか、あいつのところまでもいけねー。お願いだ!あいつを倒すために協力してほしい」


夏目は俺の目が泣き腫れていることに気がつき、やさしく俺の肩をたたいた。


「ばかか!俺の方が悔しいって思ってんだよ!美柑が後ろでラリーしてくれてるのに、俺は何もすることができなかったんだぞ!!美柑!お前が俺に協力するんだよ!練習サボんじゃねーぞ!」


夏目は俺を元気付けるために、似合わない口調で励ましてくれた。俺はこの時、夏目とならどんなことも乗り越えていけそうな気がした。


そして、俺と夏目はこの時から、土蜘蛛を倒すためだけにソフトテニスを続けることを誓った。


ソフトテニスって知ってますか!?硬式テニスじゃないですよ!ボールは黄色の硬いボールじゃなくて、白いゴムボールを使います。硬式よりかはマイナーかもしれませんが、とても面白いですよ!



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