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ミミックホテルのコンシェルジュ  作者: センチメンタルアスパラガス
森の中の小さな宿屋
10/11

1日目のミミックホテル


ミミックホテル開業1日目。


開業前から1名宿泊中という異常事態(イレギュラー)が発生したが、それはつまり1日3000Gを持続的に確保できるということだ。


ホテルなのだから空室を埋めることこそが正義だろう。



この調子で満室を目指したいところだ。



○○○



『申し訳ございません。本日、満室になっておりまして』


『出遅れたか。いや、まあそうだわなー。じゃあ、風呂だけ入るわ』



夕方、玄関前にはすでに複数パーティが並んでいた。


ダンジョン攻略を早めに切り上げた者もいれば、今日は攻略に行かず、昼過ぎに王都を出発し、明日朝からの攻略のため、宿泊を前提に動いていた者たちだ。


その先着2パーティが宿泊の手続きをしたのを見るやいなや、その後ろに並んでいた冒険者たちは、風呂へと考えを切り替えた。


見た目小さな宿屋だ。


3パーティも泊まれば満室だろう。


文句を言っても仕方がない。



それに、いつか泊まれれば良いのだ。


3000Gならばいつでも泊まれる。


今日でなくても良い。



○○○



「開店初日からこの賑わいなのはありがたいが......、物珍しさが客を呼んでいるだけだろうな」


「そうかねぇ」



屋根裏部屋で下階の喧騒を眺めている貧乏神と会話する。


その間も、私は水や熱、浄化の魔法はフル回転だ。



風呂は大変だ。


だが、だいぶシステムを改良し、自動化出来たことで、混雑を避けれている。



まず、フロントクラークのキャプテンに500Gを払うと、番号の木札を貰える。

その時に貴重品や装備品をクロークに預かるようにした。

風呂場内でのトラブルは出来るだけ避けたい。

トラブルは、それだけで回転率を悪くする。



木札は籠の番号だ。

自分の番号の籠に服を入れて風呂に入ってもらう。

衣類の間違いも、これで避けられる。

それに、木札が人数制限の目安になる。


いかんせん、風呂場も大浴場と言える程ではない。

余裕をもって入るなら8人が限界だ。


満員なら、木札を渡せないので待ってもらうことにした。


待っている間、さっぱりとしたウリのピクルスを振る舞う。

塩と酢が、彼ら彼女らの疲れた身体に効くらしく、好評だった。



そして、木札を無くしたり、壊したりしないように工夫をした。


貧乏神の提案で、湯上がりに林檎果汁を入れた牛乳を振る舞うことにしたのだ。


「炭鉱やダンジョンの帰りは、さわやかな牛乳が乙なもんなんだよ」と貧乏神がテンペストに伝えると、忽ちに作り上げた。


生乳を65度から70度で加熱処理し、殺菌した後、林檎果汁など諸々を加えて、“林檎牛乳”を作り上げた。


木札をちゃんと返せば、冷えた林檎牛乳を1杯飲めるという風にした。



貧乏神の作戦通りであった。


林檎牛乳様様で、みんな行儀よくしてくれる。


中には林檎牛乳目的の入浴者もおり、烏の行水よろしく、さっと汗を流し、キュッと腰に手を当て、冷えた器に入った林檎牛乳を飲んで、『明日も来るぞー!』と言い、去っていく冒険者もいた。



「林檎牛乳はな、美味いんだよ」


「飲めない私に言われてもな」



○○○



見張りの騎士達(ドアマン)の入浴後、戸締りをし、ブラウニーたちは大広間の片付けをしていた。



私の魔法で、食器類や床の片付けはあっという間なので、実質家具を綺麗に並び直すだけである。



ちなみに貧乏神は、余っていた林檎牛乳をあおりながら、掃除するブラウニーたちを眺めていた。



『いやー、信じられない光景よねー』

2階から大広間を見下ろしていたミラーがキャプテンたちに声をかける。

他の宿泊中の冒険者たちも気になって眺めていた。


『これまで伝説みたいな存在だったブラウニーや神様が、私たちみたいに働いているなんてねー』


「私は働いてないよー」


『あ、いえ。神様は存在することが、もはや仕事ですから。決して疎かにしたわけではありません。皮肉でもございませんので』



寝巻きのミラーが襟を正している。



天上の存在がフランクに返事を返すんじゃない。



『“識別”!んー、レベル変化なし。問題なーし!じゃあブラウニーさんたち、神様、先に休ませていただきます。おやすみなさい』


それに倣い、他の宿泊者たちも貧乏神に挨拶をし、部屋に入っていく。



「教会所属の人やなんかは、寝る前にお祈りを捧げると言うが、ここだと、全員が屋根裏か大広間に挨拶をしてから寝るって習慣がつきそうだな」


「良いことじゃないか、挨拶」



『神様、ジェネラルマネージャー殿。掃除終了です』


『私は後少しだけテンペストの仕込みの手伝いをしたら終わりです』


『明日の朝食の下準備も、もうすぐ終わります』



「よし。じゃあ終わったら玄関と屋根裏以外を消灯しよう」



○○○



「みんな、初日ご苦労様だった」


屋根裏部屋、ブラウニーズと貧乏神の寝室。


仕込みを終えたテンペストが戻って、全員が集まった。



「各々、気づいた点があれば言って欲しい。何かないか?」



『じゃあ私から。お酒、要りますか?』


「だよな」


『宿泊されている方の中には、軽く呑む方はいらっしゃられましたが、数を揃える必要はあまり感じられませんでしたね』


『むしろ、水が飲み放題って方に驚かれてましたね。王都だと、飲み水よりもワインやエールの方が安いですからね。水が飲めるのに、わざわざワイン飲みませんよ』


「そうかー、うーん」


『料理の方は、一応8品用意しましたが、おかわりされましたね。少し足りなかったのかもしれません。貴族と冒険者とで胃の大きさが違うのではないか、と思われますね』


「確かに、おかわりされていたな。明日の朝ごはんの様子も見て、量の調整でいいだろうな」


『食材の一部が山菜や家庭菜園由来なのはだいぶ助かりますが、これが続くと、遠くまで取りに行かなくてはいけなくなりますね。その時はその時でメニューを変えますが』



『宿泊者から21000G、ミラー様は夕食を食べられておりませんが、他のパーティは8400G落としてくれています。立ち寄り湯で8500Gですので、計37900Gです。食材とアメニティ分を引いて、週末に家具工房へ支払う分を引いて......ジェネラルマネージャー殿。今日の栄養分(ごはん)です』


キャプテンが4000Gを床に置く。



ありがたく、吸収させてもらった。



『金銭を食べられますと、濃厚な魔素が出ますな。こちらも腹が満たされます』


『全額吸収したらどうなるんでしょうね、キャプテン』


『人喰い屋敷殿を転々とする同胞の気持ちがわかりますなぁ』



ブラウニーたちが満たされていくのを見て、私も満足した。



改善点はたくさんありそうだ。


ブラウニーたちが寝静まるのを見ながら、色々思いを巡らすのであった。

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