シュマさん(縁結び)
「続・命を継ぐ者の旅」、第11部・それぞれの憂鬱、に続きます。顔合わせの為、パルバク王国の貴族のお屋敷に到着したシュマさんのお話しです・・・。
お相手の方は、ザルード大公のご令孫アルージュ卿で御年15だそうです。でも何か様子が変なの・・・。ご挨拶を交わした途端、よそよそしい態度ですぐいなくなってしまいました。
私は、同行した侍女と顔を見合わせ呆れるばかり。先方は様子を見てまいりますと、慌てて追いかけていく始末です・・・。
「嫌われたのかしら? もしかして変人の噂を聞きつけ、断る口実を探しているのかしら?」
私は部屋で侍女とそんな話をします。侍女が大丈夫ですよ、と答える間もなく、翌日改めてお茶会を開くのでその時に、という案内が入ります。
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翌日、いよいよ茶会の時間です。新緑が眩しいテラスに、テーブルとイスが用意されお茶会が始まります。アルージュ卿は、やはり最初の挨拶までで、途端に席を離れてしまいます。
「ちよっと、いい加減にしたらどうなの!」
さすがの私も腹が立ち、貴族らしさを忘れて素で問い詰めます。とその時、どこからともなく黄金色に輝く虫が飛んできてアルージュ卿の服に止まります。
「ねえ、服に虫が止まったわよ・・・」
と声を掛けたその瞬間・・・、
「え? 虫? うわ~、と、取って!」
取り繕った顔から表情が現れ、なんとも滑稽な様子で転げまわります。その様子がおかしくて・・・。
「もう! そんなに暴れたたら取れないじゃないの!」
座り込みこちらを見上げる彼の顔を、まじまじと見つめ笑いを堪えます。
情けない顔! でもかわいい・・・。
「頼むから、言うこと聞くから、早く虫を取って!」
「・・・」
(貴族なのに、この性格で大丈夫かしら? )
見つめる私の視線が、彼の額の奥を捉まえた? と感じた時にはもう言葉が口をついて出ていました。
「ねえ、私 (が婚約相手) でいいの?」
「・・・うん」
こくりと頷く彼に優しく微笑み、私は虫を捕まえそっと空に放します。春風に乗り、麗らかな春の日差しの中、黄金色の輝きがいつまでもきらめいていました・・・。
様子を伺っていた両家の侍女達、内心苦笑いしながら安堵したことでしょうね。
誤算だったのは、顔合わせ後すぐ帰るつもりが、乞われてさらに滞在延長させられた事。少しは気に入られたのか、アルージュ卿のよそよそしさも消え、証の指輪もいただきました。ご家族の皆様とも親しく交流できたのは良かったけど・・・。
でも、ラシル先生、衣装が間に合わないかも。 もし卒業できなかったらどうしよう・・・?
・・・ユミル暦498年万緑、グラナート大公ご令嬢ユルシュマーリ殿下は、パルバク王国ザルード大公ご令孫アルージュ卿とのご婚約が相整いました。両国の架け橋たらんと申すユルシュマーリ殿下の心意気誠に善き哉。国民一同、ご両家のご婚約を寿ぎ申し上げる・・・。