ザルード大公
前作「命を継ぐ者 (ラシル) の旅」 第66部(トゥルク2)の後のお話・・・。
これは、ラシルさんが訓練校の開校準備を任され、悪戦苦闘していた頃のお話です。アルシュ藩王ルドラさんは、トゥルクの街から帰国した後、ここパルバク王国の都ヴィラハにやってきました。そして、国王の叔父にあたるザルード大公のお屋敷を密かに訪問中です。
「ザルード大公殿下、今日はお時間を頂いて感謝いたしますわ」
「いやいや、わざわざルドラ卿にお越しいただくとは光栄です・・・」
きりっとした正装姿のルドラさん。その言葉に、ゆっくりと笑みを深めます。
豪華な貴賓室で、お茶を飲みながらゆったりとした時間が流れます・・・。
そして話題は、大公殿下のご令孫、アルージュ卿のお話へ・・・。
「・・・そう、あれももう15になるが誰に似たのか女性には奥手で、儂らも少し手を焼いておる・・・」
「あらあら、そうですか・・・。 実は、そのアルージュ卿に紹介したい方がおりますの・・・」
「ほう・・・」
「ただ、お相手はユミルの貴族ご令嬢・・・」
「むう・・・」
大公殿下、ユミルと聞いて少し眉を顰めます。
「率直に申し上げますわ。パルバク国王陛下におかれましては、かの国には長きに渡り含むところがおありのご様子。しかし、このままでは周辺国も緊張が解けないのです。そこで、ユミルの姫君を輿入れさせることで、互いに歩み寄りを図られてはいかがかと・・・」
「人質か・・・。 しかし陛下は、未だ王女様たちの扱いに心を痛めておられる」
ルドラさん、大公殿下のお答えに、当然の話ですわ、と理解を示します、
「ですが、このまま藪をつつけば、蛇がでるかもしれません・・・いや蛇ならまだ良いのですが・・・」
「ふん、龍に守られた国か・・・」
大公殿下、ユルザード大王の伝説が頭をよぎり、眉間のしわが一層深くなります・・・。
「実は、かの国で龍の兆しがすでに表れております・・・」
「何?」
ルドラさん、声を落として話を続けます。
「潮目が変わるかもしれません。このまま力押しをされるのも結構ですが、別の選択肢をお考えになっても損はないかと・・・」
「・・・もう少し詳しく話を聞かせてもらえぬか?」
ルドラさん、大公殿下の言葉に満足げに頷きながら、龍の兆しと、アルージュ殿下のお相手について話し始めました。
話し合いは遅くまで続けられ、ルドラさんは数日後、パルバク王国の都ヴィラハを後にしました・・・。
ルドラさん、訓練校開校の交換条件で、この縁組の橋渡しを頼まれていました・・・。