石室の舞
命を継ぐ者 (ラシル)の旅-逃亡編、第51部の続きです。
薄っすらと横たわる青い騎士、その前に置かれた金の指輪、魔方陣が揺らめく中、私は舞を続けます。
「地主神の働きに感謝と寿ぎを・・・」
目は、ただ開いているだけ。頭を切り離し、お腹の下で体の前を触れるように視ます。そして、
(触った・・・)
私は、目の前の空間と自分のお腹の下、新しい時の流れが繋がるのを感じます。そのまま、青い騎士と金の指輪を軸に、右に回りながら舞を続けます。
「この石室を作り給うた者へ、感謝を・・・」
私は、ザムの地で遺跡を築き上げた龍族に思いを馳せます。
突然、感情が溢れ出します。消えゆく同胞達。それでも、後世に残す使命感で動き続ける人達。これは、この石室を守り続けた龍族の人達の思い?
「貴方達の思い、必ず私が受け継ぎます!」
そう宣言すると、美しい一本の糸、天井の真ん中から降りてきます。
その糸、放射上に並べられた床の真ん中へ。仄かに灯ったその光、ゆっくりと右に回転を始めます。
「水が・・・!」
石室の床、その糸を伝い水が染み出してきます。いえ、目に見えない水? 確かに何か濃密なもの、溢れ出してくる。やがて、それは石室の中、静かに満たしていきます。
やがて、石室いっぱいに満ちたそれ、光の泡があちこちで湧きあがります。
(息ができるのね。でもこれは一体?)
その濃密な何かの中、私の動き無駄が省かれ、突き動かされるよう舞続ける私。
(まるで、神様のお手本に合わせて、動かされているみたい・・・)
いつの間にか、背後の龍、巨大な姿がさらに広がり石室を押し広げようとします。
(封印を、押し広げようとしている?)
「赤龍、聞こえる?」
「ええ、姐さん!」
私は、指輪に向かって話しかけます。
「この石室が、解き放たれたら出番よ。わかっているわね?」
「あの、姐さん」
「何?」
「パルバクの戦場焼いたこと、まだ怒っている?」
「・・・」
王宮でご老公様に言われたでしょ? あなた達の加勢がなければ王宮危なかったって。
「じゃ、じゃあ・・・」
「ええ、もう怒ってないわ。赤龍、あなた達よくやっているわ。今、貴方だけが頼りよ!」
赤龍、その言葉に安堵したのか、任せとけ! と意気揚々。 その間にも、どんどん広げられる石室。もう継ぎ目から、光が漏れ始めます。
薄っすら横たわる青い騎士の左目に、指輪を押し当てます。すると、その姿、指輪に吸い込まれるように消えていきます。
その瞬間、周りの景色が突然変わります。石牢の中、そこには、横たわる青い騎士とそれを取り囲む頭巾姿の男達。そして、今、まさに誰かが石牢の扉を開けた所。
「赤龍、今よ!」