修行道場1
「続・命を継ぐ者 (ラシル)の旅」、第61部、戦いの後、に続く私、ラシルの話です。
「龍巫女様、ここにいる巫女達で歓迎させていただきます」
私の前に跪いた巫女、入り口に龍の浮彫が飾られてある洞窟の奥へと、私を案内します。交差した回廊をいくつか抜けると、そこに大きな部屋がありました。
周囲は、祭祀の様子など、壁画が描かれています。
そして放射上に敷き詰められた石の真ん中に立つ石柱、鳥や、猿の浮彫が施されています。その奥に、磨かれた黒い石棺らしきものがあります。その脇で、巫女は再び跪きます。
「龍巫女様、龍神を昇天させ指輪を手にした貴女様は、三箇所の封印を越えられました。古の伝承に従い、神殿の代表者が、ユミル、アルシュ、パルバク、この3国を統べる者として貴女様を認定致します!」
「はい?」
私の困惑を他所に、気が付けば、出迎えてくれた白いローブ姿の三人の男達、その言葉に無言で頷きます。
(そういえば私、言われるまま考えなしに龍の浮彫に指輪を押し付けたけど? 三国を統べるものって何・・・?)
「これから、この石棺の中で宣託を受けていただきます」
いつの間にか焚火が用意され、草が燃やされます。次第に部屋に煙が立ち込めてきます。
私は、ふわふわした意識の中、杯に入れた何かを飲まされます。次第に抵抗する気力も起こらず、自分で立てなくなった体を巫女達に抱えられます。そして、丁寧に石棺の中に寝かされました。
「龍巫女様、貴方様がどのような選択を選ばれても、私達はそれを尊重いたします」
その言葉を聞き終わらないうち、巫女の一人が杯を地に投げつけます。
パリーン! と何かが割れた音が聞こえたと思ったら、私は石棺の中で動けなくなっていました・・・。
石棺の中、意識は朦朧としているのに、不思議と周りの光景が見えます。巫女と神官達は、一度石棺の中の私を覗き込み、頷きあって部屋を出ていきます。
口を必死に動かそうとします。でも、思い通りに動かないのです。
(こ、怖い・・・)
やがて、胸の奥から何かが漏れて行くのが分かります。それが進むにつれ、足元から何かが小さな声で叫んでいます。
(まだ死にたくない、まだ死にたくない!)
「え? 何・・・?」
なんと、自分の足先から脛の表面が大合唱をしています。私は、胸の奥から漏れていくものも、足元から聞こえる大合唱も、自分の力で止めることが出来ませんでした。
ごめんなさい。こんなにも自分の事に対して無力だったなんて・・・。