無敵将軍
今から数百年前、ラシルさんが水晶玉の道標に導かれ渡ってきた古戦場が舞台です。大将同士一騎打ちが、もう数時続いています。敵味方共に、ただその行方を見守ります・・・。
そして、どうやらついに決着がつきそうです。老騎士が、苦闘のすえ鎧武者の剣を叩き落とします。そして、兜を跳ね上げ剣を突きつけます。すると、そこには長い髪と美麗な面立ちが現れます。
「勝負はついた。さあ、殺せ!」
「まさか・・・・」
老騎士は、信じられないものを見たという目で若武者を捉える。
「ぬかせ、このザルード1世、剣を持たぬ者に手を掛けたことは一度もない・・・。しかし、あの龍使いと謳われた者がまさか・・・」
この者に儂が一騎討で後れを取りそうになるとは、老いは取りたくないものだ、と呟く。
「こちらも、龍が封じられるとは思わなかった」
「どうだ、我が国の術師共もなかなかやるであろう?」
鎧武者の思わず発した声に、少し機嫌を取り戻す、ザルード1世。
「もう行け! 実はこれ以上お前と遊んではおれんのだ。我の真の敵は別におる!」
「西の蛮族神か・・・?」
「分かっておるなら話が早い。お前との再戦は、機会があれば別の戦で、ということにせんか?」
その言葉に、しばらく考え込む美麗な面立ち、突然指輪を外しザルード1世に放り投げます。
「これは何じゃ?」
「龍から受け継いだ指輪、預けておこう。我が命の代金として。もしも再戦がなされなかった場合、その指輪は、将来お前の子孫の危機を救うであろう・・・」
ザルード1世は、指輪を受け取り、心得た、と呟く。そして、軍団を率いて西に向かったのでした。
・・・・・・・・
こちら、婚約の打診がアルシュ藩王ルドラさんからもたらされ、婚約者当人同士の顔合わせが行われる前日の話です・・・。
「アルや・・・」
「はい、御祖父様!」
「これをお前に渡しておこう・・・」
アルージュ卿、ザルード大公からそう言って渡されたのは、銀の指輪でした。
「その指輪は、元々ユミルのある御仁のものだった、と父祖より伝えられておる。お前がユミルから来る婚約者殿を気に入れば、それを渡すが良い。ユミルのものは、ユミルへ返すがよいと思うてな・・・」
アルージュ卿、指輪手に取り眺めます。何かの印なのか、数本の刻印が施されています。
「御祖父様、この指輪の持ち主はどのようなお方だったのでしょう?」
ザルード大公、孫息子の問いに遠い目をして彼方を見ます・・・。
「今から数百年前、二匹の龍を操って各地を破竹の勢いで進む者がおったそうじゃ。それ故、無敵将軍と呼ばれておったらしい・・・」
そういって、大公殿は微かに笑うのでした・・・。