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ポスト・ディズィーズ ~病が全てを変えた世界の治療は拳~  作者: ジラフ
第一章 大都市ジェンナーの『拳帝』
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元患者の秘書

 朝、目が覚める。すると自分以外の気配を感じる。


「……何やってんだ」

「あ、おはよーごあいます。お早いお目覚めれすね」


 布団に潜り込んでいるのは小学生くらいに見える女だ。ここで少女ではなく女と言ったのはこいつの中身が歴とした成人だからだ。こいつの名前はピクスィ、俺が治療した元患者だがレベルⅤまでいっちまったせいで身体が子どもになったまんまだ。もともと有名なホステスだったらしいが、こんな身体になっちゃ商売にならねえってんで俺に面倒みろって押しかけて来やがった。それで今は秘書の真似事をさせている。


「お前なあ、俺の予定管理とかするのが秘書じゃねえのか。寝てて良いのかよ」

「もう終わったのれす。だから寝て居るンれすよ」


 舌足らずなのも後遺症だ、とんでもねえ話術の使い手だったらしいがこうなっちゃかたなしだな。とはいえ本当に仕事はできている辺りやり手だったことが窺える。これなら子どもの姿のままでも仕事できるんじゃねえかと言ったら、そこから一ヶ月口を聞いてもらえなくなったからもう言わないことにしている。


「んじゃ起きるか」

「下の方は起きないんれすね、もしかして不能れすか?」

「朝っぱらから下ネタは止めろ、知ってんだろうが。俺たち異師の身体はもう普通じゃねえ、血も肉もな。子どもを作る機能なんざ真っ先になくなった」

「つまんないの」

「つまるも、つまらないも。それがあったとしてお前がどうするってんだ」

「小さい身体れも、れきることはあるんれす」

「やめろやめろ、服をはだけるな。俺がロリコンだと噂されたらどうする」

「もう遅いれす。周りの住民の方々には婚約者れすって言いふらしてるんれすから」

「やりやがったな……」

「子供の可愛い悪戯れすよ、それに本気で怒ったりしないれすよねえ」

「こ、の。子供と大人をコロコロしやがって」

「うふふふふふ……魔性の女れすから」

「何が魔性だ、この性悪が」

「ひどいれす!! こんなに可愛いのに」


 軽口を叩きながら支度をすませる、俺のような異師が朝起きてやることは食事でもなければ着替えでもない。それは、自分の心臓に埋め込まれた遺物の調整を行うことだ。フレアウイルスに対抗するために強化された異師に特別に与えられるものでその効果は肉体強化から特殊能力の獲得まで様々だ。なんでも、ウイルス以前では秘匿されていたものを引っ張り出してきたとかなんとか。


「すぅ……はぁ……今日の機嫌はどうだ『スクナヒコナ』」


 胸にある傷跡に触れながら語りかける、別に語りかけても返答があるわけじゃないが。それでも俺の相棒だ、フレンドリーにいくに超したことはない。


「動作確認だな」


 『スクナヒコナ』の持っている能力は実のところ全て把握できているわけではない、直接人体に埋め込むタイプがまず少ないうえに『スクナヒコナ』は分かりやすい能力を俺にもたらしてくれてはいないからだ。今のところできるのは空中を蹴ることと肉体強化くらいか。


「まず空中跳躍、良し」


 2段、3段、まだまだジャンプはできそうだ。


「身体の動きも悪くない」


 人間相手の拳法はあんまり意味が無いが、それでも基礎ができている方が良い。型をいくつかと、異形になってしまった患者を想定した動きを行う。まあ、こんなもんだろうな。


「ふぅ、飯にするか」

「準備は完了れすよ、にしても毎日つまらない食事れすね」

「それは俺も思ってる」


 俺ができる食事は特殊な成分の入ったゼリーのようなものだけだ。それ以外のものを食べられないわけではないが意味が無い。遺物を使って動いている時に消費するのはカロリーではない、言わば気力とでも言うべきものを消費している。それを補給するためにはそれ相応のものを喰わねばならないということだ。医者の不養生なんて同じものが喰えた時代の話だ。


「あーあ、わちしの料理を食べさせれば皆落とせたのにな。食べても意味ないならどうしようもないれすね」

「残念だったな、それなら落とせる奴のところに行ったらどうだ」


 あ、しまった。こういう類の言葉はピクスィの逆鱗に触れる。


「むー……」

「すまん、失言だった。もう言わん」

「今回だけ、れすから」

「ああ、気をつける」


 危なかった、なんだかんだと仕事を覚えたピクスィを今更手放すのは惜しい。


「それじゃあ、行ってくる」

「行ってらっしゃいましー」


 気の抜けた感じで送り出されるのにもなんだか慣れてしまったな。1人だったときはどうしていたか、あんまり思い出せなくなったな。


「さ、てと。とりあえずは中央に顔を出すか」

 

 フレアウイルスが蔓延した今は医療機関が世界の中心だ、患者の治療を仕切っているのも医者に仕事を割り振っているのも中央医療管理局だ。そこに行かないことには情報収拾もできやしない、その代わりと言ってはなんだがそこに行けば大概のことはできるようになったのは便利だが。


「車、っていう気分じゃねえな」


 一応乗れる車はあるが、ぶっちゃけ走った方が早く着く。今日は調整がてら空を跳んでみようか。


「空の道と行きますかね」


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