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ポスト・ディズィーズ ~病が全てを変えた世界の治療は拳~  作者: ジラフ
第一章 大都市ジェンナーの『拳帝』
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未来の医療

 新作、になるかどうかは分かりませんが、モチベーションがある限りは書き続けますのでどうか応援よろしくお願いします。

「レディース、エーンド、ジェントルメン。皆様は幸運でございます、今日のこの治療をご覧になることができるのですから。一瞬たりとも目を離すことのないように、彼は一瞬で治療を終えることで有名なのですから」


 マイクパフォーマンスは聞き飽きた、医療行為が治療室で行われるものから闘技場染みた場所で行われるようになってから随分立つ。俺も医者のはしくれだったはずなのに、気づけばこんなことになっちまった。皆で必死で治療をしていただけなのにな。


「今回の執刀医の名は、おっと、この方に限って言えば通り名で呼んだ方が良いでしょう。『拳帝ザ・フィスト』の登場だ!!」


 何が『拳帝』だ。俺はそんな名前で呼ばれることを了承した覚えはない。だが、そんなことを考えている余裕はない。今回の患者の深度はレベルⅣだ、はっきり言ってまともにやってたら治すどころかこっちが喰われかねない。


「そして、今回の患者は驚くべきことに超希少な症例でございます。神話再現型に加えて深度Ⅳという超難易度。さあ『拳帝』はどのようにして治療するのか」


 神話再現型か、そんな呼び方をされるような高尚なもんじゃない。形がたまたま神話に出るような崩れ方をしたというだけだ。人類全てが感染している病気の発作によってそうなってしまっただけなんだ。本人だって望んでそうなったわけじゃないのにな。


「『拳帝』が位置についたようです。それでは誓いをどうぞ」


 医療者の誓いと言えば、ヒポクラテスかナイチンゲールかといった風だったはずなのにな。今は違う、今の誓いはこうだ。


「我が身命を賭して、病魔の一切を滅することを誓う。我が血の一滴が病を癒やし、我が肉の一片が病を砕く、全ては根絶のために」

「それでは、手術開始オペ・スタート!!」


 目の前のゲートが開く、データは見ていたから知っている。今回の患者の名はエカーテレイアー、かつてギリシャと呼ばれていた国のあたりの生まれの女性だ。3日前に症状が悪化し6時間前にここに入れられた。特徴的な症状は……


「なるほど、これは確かにハールーピュイアーか」

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」


 人の姿を残しながら半分ほどが鳥のようになってしまっている。目にも毒々しい鮮やかなピンク色の羽は実際に毒がある、加えて特殊な声帯によって精神に揺さぶりをかけてくる。身体を浮かせるほどまで進行しているのだから確かに深度はレベルⅣ相当だろうな。


「ケェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!」

「飛び道具まであるのか、厄介だな」


 羽を飛ばすことで攻撃をすることも可能らしい。しかもそれに当たれば毒を食らう、ここまでの患者は久しぶりだ。6時間でここまで変異するのなら、あと数時間もすれば深度Ⅴの災厄になりかねない。手短に済ませるとしよう。


「少し痛くするぞ」


 足に力を込めて跳躍する、空はハールーピュイアーのテリトリーだがこちらも普通の人間ではない。空中戦の1つや2つできなければ医者などできない。


「まず1撃」


 ハールーピュイアーの腹部に掌底を当てる、表面はまだ柔らかいようだ。これならば、針も通るだろう。体勢を崩すことに成功したのを確認し、2発目の攻撃を当てるために空を蹴る。


「チクッとするぞ」


 拳を覆う手袋に仕込んだ針を露出させた、そのまま同じ場所を治療する。とても褒められた注射ではないが、相手が相手だ、仕方がない。


「アギャ!?」

「苦しいか? それは良い兆候だ」


 そのままひらひらと落ちていくハールーピュイアーを抱きかかえて着地した、そのまま落ちても大丈夫な耐久度はあるのは知っているが、それでもたたき落とすなど出来はしない。相手も同じ人間であることを忘れればこれは治療からただのショーに墜ちるのだから。


「あ、ああ、アアアアアアアアアアアアアア!!」

「く、距離が近いと、効くな」


 ハールーピュイアーの声を直に鼓膜にたたき込まれれば目眩の1つもする。これで少し安心してしまうのは自分もまだ人間なのだと確認できるからだろう。


「羽根が引いてきたな、安定期に入った証拠だ」

「あ、ああ……」


 少しずつぐったりとするエカーテレイアーはもうハールーピュイアー等とは呼ばれないだろう。また発作が起こることもあるかもしれないが、その時はまた医者が治療するだけだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「お大事に」


 聞こえてはいないだろうが、それでも習慣だった言葉を言ってしまう。これはもう染みついていて治らない。これが一種の郷愁であるのは理解している、もう俺は普通に診察して、普通に患者と向き合うことはないと知っている。


「終了!! 瞬く間の出来事でした!! たったの2撃で神話再現型レベルⅣを治療してしまいました!! これぞ『拳帝』、大都市ジェンナーの誇る英雄の力!! 彼がいる限りフレアウイルスの脅威は我々を脅かすことはないでしょう!!」


 シメの言葉を背にエカーテレイアーを引き渡す。ああ、まったく、世界は変わってしまった。















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