第一話 勇者
時折、この世界には魔核と呼ばれるものが出現する。
そしてその魔核は魔物を生み出し、生まれた魔物は人々を襲い恐怖に陥れる。
魔物の出現を食い止めるには魔核を破壊する他ない。
魔核を破壊しない限り魔物が生まれ続けるからだ。
しかし魔核は通常の物理や魔法攻撃では破壊することができない。
そんな魔核を破壊できる特別な存在がいた。
女神の印を受け、破壊できないはずの魔核を破壊し、人々を恐怖から救う。
そんな存在を人々は勇者と称えた。
ここはグランディア王国から西にある森林。最近魔物が増え魔核が出現したのではないかと噂される場所だ。
そんな森で魔物と戦う一人の青年がいた。
『とりゃああああっ!!!』
放たれる鋭い斬撃。
しかし相手はそれを間一髪で回避する。
そして相手の反撃。体当たりだ。
青年はそれを避けられず腹部に喰らってしまう。
『ぐはっ!』
しかし青年は倒れない。
決して敗北してはならない。それが自分に課せられた使命を果たすためだからだ。
青年はよろつきながらも次の一手を放つ。剣を低く構え突きを放つ。
『はぁああああっ!!』
放たれた突きが魔物の核に当たる部分に当たる。
すると相手は崩れ落ち、跡には染みだけが残った。
『はぁはぁ……』
満身創痍で息切れのする青年。
切れた息を整え青年は思わず叫んだ。
『俺よええええええええええええええええっ!!!!!!!!!!!!』
そう彼は勇者アレス。女神より印を授かり人々を救う存在。
そして彼が戦っていたのは推定Lv1のスライムだった。
近くの街へと戻ったアレスは冒険者ギルドへと来ていた。
『えーっと、アレスさん。今回の成果はどうでしたか?』
受付のお姉さんが困ったような微妙な顔で聞いてくる。
『……一体です。』
『え?なんて?』
『……小さなスライム一体です』
『……』
『あの……女神の印をもう一度見せていただいてもよろしいでしょうか?』
『……はい』
そう言ってレウは手の甲でぼんやりと光る印を見せる。
『確かに女神の印ですよね……でも過去のデータからしてもスライム一体倒すのがやっとな勇者さんは歴史上初めてかと』
この世界に存在する勇者はアレス一人ではない。何人か存在し、その各々が魔核の破壊に勤しんでいる。
しかし、かといってアレスを遊ばせておくほどこの世界には余裕がない。
近年魔物が増えており、魔核の出現頻度が高まっているとまで言われているのだ。
『魔核を破壊したことはあるんですか?』
『えぇ、住んでた村に現れたことがあって、そのときは魔物が生み出される前だったので簡単に壊せました。』
『そうなんですね…』
『ちなみにパーティは組まないんですか?』
提案をしてくるお姉さん
『パーティってどうやって組むんですか?』
質問に質問を返すアレス。
『え、そりゃ自分からパーティ組みませんか?って話しかけたり仲のいい友達を誘ったりですかね』
『はっはっは、そんな勇気のいる行為、俺にできるわけないでしょう』
アレスは笑った。コミュニケーションの苦手なアレスは知らない人に話しかけるなどできるわけがなかった。
もちろん友達と呼べる相手もいない。この街で話せる相手といえば受付のお姉さんぐらいだ。
そしてアレスは遠い目をしながらこう呟いた。
『こうして勇者アレスの冒険は終わったのであった。』
『いや、終わったらダメですって!ねぇ!』
ツッコミを入れるお姉さんであった。
一応続きます。