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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

どこにでもある、普通の話

作者: ユウマ

プリザ。


俺が生まれたこの国は、国王による王政が行われ、半ば上層部の人間による独裁で成り立っていた。


上流貴族共は、平気で私腹を肥やし、国の端に集まる賎民に何かを与えることは無い。


賎民は重労働を課せられ、奴隷と化し、数は多くともその全てが労働力として解釈される、そんな世の中だった。


まぁ、典型的な、王権国家だった。


さて、どこから話そうか、俺は幼い頃、親父もお袋も、その重労働に耐えきれず、過労死し、齢7歳にして孤児となっていた。


この国に孤児を保護する制度も施設も、そんな余裕のある人間も、心の広い人間もいなかった。


俺はそんな国を憎み、かと言って死ぬわけにも、ましてや他の国へなんて知識も無く、道に出ている露店の飯を盗み、孤児同士結束して生きていた。


ここに集まるのは、気に入らないからという理由だけで引くほどの暴力を受け、またその状況を良しとする人間から疎外された人間達なのだ。


俺はというと、たまたまある騎士が隠れて剣術の鍛錬に励む場所を見つけ、見て、技を盗み、己も体を鍛え、腕っ節の強い子供だったので、孤児グループの長となっていた。


グループを統率するには、ずば抜けた才能だったかもしれない。


だが、それは反逆者になる器ではなかった。


この頃、この情勢を打開しようと沢山の英雄候補が武器を手に声を上げたが、王国の誇る騎士団は圧倒的だった。


飯もまともに食えず、ひたすら働く衰弱しきった人間が勝てるほど、甘くは無い相手だった。


俺もこの頃はそれを悟り、剣でこの長の立場を守り、グループの統率することしか頭になかった。


あぁ、そうだ、そんな時に事件があったんだったな。


それは俺が仕切っていたグループの1人が、大人の賊に捕えられた、なんて事件だった。


山賊、海賊なんて言わないが、俺たちのグループの大人版が、各地で商人なんかを襲ういわゆる賊行為を行うことを生業として、組織化しているなんて治安の悪いこの国では当然だった。


まぁ子供はこの国のゴミのような雇う側の人間に、高くで買われる。


女児なら体を使う仕事をさせられ、男児なら盗みと労働を併用して行われ、飯はろくに食わせてもらえず日々暴力を受け…、いや、この国の荒み具合はそろそろ説明も要らないだろう。


その事件の解決に当たるべく、俺は重宝していた金属でできた廃材を握りしめ、奴等のアジトへ単身乗り込んだ。


攫われた子などどうでも良かったが、この事件を機に俺が失墜するのはこの先生きていく上で非常に困る。


だから行った、が、少しばかり腕の立つ程度の俺では、歯がたつわけもなく、とにかく結論から述べると、重傷を負いながら仲間の奪還には成功した。


今思えば力技だった。


相手を攻撃することを早々に諦め、隠れ家の要所を傷つけることにシフトした。


案は的中し、時間をかけてやっとこさ家が崩れて奪還と逃走の手はずが整った頃には、俺も連れも、重傷だった。


限界かな。


そう考えた俺達はは帰路の途中にある森に身を潜めた。


背中に背負う子供ももう目すら開いていない。


乱暴に彼を下ろし、俺も隣で休もうとした。


座り込んだ時に、ガサッという音に反応し、その方向を向くが、既に隙はつかれていただろう。


追手だと思っていた俺はこの時に、命を諦めた。


だがそこから出てきた人影は驚くべきか、俺を見て驚いていた。


いや、それは俺も同じだった。


年は俺より五つは上だろうか、綺麗な金髪を胸まで流し、澄んだ海のような青い瞳をしていて、肌は雪のように白い少女が立っていたのだ。


「…どうして姫様がこんな所にいるんだよ。」


そこに居たのはプリザの国王の一人娘である、カブザ……、プリザ.カブザだった。


まごうことなき俺の敵、の筈だった。


「貴方、怪我しているじゃない、それも大怪我を!」


その少女は綺麗なドレスを纏ったまま、躊躇なく血だらけ埃だらけの俺に抱きついた。


「…ドレス、汚れんぞ。」


前にも述べたが、俺は既にこの時命を諦めていたし、ましてや抵抗する気力など残っていなかった。


「構わないわ、こんなもの、着飾っているだけで実際は綺麗でもなんでもないもの。」


「…何も知らねえんだな、お嬢様はよ。この国の汚い部分、闇の部分なんて見ずに、こんな綺麗な服を見ても綺麗じゃないなんて感想が出るなんてな。」


「だからよ。」


「は?」


「貴方が言う、この国の、それこそ私達の階級の人間達が目を逸らし、あるいは睨みつけて、蔑んでいる闇の部分で作られたドレスなんて綺麗じゃないと言っているの。本当に綺麗なドレスは、幸せにあふれた、皆が漏れなく心の底から笑顔でいる場所で作られたものよ。そして、そんな幸せの国の人間が着て初めて、このドレスは美しく映るのよ。」


俺は息を飲んだ。


俺が妬み、恨み続けたこの国のトップは、こんな女神のような容姿で、女神のような考え方を持っていたのだ。


「…どうして一人でこんな所にいるんですか。」


「どうして急に敬語なの?」


彼女は美しい顔で光を放つかのように、クスクスと笑った。


「敬語というのは、敬うべき人間に使うらしいです。」


「私がそうだと?」


「えぇ。…一つ聞いてもいいですか?」


横になった俺の頭を膝にのせた少女はきょとんとした顔をしてこちらを向いていた。


良くも悪くも、純粋か。


「何かしら?」


「貴方は今のこの国をどう思っていますか?」


少し顔つきが変わった。


「…今のこの国は、最悪だわ。でも私にはこの国を変える力はない。政治というのは男の人がするものだし、私に出来ることといえば、貴方のような無謀なやんちゃ坊主を助けることくらいよ。」


そう言って少女は物憂げに笑った。


「…心の底から幸せなんて感じたことはない、けれど、幸せに満ち溢れた場所へ、この国を、私の大切な人達をおいてはいけない。」


「…大切な人…ですか?」


「ええ、君のような子のことよ。こんな国でも、未だに頑張ってこの国で生きてくれている、貴方達のことよ。いつか私は、そんな大切な人みんなを幸せにしたい。」


そんな事を今まで憎んでいた、敵と思っていた人間が言うものだから、俺の思考回路もまともではなかったのだろう。


「…王女…いや、カブザさん。」


「なぁに?」


暖かな笑顔を浮かべる彼女は、彼女の理想とする国を示唆するかのようだった。


「俺がこの国を、貴方の言うところの、“誰もが幸せの国”に変えてみせますよ。」


「あら、逞しいのね。」


そう言ってクスクスと笑う。


だが俺は本気だった。


「もし俺がこの約束を果たしたら、カブザさん、俺と結婚してください。それで、2人で幸せの国を見守っていってください。」


人生初の、告白だった。


ふと彼女を見ると、彼女は自分の顔を真っ赤に染めていた。


「……貴方、名前は?」


「…ミルミ。ミルミ・アルカイデ。」


「そう、ミルミ。約束よ。私の為に、きっとこの国を幸せにしてください。そして、私の事を、迎えに来てちょうだい。」


そう言い残して、彼女は元来た道へ帰っていった。


「えぇ、必ず。」


俺もそう残し、アジトへ向かった。


あれから10年が経った。


彼女は既に成人を果たし、婿がどうのなんて噂を聞いていた。


だがまだ結婚していない彼女を見て、俺は約束を覚えてくれているのだと、そう確信していた。


「リーダー、行きましょう。」


「…あぁ。」


隣にいるこいつは、かつて俺が助けた少年、ラルズ・マイルドだ。


俺はあの後直ぐにグループを抜け、革命を起こす為の準備を開始した。


と言っても、ひたすら鍛錬に鍛錬を重ね、時間は過ぎていくだけだった。


ラルズは俺に恩を感じたのか、気付けば俺の後ろについてきていた。


彼も俺の考えに共感し、鍛錬に付き合ってくれた。


国の保有する騎士団に対抗すべく、俺はこの想いに共感する仲間を、もとい人数を集めていた。


時には戦う事もあったが、それなりに力を付けてから行動を開始しているので、力で歯向かう者には全て力で圧倒し、従わせた。


国を一度滅ぼす。


生半可な力では、先人の二の舞になるだけだ。


俺はこの10年、自らを地獄においてきた。


元々の実力に努力を重ね、さらには胸に、確固たる想いがある。


はっきり言って、怖いもの無しだった。


そうして今や殆どの奴隷を解放し従え、騎士団も対抗できる反逆軍団を組織していた。


奴隷を解放する為に各地で騎士団の分隊と応戦する事もあり、俺の名はそこそこ有名になっていた。


“片腕の青鬼”


俺たちが反逆軍として騎士団、いや国に認識されるようになった頃、当時一番の武闘派を誇っていた圧力団体、“ミオ・パーツ”を手中に収めようとしていた時だった。


俺たちは数も質も圧倒していた。


「俺に付くか、ここで全員死ぬかだ。」


トップのミオの喉元に左手で握った剣先を突きつけていた時だった。


突然、左腕の感覚がなくなり、落ちているそれが、自らの物だと認識する。


痛みはなく、吹き出す血飛沫と、状況確認に気をとられる。


とっさに落ちた剣を右手に持ち替え、二刀目を裁く。


騎士団…!


「ミルミ・アルカイデだな。」


「……知ってんのかよ。」


数太刀交わす。


そして気づく。


俺はこいつの太刀筋に覚えがある。


「…貴様、あの時のガキか?」


「誰だよ。」


「俺が気付いていないとでも思っていたのか?」


ふと、鎧の首元を見る。


“クシャトリア・ミラルトリア”


「……騎士団長様かよ!」


ギイィィィン、と大きな音がなるほど交わした刃は奴の剣を地に落とした。


「撤収!」


その一言とともに、騎士団は早々と撤退し、俺も損傷と本来の目的を考慮し、深追いはしなかった。


そんなこんなで俺は片腕の代償に、密かな師が団長であったことと、ミオ・パーツと、“片腕の青鬼”という異名を手にした。


俺たちがこれから侵攻する事を悟ったか、騎士団は城の周りを囲っていた。


「行くぞぉぉぉ!!!!!」


「オオオオオオオオぉぉぉ!!!!」


かつてガキ大将だった俺も、今や反逆軍の主犯、リーダーだ。


あの時、夢を貰い、目的を見て、愛を知った。


愛が最も強く、彼女の望む世界で彼女と共に生きたい。


その思いは、片腕を捨てた今でさえも揺らがない。


ピリピリとするかけ声とともに俺たちは街へ下り、騎士団と衝突した。


最前線に屈指の武力を持つミオ・パーツを配置し、俺とラルズは最後方に座った。


奇襲対策だったが、思うように進撃できない。


「ミオ・パーツも期待外れですね。」


「所詮は族だ、ラルズ、ここを頼めるか?」


「任せてください、死んでも後ろは守ります。」


“片腕の青鬼”の背中を守る。


かつて酒の席でそうこぼした彼にとって、今がその一大事なのだ。


「…死んでは困る。」


「ミルミさん、貴方もですよ。」


そう言って笑ったのを確認し、俺は最前線へ駆け抜けた。


ワーワーと騒ぎながら、まさに戦場と化した血祭りを繰り広げるミオ・パーツ前線には、もはや幹部が幾らか残っているだけだった。


俺は犠牲者を確認する事もなく、素早さだけを意識して駆け抜け、道中片手にしっかりと握った剣で騎士団の兵どもを切り倒していった。


返り血を浴びる事もないほど速度を上げ、最前線に到着し、ミオが苦戦していた騎士団の一部隊を全員、いや一名を残して俺は切り捨てた。


かつて行商人で賑わったこの地も、今は血とゴミのように倒れる死体のみが落ちている。


さぁ、あと1人という時だった。


振り下ろした刃はまたしても見覚えのある刃に防がれた。


「…また邪魔すんのか。」


「お前、何故鎧を着ない。俺は片腕のみの剣術の鍛錬は行なっていないぞ。」


“神速の聖剣”の異名を持つ騎士団長には、鎧を着た俺の速度では歯が立たない、それだけの理由だったが、俺は敢えて言うのを避けた。


「つかお前、どこから来た。」


後ろから来たように見えた。


「…ラルズ・マイルドか。」


「てめぇラルズを…」


「彼もお前が仕込んだのか?中々の太刀筋だった。俺が率いていた部隊が全滅だ。」


ハッとした。


「騎士団は……」


「残っているのは俺とそこの1兵のみだ。」


死んでも守る、か。


馬鹿が。


いや。


他人になんて、ましてやラルズになんて興味もない俺だったのにな。


「……提案がある。」


刃同士が火花を散らす中、どちらも未だ動けないでいる。


力勝負、なう、だ。


「んだよ。」


「敢えて俺はラルズ・マイルドにとどめを刺していない。今すぐお前が駆けつければ奴の命は助かるだろう。」


姑息な…。


「…だからどうした?俺もお前も、大量の仲間の命を捨て、自らの命さえもかえりみず、たった一つの目標に賭けてきた。今更奴の命など、惜しくはない。ここでお前を倒せば、俺たちの勝利、絶対王権の崩壊だ。負けられねんだよ、奴もそれを望んでる。」


「それがお嬢様の望まぬ事でも、そう言えるか?」


「あ?」


瞬間、一体残しておいた兵が兜を脱いだ。


「……通りで1人だけ鈍いと思ったんだよ。」


「本当に、大きくなったのね。」


「俺のお陰ですよ。」


そう言って目の前でぬるく笑う。


「何がてめぇのお陰だ。」


「何度も言っているだろう。俺がガキのお前の気配に気付かないとでも思うのか?」


理解出来ない。


この状況が、全く。


何故今姫がこんな所にこんな格好で出てきているのだ。


「…俺は強い、だが革命は起こせない。姫の前でこんな事を言うのもなんだが、所詮俺など力を持っただけの、愚王の所有物に過ぎないのだ。…俺はな、俺を殺してくれる人間を探していたのだ。」


「…てんめ…。」


「俺を圧倒し、この国をも圧倒し、新たな王に、そんな奴に革命を起こさせたかった。お前は自分を俯瞰して見ているが、初めてお前が俺を見た時の目は、姫の瞳によく似て輝いていたんだよ。」


「だから利用した、のか?」


ワァァァァっと、援軍が押し寄せる。


「最後の願いだ。」


返事をする間もなかった。


「姫を守れ、お前が勇者だ。」


呪文のように唱えると、奴は刃を滑らせ、俺の刃で自らの首を刎ねた。


多少の動揺はしたが、俺も命を預かっている。


「姫、こちらへ!」


俺は雑に姫を背負うと、口に刃を咥えて援軍をなぎ倒す。


その上に立ち、姫を立たせ、片腕に刃を持ち替えて、首元に突きつける。


「聞け!!!」


ざわつく。


「ここにあるのは、お前らの玉である、プリザ・カブザだ!この女の首を刎ねられたくなければ降伏しろ!そして王族、貴族どもを差し出せ!」


完璧な作戦だった。


こうすれば、邪魔な人間は全て排除し、姫だけを残しても疑われない。


場面は飛び、ことは俺の予想通り上手く運ばれ、俺は王族や貴族の断罪を行おうとしていた。


結局、姫の命さえという想いで王族が降伏、その下の貴族もつられて降伏。


姫のみを残して残りは斬首刑という結論だった。


「…今こそ、絶対王政の崩壊の時である!!」


そう叫び、役の人間が首を跳ねる。


次々と、人の命を奪ってきた人間の命が奪われ、人はその様子に歓喜する。


この国も終わりなのだ。


自らは手を下さず、こんな時のみ参加する。


俺から見ると、皆揃って価値がない。


だが、俺にとっての玉は、こんなものにも価値を見出した。


全員の刑が執行された時、俺は夢が叶ったのだと、安堵していた。


隣に座らせていた姫も、どうやら同じ感情のようだ。


これからは、俺も俺が大切に思うこの人も、この人が大切に思うこいつらも、本当の意味で幸せになれるのだろう。


そう思った刹那、姫の胸元から刃が突き出した。


俺は姫を抱きかかえる。


「……私の考えていた通りね。」


「いーから喋らないでください!」


この様子を見れば、俺と姫が内通していたことなど一目瞭然だったのだろう。


「…貴方は魅力に溢れていたのよ、羨望は呪いのような力があるわ。今貴方が私のために大量の人を殺せたことも、私が、貴方のその様子に感謝をしていることも。」


そう、犯人はラルズだったのだ。


これの手ではこの女に手をかけられないが、俺ならと踏んだのだろう。


「…姫、俺はどうしてもこの国の民にも、この国にも価値を見出せません。俺の大事なものは貴方だけだ。ここで貴方が居なくなってしまえば、俺はもう俺にさえも価値を感じられない!だから…」


「……ごめんね、でももう終わりにしましょう。これからは貴方は、私なんかが居なくても…。」


「姫!!」


はは、。


もう全てがどうでいい。


俺は、何よりも大切な、俺自身よりも大切なものを失ったのだ。


「ミルミさん!やってやりましたね!今日からは俺たちが、この国の覇者ですよ!」


………。


そう言えば、記憶もない程昔に、母から聞いたことがある気がした。


「お母さん、どおしてそんなに働くの?」


「ミルミ、覚えておきなさい。どれだけ辛くても、大切なものを守る為に生きるとその人は幸せなのよ。ただ、やり方を間違えてしまうと、全て台無しになってしまうのがこの世の理なの。」


「ことわり?」


「…貴方にもいつか、分かる時が来るわ。」



「…ミルミさん?」


一筋の涙が、頬を伝い、姫の、俺の大切な人のほおに落ちた。


「…あぁ、そうだな。」


ーーーーーーーーーーーー


「かくして、中世に最も繁栄したプリザ王国は国王のミルミ・アルカイデが反乱軍のミオ・パーツに敗戦してから、衰退したわけだ。」


と、禿げた日本史教師がドヤ顔で言ったところで授業の終わりを知らせるチャイムが鳴った。


「…はぁ。」


青い空の下で、そんな話を聞いても、何一つ分かることは無い。


この平和の中で、戦乱の中の悲しみなんて理解できるかよ、なんて。


黄昏てる俺の隣の席の奴が、声をかけてきた。


「…ねぇねぇ、さっきのミルミって王様さ、左腕が無かったらしいよ!君みたいだね!」


俺は生まれつき、片腕が無い。


性格のせいか、いじめられるなんてこともなかったし、どちらかと言うと友達には恵まれている方だとは思うが。


「普通そういうデリケートなことを人に言うか。」


「ええーー、いいでしょ別に。バカにしてるわけじゃ無いんだし、国王だよ!?こ・く・お・う!!」


高校生にもなって頬を膨らます彼女には、知性のかけらも見つけられない。


「そう言えば、そのミルミ王と恋仲だったって都市伝説のカブザ姫は、ちょうどお前みたいに金髪で、青い目をしていたらしいぜ。」


「え…!」


嬉しそうに、頬を赤くして俯く。


それを見て、なんだか俺もむずかゆい感情になって、そっぽを向いてしまう。


「……ま、まぁ!姫はお前みたいなバカと違って、知性の溢れる方だったらしいけどな!」


「な、何よ!王様だって、あんたと違ってもっと魅力的だったっての!」


と、言い合いに結局なってしまう。


「先輩!部活行きましょう!」


「2年はもう一限あるんだよバカタレ。」


「おい、何してるんだ、早く部活に来い。」


「だから、2年はもう一限あるっつってんでしょ!てかなんでOBが毎日毎日部活来てんだよ!」


「剣道ってのは、サボったらダメなんだ!」


「とか言って俺らのこといじめたいだけのくせに。」


「楽しそうで良いね!」


楽しそう、か。


な?


こんな誰もが幸せの中で生きる俺たちに、命がけで幸せの世の中を作ろうとした人の気持ちなんて理解しえないんだ。


ただ…いや、ただの思い過ごしだろう。


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