少年達の、それぞれ大事なプリンセス
いつもひとりぼっちだった。
でも、誰かと一緒にいる理由なんて別に無かったし、君がいればそれだけで良かった。
他人はいつも群れを為して、暇潰しで弱い者を叩きたがる。
まるで自分が一番下ではないと確かめるように、自分より劣っている者を見つけては集団で標的にするんだ。
大人たちだって、本当にぼくのことを心配している奴なんていない。
いつだって自分たちの都合だけで物事を円滑に進めようとする大人たちは、ある意味いじめっこの子供よりもタチが悪いかもしれない………
「…君は…この場所がお気に入りなのかな?」
「………」
ほらまた自らの株を上げるためだけに、外の人間がぼくを群れの中に入れようとする。
おまえなんかに関係ないだろう……ぼくは独りが好きなんだ。
彼女がいればそれで良いんだ。
「…君は私の知っている子によく似ているよ……」
そう言ってしわくちゃの手でぼくの頭を撫でたその人は――ぼくの想像よりずっと悲しそうな目をしていた……
「君がどう生きるのも君の自由だけどね……ひとりぼっちは、やっぱりさみしいものだよ……」
「……ぼ、ぼくはひとりぼっちじゃないよ……ここ、この子がいるから。他の奴らと群れる必要がないだけ……」
…初めはいつものように無視するつもりだったけど……その人の悲しそうな顔を見ると、勝手に返事をしてしまっていた。
「おお…そうかね……うん、彼女のこととても大事にしているんだね……」
その人はぼくに話を合わせてそう言ったという感じではなかった……なんだか不思議な話だけど、本当に彼女と話をしてそう思った…そんな風に思えた。
「君が彼女を大切にした分だけ、彼女は君の力になってくれるよ」
「……ど、どういうこと…?」
「なあに。この歳まで生きていれば、少し先のことだって分かるようになるのだよ……」
……そんなことを言われたって信じられる訳がない………だって彼女は――人間じゃないのに……
頭ではそう思っていながらも、何故だかぼくはこの人のことだけは信じても良いとそう思った。
―――
「―っおらあああ!!!!」
「…!……!!」
理性を失って荒ぶるフィルの一撃を、あろうことか彼が受け止めた……
そんな目の前の現実を理解することが出来ないセシリオは、ただ呆然とそれを見ていた。
「ッ!!んだよオマエ……!!」
確実に一撃で仕留める気でいたのだろうフィルも予想外の展開に戸惑っているようだ。
大剣を持つ手にさらに力を込めなんとか相手をねじ伏せようとするフィルだが、相手が怯む様子はない。
「…彼はなんと勇気のある方でしょう……私共にセルディアの危機を知らせてくれたのも彼なのです」
指先から蜘蛛の糸を出し、周囲の魔物たちの動きをまとめて封じながらファースが言った。
…第一印象だと、“彼”と“勇気”はおよそあり得ない組み合わせのように思えた。
しかしファースの言う通り……今の彼の行動を見ると――
「…ああ……本当に…立派だよ―――ワイト」
あの日ほんの一時の間、行動を共にしたとても臆病な少年が……怒りに任せたフィルの一撃を、なんとあの巨大な藁人形だけで受け止めているのだ。
「…ッ!クソッ!!何しやがった!!」
フィルは大剣にさらに強い力を加えようとしているのか、全身が震えている。
(…いや、待て……どういうことだ?)
いくらアミアを侮辱されて頭に血がのぼってしまったとはいえ、いつまでも力任せに突っ込めば良いというものではない……それはフィルだって分かっている筈だ。
にも関わらず彼はワイトに斬りかかってから現在まで、ただひたすら力を加え続けるかのようにずっと同じ体勢のまま固まっているのだ……
「…ぼぼぼぼぼくの……ジュリエットにささ、触ったからだよ……」
ガタガタと全身を震わせながらワイトが言う。
おかしな点はまだある。
記憶の中でのワイトはかなりひ弱な少年だったはずなのだが、フィルの一撃を何の変哲もない藁人形で受け止めた上に現在も平然としているのだ。
「…これで、きき君は……ぼくの、ターゲットだ!」
必死にそう叫んだワイトは懐から大きな釘と金槌を取り出すと、そのまま巨大な藁人形―ジュリエットに激しく打ち付け始めた。
「……ッ!!ガアッッ……!!」
するとその途端、なんとフィルはそのままの姿勢で白目を剥いて吐血した。
「……!」
周囲の魔物をいなしながらその様子を窺うセシリオ達だったが、この瞬間明らかに魔物たちの動きに変化があった。
それはまるで主導者を失ったかのように……妨害を目的とする知性すら感じられた動きが、草原に現れる獣と何ら変わりない奔放なものに変わったのだ。
「ほうほう!事前に聞いていた通りだ!…見事だねえ」
メフィは長い髪をなびかせながら、自身に向かって来るものだけを最小限の動作で始末しつつ笑う。
「ワイトに……あんな能力があったなんて……」
それに答えるように、いつの間にか傷だらけのサクリーシャがぽつりと呟いた。
「あれはジャジュの方の得意分野ですが……彼の場合は特に強力な様ですね」
ファースはそんなサクリーシャに素早くハンカチを渡しつつ、蜘蛛の足も駆使して優雅に傷の手当てを始めた。
「彼が血相を変えて走って来た時は驚きましたが……セシリオ王子のお名前が出たものですから……信じてついて行く他なかったですね」
「ん。そういうことだ!ここは私たちに任せて…どうぞ先へ!」
メフィはサクリーシャの治療が完了したのを確認すると、セシリオの目を見て頷いた。
「…えっ……」
「急ぐのでしょう?あなた方ならばきっと大丈夫…どうかこの世界をお守り下さい…」
ファースも穏やかな笑みを称えて言う。
「…ありがとう……!」
セシリオはメフィ達に一礼だけして塔の入り口へと走った。
本当にこの二人には感謝してもしきれない……これだけで別れてしまうのは惜しいが、フィルに妨害された時間を少しでも取り戻さなければならない。
そして――
「ワイト……!―ありがとう!」
フィルを拘束するのに必死なワイトには、一行の様子を気にする余裕はなかった。
彼なしには…彼の勇気と行動力がなければ、塔へ入ることすらままならなかっただろう。
あの時は何に対しても怯えて、セシリオの背中でひたすら震えることしか出来なかったワイトが……
自ら魔物たちの群れの中に飛び出して大声で敵を挑発し、さらにその一撃を受け止めたのだ……
セシリオはジャジュ村で行動を共にした頃の彼を思い、胸が熱くなるのを感じながら塔へと侵入した。




