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呪われた記憶  作者: 眠兎あみ
本編
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入山前の一悶着

「セルディアの王子↑様とキサってダチだったんか~!さっき会ったのマジ運命じゃね~!?」

 アウラーク村の長、アフロ老人ことズァザクァチャパイは豪快に笑う。

「ワシのことはザザでいーよ!ズァザとか発音しにくいっしょ!」

 とても気さくなザザは突然押し掛けた一行を快く受け入れてくれた。


「キサだってこっち風の発音だと本当は、キシァリャリューテエッダシァドって感じだし~!」

 まるで実家に帰って来たかのようにくつろぐキサは、そんなザザの言葉にうんうんと頷いた。

「あっネラムさん!ちょっとい~?」

「はい。村長。どうかされましたか?」

 ネラムと呼ばれたすらりとした女性がゆっくりと部屋へ入って来た。

 色白で鼻筋が通った彼女は、美人だがやや目付きが悪くどこか冷たい印象を受ける。

 腰の位置まで伸びた美しい髪は、先ほど会ったジーナと同じ綺麗な黒色だ。


「もーパパって呼んでって言ってんじゃ~ん!」

「……この村の長であるザザ様をそのようには呼べません」

「……そ、そか……。あっ、こちらキサのダチだからホットな飲み物でも入れてあげて~…」

 ネラムにぴしゃりと注意されたザザは肩を落とし、あからさまに元気を無くした。


「…ネラムさんはワシの息子のお嫁さんなんだけど…まぁなんつーか、ノリが合ってねーみたいな…」

 ザザは呟くように悲しげにそう言った。

 確かにこの一瞬のやり取りでも二人の間に分かり合えない何かを感じてしまうセシリオ達であった。

「ネラムさんは誰にでもああだから気にすんなよじいちゃん」

 キサはザザの背中をぽんと叩いた。



「こちらは、アウラーク大陸のみで採取出来る薬草を使ったお茶でございます…」

 ネラムは入れたての熱いお茶を一行に配った。外の寒さで冷えきった身体が芯から暖まる、スパイスの効いた辛味があるお茶だ。

「…それと…申し遅れました。私、ネラァムザァラムムダと申します。村長様の義理の娘でございます…」

 ネラムは一行に美しいお辞儀をしてみせた。


「…ところでなじいちゃん!今日は里帰りしに来たわけじゃなくてさ…」

 キサはお茶を飲みながらこれまでの冒険の話をした。

「…てな感じで…どうにか神鳥様の力を借りれねーかな?」


 キサの話を真剣な様子で聞いていたザザは、腕を組みこれまでになく低い声で唸る。

「…んん…ざっと聞いたところ問題がいくつかあるって感じ…」


「まずひとつめ!あの山はAランクのウチの地域の中でも最も危険!そもそも山頂におられるアウラ様んとこに行くまでが大変!」

 ザザはサングラスでよく分からないが険しい雰囲気を醸し出している。

 “アウラ様”というのがおそらくアウラークを守る神鳥のことなのだろう。


「んでふたつめ!登れてもアウラ様に会うには、村の後継者…つまり村長となれる者である必要がある!さらにその者には試練が与えられ、しくじれば死が待っている!」

 その言葉に全員が息を呑み、さらにネラムとキサは悲しげな表情となった。

「……この試練に失敗し、私の主人は亡くなりました……」

 ネラムは静かにそう言った。


「…ワシの一人息子だ…これ以上の犠牲者は出せねぇ!あとワシも歳で、おととしくらいからもう山には登れねぇ!」

 むしろ一昨年まで登れていたのかと、ザザの元気ぶりに内心驚くセシリオ達だった。


「…で、みっつめ!…これはあんまはっきりしてねーけどぉ…」

 ザザは少し困ったようにアフロをかき回しながら、ちらりとネラムを見た。

「いいえ、村長!絶対にそうです!…ここ数年、アウラ様はお怒りになられています!」

 ネラムはセシリオをまっすぐに見据えてそう言い放った。鋭い目付きがぎらりと光る。


「…私の夫が試練に敗れ、以降後継者はいまだ育たずザザ様がずっと長を務めて来ました…」

「そして先日…私の一人息子、ゾディドゥルキィスタが病で……」

 そこまで言うとネラムは大粒の涙を流し、ハンカチで顔を覆って泣き出してしまった。


「アウラ様がお怒りなのです!そんな中、余所者を山に入れるなど―」

「ネラムさん!その言い方はダメだ!」

 ザザは強い口調でネラムを嗜めた。


「…失礼しました……しかしこれ以上の祟りが起きては…」

「―お母さま!お兄さまはご病気だっただけですわ!祟りだなんてあり得ませんわ!」

 勢い良く部屋の扉を開き、急な横槍を入れたのはジーナであった。

 扉を強く握りしめ、小刻みに震えている…ずっと廊下で話を聞いていたのだろうか。


「ジーナ!何故貴女は理解しようとしないのです!?()()()()()()この家のたった一人の―!」

「ほらまたそうやって!女はダメだとか、長い名前だとか…この村の古いやり方がいけないのよ!」

 ジーナは顔を赤くして大声で叫び、扉をピシャリと閉めて出て行ってしまった。



 その場に気まずい空気が流れる。

 ネラムの言う通り、余所者である自分たちが守り神の力を借りようなどと、少し調子に乗っていたかもしれない…

「…見苦しい所を見せちゃったね…」

 ザザは苦笑いを浮かべながら必死に場の空気を取り繕ろうとした。


「…大体今の話で分かったかもだけど…この村は今、後継者不在でワシが死んだらアウトって感じで…」

 ザザは自身の膝に目をやりながら気まずそうに言った。

「ゆくゆくはゾディが継ぐって予定だったし…ゾディは優秀な子で……ゾディさえいれば……」

 愛する孫のことを思い出したのか、ここでとうとうザザまでも泣き出してしまった。



「…待ってじいちゃん!ゾディなら…この形見の剣がある!」

 キサはザザの言葉から閃きを得て、自身の白黒二本の長剣を取り出した。

「ほら、この黒い方!見覚えあるだろ?これゾディのなんだ!これじゃダメか?」

 キサは元々は普通の剣士だったが、元から愛用していた白い長剣と親友の形見である黒い長剣を組み合わせることで結果的に二刀流となっていた。

 その黒色の方が、後継者となるはずだったゾディの物だというわけだ。


「…おれさ、これすごく大切にしてきた…なんかここにゾディがいて、()()()戦ってくれてるような気がするんだ…じいちゃんとネラムさんも感じるだろ…?」

 キサは形見の剣をずいと差し出した。

「おお…マジだ…確かにゾディのオーラが見える気ぃする…!」

「これはゾディが片時も離さず持ち歩いていたものですから…うぅっ……」

 ザザとネラムはそれを懐かしみながら感傷に浸っているようだ。


(待て待て。キサはずいぶん戦ってはいないだろう。戦うのはいつも――ん?)

 ザザやネラムがキサと共に感動の空気に包まれる中、こっそり突っ込みを入れていたセシリオは、ここでようやくひとつの可能性にたどり着く。

 それはセシリオ以外にもサクリーシャやフィミリー、チユキも同じで、キサの『一緒に』というワードがヒントになり同様の考えに至っていた…


(ゾディって)

(まさか)

((((サドでは!?))))


 ザザやネラム、ジーナの三人に共通する黒い髪、そして瞳。

 ネラムの鋭く冷徹にも見える眼差し。

 どこか既視感を感じていたが…

 しかしここでそれを言うべきかどうか…セシリオ達はその答えを出せず、ただ黙ってキサ達を見守るばかりであった…

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